他の閲覧方法【
専用ブラウザ
ガラケー版リーダー
スマホ版リーダー
BBS2ch
DAT
】
↓
VIP Service
SS速報VIP
更新
検索
全部
最新50
柔沢ジュウ「雨か」 堕花雨「お呼びですか?」
Check
Tweet
272 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/03(金) 22:31:57.26 ID:jLp+K2AGO
マダー?
273 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/10(金) 13:30:41.39 ID:9DbOROtaO
梅雨だよ
274 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/17(金) 23:20:49.89 ID:UEX7wiA2O
ほ
275 :
◆yyODYISLaQDh
[sage]:2016/06/22(水) 20:04:31.48 ID:KzZmolM9O
長らくお待たせして申し訳ない
もうしばし
276 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/22(水) 21:38:44.46 ID:ZIVlvLnLO
おっけー
待つぜ
277 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/23(木) 02:13:02.07 ID:+SVfEIx/O
おほー待ってたよ
278 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/07/02(土) 00:38:21.30 ID:PlmpTPW+O
マダー?
279 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/07/13(水) 00:40:06.34 ID:NereEW+LO
また一から読み直した
とても素晴らしいね
読み返して思ったこと
もう1年半以上経つ
完結まで本当に6年かかるかもしれないと思った
>>47
こいつのせいだな
280 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/07/15(金) 19:50:55.95 ID:d2ufs8kWO
続きが待ち遠しくてビクンビクン
281 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/07/18(月) 00:53:36.98 ID:O8p45Egd0
おつおつ̀ー́
282 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/07/30(土) 16:03:43.71 ID:CjDn0OMRO
待ち遠しいビクンビクン
283 :
1
[sage]:2016/07/30(土) 22:33:49.07 ID:cJpH03Wz0
ほ
284 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/08/01(月) 00:13:01.94 ID:aVqDNEvMo
酉のあるスレで馬鹿か
285 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/08/11(木) 23:29:38.52 ID:/nHWEhJI0
今追いつきました
違和感がなくてすごい・・・
286 :
◆yyODYISLaQDh
[saga]:2016/08/12(金) 07:52:33.32 ID:jazHW5toO
お待たせしてほんとに申し訳ない
9月になるまでちょっとバタバタしてるので、更新はおそらくそれ以降です
287 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/08/12(金) 10:41:50.49 ID:GyaG00Ew0
あ
288 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/09/04(日) 19:35:21.89 ID:uTbQrzSO0
うー
289 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/04(日) 21:52:18.18 ID:tSZjTCY4O
楽しみに待っておるよ
290 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/21(水) 16:39:41.39 ID:GdfLSx3TO
9月も半ば過ぎたよ
291 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/10/01(土) 07:19:39.34 ID:gwZkY8xS0
10月になっちまったよ…
292 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/10/12(水) 20:38:11.54 ID:g5impMbPO
おーいおーいおーい
生存確認!
293 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/10/12(水) 20:38:40.60 ID:g5impMbPO
おい!
294 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/10/13(木) 02:16:58.83 ID:25xmgEpkO
実生活がキツイのかねぇ…
295 :
◆yyODYISLaQDh
[sage]:2016/10/13(木) 20:35:07.87 ID:PtTb73MdO
すまぬ…すまぬ…
今月中に書ければ投下したい
原作がクロス作品なのにクロスさせるの難しい…
296 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/10/14(金) 00:36:57.36 ID:Lnhat11iO
同じ世界だけど別世界…期待して待ってるよ
297 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/10/14(金) 07:50:57.76 ID:LhD5/wB/O
ギリギリすぎんだろ…
298 :
◆yyODYISLaQDh
[saga]:2016/10/14(金) 22:20:35.32 ID:J8WJ1/+kO
=====
大きな窓に映る自身の姿を見て、やはり自分にはこういう格好は似合わないな、と真九郎は思った。
こういう派手な格好をするには、圧倒的に顔に貫禄が足りないのだ。
オールバックに整えた髪を乱さない程度に頭を軽く掻く。
もう成人式もとっくに終えたというのに、未だに高校生に間違われることもある。
真九郎は後ろを通った屈強な身体つきをしているガードマンを見て、その威圧感に嘆息した。
こんな自分だからこそこなせる仕事もあるのだから一概に悪いとはいえないが、いずれは九鳳院の近衛隊隊長である騎馬大作ぐらいの雰囲気は手に入れたいものだ。
もう一度、窓に映った自分の格好を眺めてみる。
比較的地味ではあるが、パーティ用のそこそこ高級なスーツに、オールバックに整えた黒髪。
真九郎は今夜、とあるパーティー会場に来ていた。
非合法な会合とか、なにかの組織が催すようなものではなく、国内外の大手企業や財閥の代表が集う、懇親会みたいなものだと聞いている。
真九郎はガードマンとして雇われてはいるが、全身黒尽くめのガードとは違い、綺羅びやかな格好をして他の参加者たちに混じり、怪しい人物がいないか目を光らせている。
今回のパーティーには九鳳院は参加していないものの、雇い主は以前九鳳院の伝手で雇ってもらった某グループ企業の会長であり、つまりは真九郎のリピーターだ。
リピーターの存在は仕事としては喜ばしいことだが、噂によると彼には衆道の気があるらしく、真九郎としては微妙な心情である。
「あら、お見かけしない顔ですわね。どちらからいらしたのかしら」
「こんばんはマダム。私、こういう者です」
参加者の夫人らしき女性に声を掛けられた真九郎は、慣れた手つきで名刺を差し出す。
女性は名刺を眺め、失礼ながら存じ上げませんね、などと愛想笑いを返してくる。
それもそのはず、真九郎がたった今差し出したのは、偽の名刺だった。
299 :
◆yyODYISLaQDh
[saga]:2016/10/14(金) 22:21:25.90 ID:J8WJ1/+kO
偽とはいってもホームページや会社のビルまであることになっており、ネタばらしをするなら、銀子の手によって作られた架空の会社である。
もちろん、名前のところにも偽名が使われている。
真九郎も裏の世界で名前が広まっており、いつどこにどんな人間がいるかわからない場所では、いつも銀子が作ってくれた設定に頼っている。
裏の世界の人間ならば誰もが知る伝説の情報屋・村上銀次。
その全てを受け継いだ孫娘である銀子の情報操作は、ちょっとやそっとでは暴くことはできない。
真九郎は夫人に実態のない会社の説明をするが、彼女はさして興味もないのか、適当に聞き流しているようだった。
今回のようなスタイルでパーティーに潜入するのは別に初めてではない。
裏世界での知名度は上がったとはいえ、表世界の人間にまで認知されるほどではない。
それこそ道行く人が皆振り返るような、最高の揉め事処理屋と呼ばれた柔沢紅香ほどの目立つ人間であれば別だろうが、裏世界でどんなに仕事をこなそうが表世界では見向きもされないのだ。
「それにしてもお若いのね。失礼ですけれどおいくつ?」
「見た目ほど若くはないと自負しております。マダムこそ、随分とお若いのですね。それにお美しい」
「まあ、お上手」
夫人は口元に手を当てて上品に笑う。
最近はこんな社交辞令にも慣れてきて、口にする度に顔が赤くなるようなこともなくなった。
それから他愛もない話を二、三して、「すみません、お手洗いに」と言って夫人と別れた。
手を振る夫人を尻目に、ホールを出る。
出入り口付近にいたボーイに声をかけてグラスを二つ受け取り、トイレとは反対の方向にある階段を下って、屋敷の庭園へ出る。
無論、酔いを醒ましに来たわけでも、気まぐれに散歩をしているわけでもない。
この庭園は、つい先程まで真紅郎がいた3階のパーティーホールからよく見える位置にある。
上から一望することで、侵入者や危険物などをSPなどがいち早く発見できるようにするためだ。
しかし、この屋敷の所有者の趣味だろうか、庭園全体に薔薇などの草木が植えられており、視界が悪くなっている。
300 :
◆yyODYISLaQDh
[saga]:2016/10/14(金) 22:21:52.68 ID:J8WJ1/+kO
庭師や警備の努力によって死角は極力減らされているが、上から見ても庭園の警備員から見ても死角となる部分が一箇所だけある。
頻繁にこの屋敷に招待されている者や、この屋敷を守護している者も気づかない、或いは見過ごしてしまう程の本の小さな死角。
草木によって作り上げられたその死角――そこに佇む、一人の女性。
この庭園の死角は偶然できたものではなく、人為的に作られたものだ。
真九郎の経験上、パーティーの会場で密かに逢瀬を楽しむ男女(或いは同性かもしれないが)の為に、こういった場所が設けられている屋敷は少なくないが、警護する側からすればはた迷惑な話だ。
「こんばんは」
真九郎は、その女性に声をかける。
身長は真九郎と同じ程度で、女性にしては長身。
黒い喪服のようなドレスを身に纏い、帽子を目深に被っている。
女性の装いに対して、脳裏に黒猫を抱いた魔女が浮かぶが、雰囲気や身体的な特徴から、それは違うと真九郎には断言できる。
「…………」
どうぞ、と言ってグラスを差し出すが、対する女性は口も開かないまま真九郎の顔を見つめている。
警戒されているのだろうか、と真九郎は考えるが、この場所と時間を指定してきたのは相手側であるし、さっさと話を進めろ、ということか。
真九郎は警護の仕事の為にこの屋敷へ来た。
しかし、この屋敷には、もう一つ用事がある。
それが、この女性と落ち合い、報告をすることだった。
このほんの小さな死角も、彼女が指定してきた場所である。
「あの――」
依然として沈黙を保つ女性に対して、真九郎がその報告を口にしようとした瞬間――
301 :
◆yyODYISLaQDh
[saga]:2016/10/14(金) 22:22:18.68 ID:J8WJ1/+kO
――真九郎の視界の外から飛んでくる、鋭い蹴り。
それは紛れもなく、目の前の女性が繰り出した蹴りであった。
一撃必殺を思わせる速度と鋭さ。
撓るように放たれた脚は、しかし、真九郎のこめかみの手前で、ピタリとその動きを止めた。
「…………」
「…………」
女性はその姿勢のまま真九郎を観察し、そして真九郎もまた、女性を無言で観察していた。
ほんの数秒ほどそうしてから女性は元の姿勢に戻り、真九郎からグラスを受け取る。
「この程度にも反応できないの?」
漸く口を開いたかと思えば、嘲笑うような、落胆したような声色で言葉を向けてくる女性。
その声は、女性と言うよりも少女に近い、と言うのが真九郎の感想だった。
大人びてはいるがまだ少し幼さが残る雰囲気で、おそらくは真九郎よりも年下。
「定期報告のために俺より年下の方がお見えになるのは、初めてですね」
「……そうね」
帽子のせいで表情を窺うことはできないが、今の一言だけで自分の年齢を看破されたことに驚いたのか、グラスの水面に小さな波紋が起きる。
明らかな経験不足が見えるが、真九郎はあえてそこを追求するようなことはしない。
経験不足と言えば、先ほどの蹴りもそうだ。
先程の蹴りには、全く殺気が見えなかった。
302 :
◆yyODYISLaQDh
[saga]:2016/10/14(金) 22:22:46.28 ID:J8WJ1/+kO
威嚇か、それとも度胸試しかはわからないが、そう判断したからこそ、真九郎は一歩も動かなかったのだ。
「まあいいわ。…………報告を」
「はい。星?絶奈、斬島切彦、ともに異常なし。引き続き、こちらで監視します」
《星?》と《斬島》。
この両家は、裏十三家に数えられる一族である。
裏十三家とは、古来から続くこの国の闇――裏の世界を支配する存在だ。
《歪空》、《堕花》、《斬島》、《円堂》、《崩月》、《虚村》、《豪我》、《師水》、《戒園》、《御巫》、《病葉》、《亜城》、《星?》。
紫の生家である《九鳳院》家を含む表御三家と、真九郎が少年時代を過ごした《崩月》家を含む裏十三家。
これらの一族によって、表と裏からこの国は支配され続けて来た。
尤も、裏十三家の方は崩月家のように裏家業を廃業していたり、他では断絶している家もあるらしい。
そんな中、《星?》と《斬島》の両家は、つい最近まで裏世界で暗躍していた一族である。
そしておそらく、この少女もまた裏十三家に名を連ねる一族の一人。
「それにしても、《円堂》の人なのに、随分と好戦的なんですね」
「…………」
敢えて、挑発めいた言葉をぶつけてみるが、先程見せた動揺を自覚しているのらしく、グラスに波紋は見えない。
しかし、グラスを持つ指が強く握られているのを、真九郎は見逃さなかった。
言葉や格好は大人びていても、雰囲気やその精神は子どもであり、素人にも近い。
なぜ、こんな少女が連絡役に寄越されたのだろうか。
そもそも今までは電話や封書でのやり取りが多かったのに、今回は直接だ。
303 :
◆yyODYISLaQDh
[saga]:2016/10/14(金) 22:23:26.08 ID:J8WJ1/+kO
裏十三家の一つである《円堂》。
彼らは裏十三家の中で唯一、表の勢力と融和した一族であり、警察機構などともコネクションがある。
この国を守るためならばテロリストによる虐殺すら見逃すほどであるその性質は『完全保守』。
一年前の事件から、真九郎は当時、《星?》と《斬島》の当主であった絶奈と切彦の監視役――とは名ばかりで現在は保護者となり果てている――を買って出た。
そのとき、師である柔沢紅香を通して《円堂》は真九郎に条件を提示してきた。
それがこの定期報告である。
一ヶ月ごとに円堂の遣いの者か、もしくは指定された方法で、切彦と絶奈の状態を報告することが、切彦と絶奈を真九郎が預かるための条件だった。
《円堂》は最初、紅香に対して絶奈と切彦の抹殺を依頼していたらしい。
曰く、二人は勢力の均衡を崩壊させる火種であり、不安の芽は早々に積むべきである、と。
『お前が決めろ』
とは、紅香の言葉だ。
あのとき、瀕死の絶奈と切彦を前にして真九郎は紅香に判断を仰いだ。
このまま見捨てるのか、それとも匿うのか。
しかし、紅香は真九郎に決断を丸投げした。
そして真九郎の決断に対して、紅香は協力を約束してくれた。
もちろん、二人の抹殺を依頼してきた《円堂》の説得も、紅香のおかげで滞りなく済んだのだ。
まったく、紅香には頭が上がらない。
そして真九郎は同時に《円堂》に対する不信感も増していた。
紅香への依頼の件とは別に、真九郎は過去に何度か《円堂》に裏切られている。
思想や主義のすれ違いによるものとはいえ、何度も続けば良い感情をもてるわけもない。
真九郎が交渉の場でもないのにわざわざ挑発的な言葉をぶつけてみたのも、その感情の表れだった。
「……《星?》と《斬島》を飼うなんて、貴方、正気とは思えないわ」
304 :
◆yyODYISLaQDh
[saga]:2016/10/14(金) 22:24:03.58 ID:J8WJ1/+kO
その挑発に対して少女は応えず、逆に挑発めいた言葉を返してきた。
《星?》家は、《悪宇商会》という人材派遣会社の設立に深く関わった一族だ。
人材派遣といえば聞こえはいいが、その実、ボディガードから誘拐・暗殺までなんでも請け負う、裏社会の住人が蠢く巣窟。
真九郎も、かつては《星?》の当主であり、《悪宇商会》最高顧問であった星?絶奈と対立し、殺し合った関係である。
およそ同じ人間とは思えない肉体と思想、倫理。
一度は人外の敵と見做した相手をどうして助けてしまったのか、真九郎にもよくわからない。
それでも、あの弱り切った絶奈を前にして、真九郎は手を伸ばさずにはいられなかったのだ。
しかし、《円堂》からすればそんな真九郎の心情など関係ない。
一年前の件だけでいえば被害者であった絶奈個人ではなく、表の世界にまで影響を及ぼした事件の発端である《星?》を危険視するのは当然のことだ。
そんなことは百も承知だが、理屈と感情が完璧に合致することなどそうはない。
それとも、揉め事処理屋として、一人の男として、真九郎がまだまだ未熟なだけなのだろうか。
「俺は《崩月》ですよ。裏の人間同士でつるんでいたって、別に不思議じゃないでしょう」
「…………」
真九郎の皮肉めいた言葉に対して、少女は言葉を返さない。
揉め事処理屋の紅真九郎が《崩月》の戦鬼であることは、裏世界の人間ならば誰でも知っている。
特に1年前の事件を知る者の間では、真九郎は《悪鬼》などという異名を付けられているほどだ。
そんな連中から言わせれば、紅真九郎という人間はとうに箍が外れているも同然。
更に言えば、そんな真九郎を《円堂》が警戒していないわけがない。
しかし先程の少女の発言は、まるで真九郎がまともな人間であるとでも言っているかのようにもとれる。
まるで、真九郎がどんな人間なのかを知っているような――
「そろそろ、戻った方が良いんじゃないかしら」
305 :
◆yyODYISLaQDh
[saga]:2016/10/14(金) 22:24:29.82 ID:J8WJ1/+kO
――少女の言葉で、真九郎の思考は中断される。
「……そうですね、あまり離れすぎると、何かあったときに困りますから」
庭園に来てから、既に5分以上経過している。
プロの殺し屋なら、上のパーティー会場にいた人間を皆殺しにするのに、3分とかからない。
少なくとも、自分ならば――――
真九郎は無意識に、自身の左肘に爪を喰い込ませていた。
喉の奥の塊を、息とともに細く短く吐き出す。
それから、訝し気にする少女に一礼して背を向ける。
庭園から屋内に入る際に一度振り返ると、少女は死角に消えて、既に見えなくなっていた。
もしかしたら、どこかで会ったことがあっただろうか、と顔の見えない少女に記憶を巡らせて。
「まあ、いいか」
と、小さく呟いた。
〜〜〜〜〜
306 :
◆yyODYISLaQDh
[sage]:2016/10/14(金) 22:28:41.35 ID:J8WJ1/+kO
毎度毎度長らくお待たせして申し訳ないです。
そのくせ、あんまり展開は進まないという始末で……
1年前のことは、以前も書きましたが別スレをそのうち立てて書くので、今しばらくお待ちを。
もしかしたらPixivに移行するかもしれませんが……いずれにしろ、このスレを書ききってからの話ですね。
それでは今回はここまでです。
307 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/10/14(金) 22:31:02.43 ID:3UK7Rcypo
乙です
308 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/10/15(土) 00:41:55.16 ID:XKpJTvSL0
乙
309 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/10/15(土) 01:51:10.32 ID:YH/l68n0O
オホー乙乙
待ってるぜー
310 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/10/15(土) 02:46:12.79 ID:UI2m8xcDo
乙
無理しないで
311 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/10/15(土) 11:50:48.36 ID:4szjR971O
乙
生存報告でもいいからスレを落とさないでくれ
ギリギリすぎて毎度ハラハラするわ
312 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/10/15(土) 12:37:18.09 ID:Gkk/Uj82o
乙乙乙
313 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/10/17(月) 16:42:21.89 ID:DtNvX7kc0
お前の更新を待ってたんだよ!
314 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/11/05(土) 09:46:46.47 ID:kZevey+dO
ほしゅ
315 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/11/22(火) 01:03:50.53 ID:rjRGeq6IO
保守
316 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/11/30(水) 02:12:51.29 ID:1NLPRKcRO
マダー?
317 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/02(金) 16:03:50.99 ID:eIpL/GFfO
またギリギリになりそうな予感
いつ落ちても不思議では無いのはやだなぁ
318 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/10(土) 01:19:59.79 ID:CpGEUiFc0
保守ゥ!
319 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/10(土) 10:55:49.46 ID:olCwMgPno
おいおいまたギリギリだよ
320 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/15(木) 17:53:25.16 ID:ez1dv+P2O
ちょぉぉぉぉぉ!
落ちるぞ
321 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/18(日) 01:05:50.05 ID:Rj/mYV/0O
まだ来てない…だと…!?
322 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/19(月) 13:33:52.01 ID:sChZhohpO
いつ落ちてもおかしくないからお礼を
>>1
あなたの書くジュウや、雨、光、紫、真九郎…
みんな好きだったよ
続きが見れないのは残念だけど、楽しい時間をありがとう
323 :
◆yyODYISLaQDh
[sage]:2016/12/22(木) 19:30:02.49 ID:KTOjgENUO
お待たせしてすみません
絶賛スランプ中であります
324 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/22(木) 20:50:45.01 ID:Ini8YQkMO
スランプ解消を依頼しなければ…
325 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/23(金) 11:13:22.84 ID:H32BHl+wO
落ちなくて一安心
326 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/04(水) 07:59:38.41 ID:88NrbDm4O
あけおめ保守
327 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/06(金) 11:44:03.59 ID:JJ0flYUfO
新刊出ない分このSSに期待支援
328 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/15(日) 16:10:51.50 ID:NXiPwIYj0
しゅっほしゅっほ
329 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/17(火) 06:11:27.05 ID:r0Qta3amO
|д゚)チラッ
330 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/31(火) 22:25:15.61 ID:VpVRY3lc0
ほす
331 :
◆yyODYISLaQDh
[sage]:2017/02/02(木) 18:14:59.03 ID:GXv9wLGAO
お待たせしております
2月中に投下予定です
332 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/04(土) 01:20:51.37 ID:eSUDW/rKO
おぉ
まってた
333 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/09(木) 23:53:53.92 ID:HxrLSt2ko
正直信じられない
334 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/20(月) 23:53:49.02 ID:sCLmiysM0
a
335 :
◆yyODYISLaQDh
[sage]:2017/02/23(木) 20:52:30.43 ID:V014Qou/O
投下します
336 :
◆yyODYISLaQDh
[sage]:2017/02/23(木) 20:52:57.23 ID:V014Qou/O
=====
光による原因不明の鉄拳制裁を受けた翌日。
昨日は光に連れまわされ雪姫に絡まれ、散々な一日だった。
光はまだ可愛いものだが、雪姫は何を考えているのかよくわからないし、雨は過保護だし、あいつらと一緒にいると、酷く疲れる。
今日は祝日で、学校も休みである。
ジュウはそんな休みの一日を昨日の分まで、一人で悠々自適に過ごすつもりでいた。
つもり、と言うのは、現実にはそうなっていないということである。
「どうした。食べないのか」
どんな聖人君子だろうと、誰もが人生の中で最も苦手とする人間と出会うだろう。
柔沢ジュウにとっては、目の前にいるこの人物こそがそれだった。
ウェーブのかかった長い茶髪と、ワインレッドのスーツ。
二十代と言われても納得できてしまう美貌とスタイル。
テーブルに肘をつきながら、ジュウを横目に紫煙をくゆらせているこの女の名前は、柔沢紅香。
「母の手料理を無駄にするつもりか?」
柔沢ジュウの、実の母親である。
目の前にはナポリタン、付け合わせのサラダとスープ、そしてどうやら手作りのプリンが用意されている。
無論、普段学校の弁当におにぎりを適当に握っていくだけのジュウがこんなに手の込んだ昼食を用意するはずもなく、これらは紅香が作ったものだった。
皿から立ち上る香りが鼻腔をくすぐり、胃袋は目の前の料理を受け入れる準備を整えている。
しかし、それらを前にして、ジュウは手を付けるのを躊躇していた。
別に、毒が入っているかもしれないとか、皿に蠅が集っているとかいうわけではない。
料理自体は盛り付けまで美しく、一般的な家庭と比較しても、豪華な昼食と言えるだろう。
ただ、自由な休日の出鼻を挫かれたような、そんな気分に勝手になっているだけである。
紅香はなかなか料理に手を付けないジュウに対する興味がさっそく失せたのか、テレビを眺めながら新しい煙草に火を点けている。
337 :
◆yyODYISLaQDh
[sage]:2017/02/23(木) 20:53:40.16 ID:V014Qou/O
ジュウが物心ついたころから、こういう母親なのだ、この女は。
物凄く優しい母親のようなことをしたかと思えば、次の瞬間には急に無関心になったり、唐突に暴力的になったりもする。
好きか嫌いかと聞かれれば、苦手と言うのが一番しっくりくる。
そもそも滅多にこの家には帰ってこないし、どこか他所で男と暮らしているらしい。
子どもの頃はこんな紅香にも母親らしさを期待していたジュウだったが、現在ではただの目の上のタンコブだ。
ジュウは紅香を睨み付けてみるが全く効果は無く、鼻で笑われる始末だった。
この程度で済むのだから、今日はまだ機嫌が良い方だ。
虫の居所が悪ければ、皿に手を付けようとしない時点で何をされていたか、長年この女と過ごしてきたジュウとって想像に難くない。
観念してフォークを手に取り、ナポリタンを巻き付ける。
トマトソースの程好い酸味と塩味が舌の上で解けていく。
美味い。
悔しいが、ナポリタンも、スープも、サラダも、全てが美味かった。
無言で食べ進めると、あっという間に食べ終わってしまった。
デザートのプリンに手を伸ばす。
白磁の耐熱容器に収められたプリンをスプーンで掬って口へ運ぶ。
これも美味い。
同年代の男子に比べて自炊はする方だが、流石にこんな菓子までは作ったことはない。
自分で作るものや、ましてやコンビニのものなどとは比べ物にならないであろう味だ。
腕力でも勝てない、知力でも勝てない、更に料理の腕でも全く敵わない。
そういった事実をできるだけ意識から外しつつ、最後の一口を口へ運ぶ。
338 :
◆yyODYISLaQDh
[sage]:2017/02/23(木) 20:54:22.66 ID:V014Qou/O
「そういえば、あのガールフレンドとはどこまでいったんだ?」
「げほぉっ!?」
予想外の問いかけに、思い切り噎せるジュウ。
口に入りかけていたプリンが吹き飛んで、テーブルと服の上に飛び散る。
紅香は、汚いな、と露骨に顔を顰めた。
「……あいつとは、そういう関係じゃねえ」
「なんだ、そうか」
大した興味も無かったのか、紅香はテレビを消して椅子から立ち上がり、コートを羽織る。
「片づけておけよ」
背を向けたまま面倒くさそうに言い放ち、さっさと玄関に向かっていく紅香。
ジュウはもはや何を言う気も起きず、皿を手に取りながら立ち上がる。
あの女の言うとおりに行動するのは癪だが、この皿をいつまでも残しておくと、逆に紅香の影が気になってしまうのも事実。
ここは早急に片づけて、適当にレンタルショップにでも繰り出すのが得策だ。
少し邪魔は入ったが、久々に一人を満喫しようじゃないか。
そんな決意とともにスポンジを泡立て、皿洗いに没頭する。
食べ終えてからそれほど時間も経っていないし、食器の数も少ないのですぐに洗い終えた。
後はテーブルの上を片付けて、服を着替えて、街へ繰り出すだけだ。
意気揚々と振り向いて、直後、ジュウは硬直した。
339 :
◆yyODYISLaQDh
[sage]:2017/02/23(木) 20:54:59.28 ID:V014Qou/O
悲鳴を上げそうになるのをどうにか堪えた、と言うのが本当のところだ。
なぜなら、そこに堕花雨がいたからである。
「お邪魔しております」
深々と丁寧に頭を下げる雨だが、ジュウにとってはそれどころではない。
「お、お前いつから……!?」
「ジュウ様が食器を洗い始めたあたりからです。テーブルの上が汚れていましたので、片づけておきました」
見れば、確かに先程ジュウが吹き飛ばしたプリンの残骸が無くなっている。
しかし、ジュウが問題にしているのはそこではない。
「いつの間に入って来たんだってことだ! まさか――」
「いえ、以前禁止されましたので窓からではありません。普通に玄関から入ってきました」
「玄関?」
「はい。と言うよりも、入れて頂いた、と言う方が正しいかもしれません」
そこまで聞いて、ジュウはようやく思い至った。
「あのババア……!」
雨を招き入れた張本人、それは紅香だ。
おそらく、玄関を出た際に雨と遭遇。顔も知らなかった以前と違い、先日の事故などでジュウは雨に借りがあるし、それを知っている紅香はそのまま通したのだろう。
悪戯のつもりか、それともただ面倒だったのかは知らないが、紅香から一声あってもよさそうなものだ。
声もかけずに背後で待機している雨にも問題があるが、こちらは心臓が飛び出る思いだ。
340 :
◆yyODYISLaQDh
[sage]:2017/02/23(木) 20:55:30.54 ID:V014Qou/O
大きく溜息を吐いてから、ジュウは雨に向き直る。
「それで、なんか用か?」
「正午を過ぎてもご連絡が無かったので、御身の無事の確認をと」
ジュウは再び溜息を吐いた。
寝起きに紅香が襲来していたために忘れていた。
学校にいる間だけではなく、休日も必ず安否の連絡をする決まりになっていたのだった。
正直言って、あまりにも過保護すぎる雨に対して、ジュウは辟易とした気持ちを隠せなくなってきていた。
それに昨日は雪姫と光に今日は紅香と、せっかくの休日だというのに一人で気を休める時間もない。
「そろそろ、止めにしないか」
これからもこんなことが続くのかということを考えれば、ジュウのこの提案は当然のものだった。
とはいえ、以前からこの提案は遠回しにしていた。
一人でも大丈夫だ、とか、なにかあったらすぐに呼ぶからいちいち確認はいらない、とか、わざわざ来てもらうのは申し訳ない、とか。
しかし雨は「ジュウ様のお命の為です」の一点張りで、頑として首を縦に振らなかった。
それは雨の妄想癖によるところでもあるし、同時に本気でジュウを心配してのことなのだろう。
それがわかっているからこそ、ジュウも明確な言葉は避けてきた。
雨とは長い付き合いとは言えないが、そのぶん濃い時間を共有しているし、何度も事件や勉強で世話になった。
もちろん感謝もしている。
だからこそ時間をかけて説得しようと思っていたのだが、ジュウは自分の短気さを忘れていたのだ。
341 :
◆yyODYISLaQDh
[sage]:2017/02/23(木) 20:56:14.96 ID:V014Qou/O
「もう限界だ。止めよう、こんなこと」
前髪を乱暴に掻きながら、ジュウは勢いよく椅子に座る。
顔を天井に向けて、自分の不満を溜息と同時に吐き出す。
「俺もいちいち家に来られたら面倒だし、お前も無事を確認するためだけに自分の家から来るんじゃ大変だろ、結構遠いしな」
言いながら雨を見遣る。
相変わらず前髪のせいで感情は読めないが、少し驚いているような感じがする。
ジュウが迷惑がっているとは思わなかったとでもいうのか。
しかし、妄想の世界に生きる雨ならあり得ないというほどでもないか。
「だからさ、安否の定時連絡はもうこれきりにして、前みたいに――」
そこまで口にして、ジュウは違和感に気が付いて言葉を止めた。
目の前の雨に対する違和感であり、それは雨の全身を眺めてみて、初めて気が付くことだった。
「そういえばお前、今日は制服じゃないんだな」
今度はあからさまに動揺を露わにする雨。
手に持っていたバッグを取り落としそうになって、さすがは堕花雨、見事にキャッチした。
「それに、少し化粧もしてるか?」
しかし、ジュウの追撃によって雨は今度こそバッグを落とした。
342 :
◆yyODYISLaQDh
[sage]:2017/02/23(木) 20:56:57.84 ID:V014Qou/O
全身を硬直させて、人形のように白い肌がどんどん赤く染まっていくのがわかる。
ジュウにとってそんな雨の反応は非常にレアだった。
そして、今日の雨の格好も。
少し丈の大きいニット地のセーターに、スキニージーンズを履いている。
セーターの白と黒い髪が対照的でよく映える。
いつも制服のスカート姿しか見ていないので、スキニーも印象的だ。
腕にはマフラーとグレーのコートを抱えている。
全体的に冬っぽい格好で、これから更に寒くなるのに合わせて揃えたのだろうか、あまり着古したようには見えなかった。
それに、雨が化粧というのも意外だった。
もともと綺麗な髪や透き通るような肌をしているし、今まで何度か出かけたときにはそんな様子はなかった。
今日も本当にうっすらとしているぐらいで、普段は色素の薄い唇が淡く染まっているせいでジュウも漸く気が付いたぐらいなのだが。
なんというか、雨であって雨でないような、云うなれば、気合が入っている、と評すればいいのか。
光もファッションに目覚めたようだし、姉妹揃って嵌っているのだろうか。
あるいは、光が雨に勧めでもしたのか。
「変、ではありませんか……?」
「え?」
「ぁ……」
雨は、しまった、というふうに所在無く手が動き、ジュウの視線から逃れるように顔を逸らした。
長い髪によってほとんど隠された顔のうち、ジュウには赤く染まった頬だけが見えた。
343 :
◆yyODYISLaQDh
[sage]:2017/02/23(木) 20:57:42.64 ID:V014Qou/O
「いいと思うぞ。そういう格好も」
ジュウは気まずい沈黙が嫌で、思ったことをそのまま口にしてみた。
しかし、口にしてからなんとなく気恥ずかしくなり、ジュウは照れ隠しに前髪を乱暴に掻いた。
雨は何かを堪えるように唇を引き締めて、何も言わない。
再び流れる沈黙。
なぜこんなことになっているのか、ジュウにももはやわからなかった。
自分はただ、面倒な定期連絡を止めたかっただけだというのに。
しかし、その話を再開するためには、一度仕切り直さなければならないだろう。
ジュウは雨に座るように促し、お茶を淹れることにした。
〜〜
「ありがとうございます」
わざと時間をかけてお湯を沸かし、出来立てのお茶と適当な茶菓子を用意してやった。
そうして時間をかけたおかげか、湯呑に入った分のお茶を飲み干して幾分か落ち着いたのか、雨の頬の赤みは既に引いていた。
いつものように真っすぐジュウを見据えて淡々と話す様子に、ジュウは胸を撫で下ろした。
先程のような沈黙がいつまでも続くのは非常に居心地が悪い。
それも自分の家でとなれば尚更だ。
他所であれば自分が出て行けば済む話だが、自宅では撤退のしようがない。
雨と出会ったばかりの頃、髪の色を変えてまで逃げ回っていた自分を思い出して、ジュウは無意識に口元が緩んでいた。
そういえば、後にも先にも無抵抗で逃げ出した相手は初めてだった。
サイコパスな殺人鬼とも殴り合った、同級生には殺されかけて、裏家業の人間ともわずかながら相対した。
ジュウは、まるで人形のようにいつも通り自分の目の前にいる雨を見遣る。
344 :
◆yyODYISLaQDh
[sage]:2017/02/23(木) 20:58:13.64 ID:V014Qou/O
白い肌。小柄で華奢な体躯。鼻の頭まで隠れるほど前髪の長い綺麗な黒髪。そしてその前髪の奥に隠されている美しい双眸。
あの瞳を前髪越しでない間近で見たのはいつ以来だろうか。
「ジュウ様?」
「――え?」
名前を呼ばれて、ジュウは湯呑を片手に立ったまま雨を眺めていたことに漸く気が付いた。
途端に顔が熱くなる。
ジュウはそのことを隠すように片手で顔を覆って椅子に座ると、何かを吐き出すように深呼吸をした。
……最近の自分は、本当にどうかしている。
「ジュウ様、大丈夫ですか?」
雨の心配気な声が聞こえる。
ジュウは、なんでもない、と短く応え、雨もそれ以上の追求はしてこなかった。
ジュウにはそれが心地よかった。
踏み込み過ぎず、かと言って突き放すわけでもない。
雨のその絶妙な距離の取り方は、ジュウにとって居心地のいいものだった。
まさに従者か侍女か、或いは――
「――さっきの話だが」
ジュウは咄嗟に思考を打ち切って、話を切り出した。
この思考は危ない、と本能的に察知して、鍵と鎖をがんじがらめにして心の奥底に押し込む。
なぜそうしたのかはわからない。
しかしジュウの中にある何かがそうさせた。
ともかくジュウはそれについて考えることの一切を放棄して、話を続ける。
345 :
◆yyODYISLaQDh
[sage]:2017/02/23(木) 20:58:39.55 ID:V014Qou/O
「定期連絡はもう必要ないんじゃないか。あれからもう暫く経つし、そんなに危険に晒されることもしょっちゅう起きるわけじゃない」
「私はジュウ様の騎士です。ジュウ様の安全を確認する義務があります」
当然のように電波を発信してくる雨。
騎士だったり従者だったり奴隷だったりは雨のその時の気分によって変わるが、その妄想癖は相変わらずだ。
その点を追求しても堂々巡りになるどころかその内容を延々と聞かされることになるのはわかり切っている。
テーブルに突っ伏しながら、ジュウは話を合わせつつ雨の意見を退けようと試みる。
「そんな義務を課した覚えはない」
「私が私に課した義務です」
「それにしたって学校ならまだしも、休日に家まで来るな」
「確認の為です」
「そんなに俺に会いたいのか、お前」
雨の妄想に基づく屁理屈に対する、冷やかしや軽口のつもりだった。
いつもなら「私にそのような願望を持つ権利などありません」とか「本来ならば二十四時間お傍に控えさせていただくのが当然です」といった返事が聞こえてくるはず。
それなのに、雨からの返答は無い。
不思議に思って顔を上げるジュウ。
346 :
◆yyODYISLaQDh
[sage]:2017/02/23(木) 20:59:09.70 ID:V014Qou/O
「――――」
そこには、再び顔を赤くしたまま立ち尽くす雨がいた。
耳どころか首まで真っ赤に染め上げて硬直している。
今日の雨は本当に変だ。
そして、そんなこいつの様子を見て落ち着かなくなってしまっている自分も。
「お前、今日はもう帰れ」
今はお互いに尋常な状態ではない。
一度インターバルをとって冷静になり、明日また会った時に話し合えばいい。
ジュウは立ち上がって、玄関へ向かう。
雨は一瞬、何かを訴えかけるような目をしていたが、そのまま何も言わずにジュウの後ろについてきた。
コートを羽織って靴を履き、振り返って深々と頭を下げる雨。
「お邪魔いたしました」
「おう、また明日な」
また明日、などという言葉が自然と口から出てくるあたり、自分も相当丸くなったものだ、とジュウは心の中で自嘲した。
或いは、それを望んでいるのだろうか。
「……あの、ジュウ様」
「ん?」
347 :
◆yyODYISLaQDh
[sage]:2017/02/23(木) 21:00:03.28 ID:V014Qou/O
雨の声で現実に引き戻される。
見遣れば、雨は顔を俯けたままバッグの持ち手を強く握りしめている。
思えば、このバッグも初めて見るものだ。
雨と言えば基本的にいつも制服姿で、バックも通学カバンぐらいしか見たことはなかった。
華美な装飾も無く落ち着いた色のバッグは、今日の服装も相まって雨によく似合っていた。
そんなバッグの中から、なにかの包みを取り出す雨。
それはまるで、弁当の包みのような。
「わ、私はやめた方が良いと言ったのですが、雪姫がどうしてもと無理矢理……その、す、捨ててしまっても構いませんので……」
「え」
「そ、それでは失礼します」
その包みを押し付けるようにしてジュウに渡すと、雨はそのまま顔を上げることなく足早に出て行ってしまった。
ジュウは呆然として、何かを言う暇も、言葉も無かった。
暫く閉まったドアの向こう側を見つめてから、包みに視線を移す。
広げてみると、タッパーに入れられたサンドウィッチが顔を出した。
そのうちの一つをつまんで口に運ぶ。
「……料理にも目覚めたのか?」
切れ目がデコボコのサンドウィッチは、意外にも美味かった。
〜〜〜〜〜
348 :
◆yyODYISLaQDh
[sage]:2017/02/23(木) 21:01:47.10 ID:V014Qou/O
長らくお待たせして申し訳ありません。
今後はもう少し時間がとれるようになると思うので、できるだけ早めに投下します。
349 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/23(木) 21:21:48.62 ID:2r+hzSMGO
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
乙乙待ってて良かった
350 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/23(木) 21:40:35.17 ID:QbAlaX78o
乙です
351 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/24(金) 00:14:01.81 ID:TB6aLYY9O
おつおつおーつ
雨ってこんなに可愛いの!?
話は進まなかったけど満足した
352 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/24(金) 12:08:06.82 ID:jM5VJzHSo
おっつおっつ
353 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/25(土) 09:51:01.46 ID:ruTOF/hpO
正直信じられないとか言ってすみませんでした
本当に楽しみにしています
354 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/25(土) 18:21:30.40 ID:WX0KcTBj0
あぁ^〜たまんねえぜ
355 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/27(月) 02:18:53.22 ID:uAwep/tY0
できるだけはやく完結まで持ってってくれ
356 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/03/16(木) 15:50:11.46 ID:6rQiC7zRo
test
357 :
◆yyODYISLaQDh
[sage]:2017/04/04(火) 06:50:49.33 ID:vizs/d1CO
今週中に投下予定です
358 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/04(火) 09:31:43.54 ID:MYv7zGwpO
全裸待機で待ってる
359 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/04(火) 18:54:34.78 ID:dNaQIQ96O
ええぞ!ええぞ!
360 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/14(金) 20:52:43.01 ID:Mn0q2sEYO
支援
361 :
◆yyODYISLaQDh
[sage saga]:2017/04/17(月) 23:19:06.60 ID:bASNl0Z+O
投下します
362 :
◆yyODYISLaQDh
[sage saga]:2017/04/17(月) 23:19:49.07 ID:bASNl0Z+O
=====
『猫を見ませんでしたか?』
『あぁ?』
『……でぃぢゅーしーあきゃっと?』
舌足らずな英語でガラの悪い若者達に質問を繰り返す少女が一人。
深夜の出来事である。
端から見れば危険極まりない行為であり、コンビニ店中から不良たちを鬱陶しそうに見ていた店員は顔を引きつらせている。
少女――斬島切彦の雇い主、紅真九郎も少女の行動を心配していた。
ただし、切彦が不良四人組を半殺しにしてしまわないか、という心配だが。
「切彦ちゃん、どんなにムカついても殺さないように。彼らは一般人だからね」
小型のインカムから聞こえる真九郎の声に、切彦は内心舌打ちをする。
夜中であたりが暗いこともあって不良たちには気づかれていないが、そのこめかみには青筋が浮かんでいた。
真九郎は今、少し離れたアパートの屋上からその様子を観察していた。
夜に紛れるため全身黒で固めた服装にインカムと双眼鏡。
近所の人に見つかれば真九郎が通報されかねないが、これも依頼の為である。
今回の依頼は事務所近くのコンビニ店主からのもので、最近店の前で夜中にたむろする不良どもを追い払ってほしいというありふれたもの。
前金代わりに張り込み用の牛乳とあんパンを押し付けられてしまったため、できれば今日中に片づけたいところだ。
363 :
◆yyODYISLaQDh
[sage saga]:2017/04/17(月) 23:20:16.19 ID:bASNl0Z+O
『なになに? お嬢ちゃん、猫ちゃんを探してるのかな?』
軽薄そうな男が立ち上がり、切彦の後ろに回り込む。
真九郎の作戦通り、か弱そうな女性に反応したようだ。
筋肉質な男が顔を上げる。
『お前ロリコンかよ? こんなのが好みか』
『いやいや、厚着してるからわかんねーかもしれねえけど、なかなかいいスタイルしてると見たね。それにロリでも女には変わりねえよ』
『ロリ……?』
「落ち着いて切彦ちゃん! 作戦通りに!」
真九郎の声でどうにか理性を保った切彦は、再び不良たちに話しかける。
革ジャンのポケットから一枚の写真を取り出した。
『こんな……感じのにゃんこ、です』
『あーそれならさっき見かけたよ! 近くで』
軽薄そうな男が馴れ馴れしく肩を組みながら写真をのぞき込んでくる。
切彦が身体を強張らせたのを察したのか、男は舌なめずりをすると。
『案内するよ〜。ホントさっき見かけたばっかだからさ、マジで!』
小柄な切彦に対して圧し掛かるように肩を抱き、有無を言わせないといった力加減で誘導しようとする。
364 :
◆yyODYISLaQDh
[sage saga]:2017/04/17(月) 23:20:42.63 ID:bASNl0Z+O
その手慣れた所作に真九郎は虫唾が走るが、ここは我慢だ。
切彦は男に肩を抱かれたまま動けずにいるが、怖がっているわけではなく自分の腕が革ジャンの内ポケット――カッターナイフに向かないように堪えているからだ。
切彦が我慢しているのに、自分が台無しにするわけにもいかない。
「今のところ順調だよ。そのまま連中に合わせて」
冷静に指示を出す真九郎。
切彦はぎこちない動きで男たちに誘導され、そのぎこちない動きが嗜虐欲をそそるのか男たちが下卑た笑いを浮かべているのが見える。
オフィス街にある少し古めのビルの一室を拠点にしているようで、この四人組は下っ端らしい。
この四人以外にも人の出入りがあり、合計で18人。
不良グループかどこかの暴力団の傘下組織かの二択で迷っていたが、前者で決まりのようだ。
暴力団であれば、根城に獲物を連れて行けば下っ端がおこぼれにあずかれるはずもない。
今夜、あのビルの中に全員がいることは既に分かっている。
報復を避けるためにも、全員を説得した方が幾分早いだろう。
「……っと、俺もそろそろ行かないと」
真九郎は身を起こして屋上から非常階段に飛び移る。
今回の作戦はこうだ。
まず切彦を不良たちのもとに向かわせて声をかける。
不良たちが釣れればそのまま連中の拠点へ向かわせる。
真九郎はそれが確認できれば拠点へ先回りしてグループを潰しておく。
そこへ切彦と不良たちが到着。後は切彦に拘束させて説得。
我ながら一網打尽の良い作戦だと思う。
「不良たちが釣れなかったらどうするんですか」
365 :
◆yyODYISLaQDh
[sage saga]:2017/04/17(月) 23:21:09.06 ID:bASNl0Z+O
という切彦の疑問に「確かに切彦ちゃんじゃ難しいかな。夕乃さんあたりに頼もうか」と返すと俄然やる気を出していたし。
麻理子には、確信犯ね、などと睨まれたが真九郎は気づかないふりで通している。
切彦も一応、紅相談事務所の一員であるし、給料を出しているからには多少は仕事にやる気を出してもらわなければ。
一年前の件で暗殺者も廃業すると宣言していたし、揉め事処理屋として育てるのも悪くない。
まだまだ未熟な自分がそんなことを考えるのは傲慢だろうか、などと考えているうちに目的地に到着した。
これまでの道中、インカムで切彦たちがこちらに向かっているのは確認済み。
夜中のオフィス街と言うこともあって周囲に人は疎らで、ビルの前には見張りもいない。
古いビルなのでオートロックというわけでもなく、ビルの入口にも鍵はかかっていなかった。
念のため階段で登るが、各階の階段前やエレベーターにも見張りは無し。やはり素人だ。
そのまま階段を昇ること6階。
何も書かれていないドアの前に立つ。
小さなビルなので各階に部屋は一つ。
ここにも見張りはおらず、警戒心が薄いのかそれともよほど腕に自信があるのか。
ここはさすがに鍵がかかっているようだが、真九郎はノックもせずにドアノブに手をかけた。
「お邪魔しまーす」
盛大に金属が弾ける音と同時に入室。
真九郎の鼻腔に嗅いだことのある煙の臭いが届く。
ドラッグの煙だ。
「こんばんは、夜分にすみません」
「な、なんらテメエは!?」
366 :
◆yyODYISLaQDh
[sage saga]:2017/04/17(月) 23:21:37.32 ID:bASNl0Z+O
滑舌悪く声をあげたのは部屋のど真ん中で今にもパンツを下ろそうとしている男。
目の前には全裸の女性が3人横たわっており、その視線は虚ろで半笑いを浮かべている。
周囲には全裸の男、ガラスパイプを咥えている男、そして女性たちと同じように転がっている男が合わせて14人。
「揉め事処理屋です」
真九郎は不良グループの一員であるその女性たちを哀れに思いながら、仕事にとりかかった。
〜〜
「クソ、クソッ! このクソアマ! ハメやがったな!」
「Shout up」
床に転がった筋肉質な男の頭を足で踏みつけながらドスのきいた声を出しているのは斬島切彦。
先程までとはまるで別人のような彼女のその手にはカッターナイフが握られている。
裏十三家《斬島》――その現当主である切彦は刃物を手にすると、普段のゆったりとした人格が一変し、荒い気性が顔を出す。
切彦曰く、二重人格ではない、とのことだが端から見れば同じである。
「まあまあ。それよりキミ、状況がわかってる?」
「うるせえっ! さっさとこの縄外せ!」
「喚くな。殺すぞ」
367 :
◆yyODYISLaQDh
[sage saga]:2017/04/17(月) 23:22:04.04 ID:bASNl0Z+O
大の男を意識のある状態で簀巻きにできるようなスキルを真九郎は持ち合わせていない。
とりあえず気絶してもらい、それから拘束したのだった。
男は興奮と怒りで目が血走り、唾を飛ばして汚い言葉を吐き出している。
自慢の筋肉が細身の切彦に通用しないのがよほど悔しいらしい。
対する切彦は涼しい顔で挑発を返している。
「俺たちはね、別にキミらを捕まえようとかバラバラにして内臓を売りさばこうとか、そういうことをするために来たんじゃないんだよ」
内臓、という単語に男が冷や汗を流す。
真九郎は努めて淡々とした口調で話しを続ける。
「ただ、お願いをしに来ただけなんだよ」
「なんだと――」
男の言葉は、後頭部から受けた衝撃と顔面の痛みで中断された。
切彦が思い切り踏みつけたせいだ。
痛みに呻く男の震える喉元に、冷たい刃があてられる。
無言でカッターの目盛りを伸ばす切彦に、男が初めて恐怖を顔に滲ませた。
「どういう、こと……ですか?」
「キミは察しが良いね。うん。キミと仲のいい三人ががよく屯してるコンビニにはもう二度と近づかないでほしい、ただそれだけだよ」
「…………え?」
368 :
◆yyODYISLaQDh
[sage saga]:2017/04/17(月) 23:22:30.10 ID:bASNl0Z+O
今度は驚愕と混乱に目を丸くする男。
「ま、待ってくれ……ください。そんなことの為に、俺たちをこんな目に……?」
「そうだよ。とは言っても、以前に何度か注意したんだけどね」
もちろん真九郎もたかが不良相手にこんなに最初から大掛かりな作戦など立てたりはしない。
依頼が来てから注意はしてみたが、一度目は鼻で笑われ、二度目は怒鳴られ、三度目は殴られた。
これ以上は店員や近隣の住民にも被害が出かねないため、今回の作戦に移したというわけだ。
真九郎は、それに、と続ける。
「キミたち四人を一生歩けない身体にして、物理的にあそこに近づけないようにするなんて簡単なことだ。でも、結構大きなグループみたいだったからね。先に潰してしまった方が早いだろ?」
真九郎が笑いかけると、男はいよいよ絶句した。
たかがそんなことの為――でも、依頼を解決するのが揉め事処理屋の仕事だ。
男は混乱のためか完全に脱力してしまったようで、拘束を解かれてももはや抵抗はしなかった。
切彦が目の前に放り投げた一枚のコピー用紙とボールペンも素直に受け取った。
「これは……?」
「誓約書。そこに名前を書いてくれればいいから、ここにいる全員分」
「……わかった」
その内容を理解したのか、それとも真九郎たちには逆らわない方が良いと判断したのか、言われるがままに署名し始める。
369 :
◆yyODYISLaQDh
[sage saga]:2017/04/17(月) 23:22:59.69 ID:bASNl0Z+O
誓約書には署名欄、件のコンビニには近づかない、もし近づけば下の罰則を履行するという誓約のみが書かれている。
罰則の欄には何も書かれておらず、つまりはいくらでも後付けできるということだ。
「……これで全員だ」
男が誓約書とボールペンを床に置き、書き終わったことを告げる。
真九郎は事前に調べ上げたメンバー全員の名前と比較するが、特にごまかしなどは無い。
どうやら男は本当に観念したようだった。
「ありがとう。それじゃあ最後に――」
真九郎は誓約書を懐に仕舞ってから座り込んでいる男と目線を合わせるように腰を屈め、無表情で問いかける。
「――これはどこの組織から卸されてるのかな」
真九郎が男の目の前につまみあげたのは、薄桃色の錠剤が入ったパッケージと、同色の粉末、液体のそれぞれが封入された袋。
もちろんただの医薬品であるはずもなく、ドラッグだ。
グループのほぼ全員がこのドラッグを使用しており、おかげで制圧も随分と楽だった。
真九郎の問いかけに男の顔からは完全に余裕が消え、どんどん血の気が失せていく。
「お、俺は」
「知らない? わけないよね。いつもキミがここに運び込んでるんだから」
男は再び絶句し、視線と身体を小刻みに震わせ始める。
これほどの動揺を示してしまうぐらい、やはり素人であることは明白だった。
370 :
◆yyODYISLaQDh
[sage saga]:2017/04/17(月) 23:23:25.31 ID:bASNl0Z+O
「(――だからこそ許せない)」
唆されたのか脅されたのか、ともかくこの若者を手足にドラッグをばら撒いている組織があるのは確実。
元はどこにでもある、社会に反骨心を抱いただけの若者のグループだったはずなのに。
それを裏世界に引きずり込んで食い物にしている連中がいる。
怒りに拳を固くする自分を横目で眺める切彦に、真九郎は気づいていない。
「俺は……」
「俺が調べた限り、キミと同じ様に使われてる人は複数人いて同じようになにかしらのグループに所属してる。今キミがここで何を話そうとも、他のところでも同じように聞き込みをするからキミだけが疑われることはない」
組織からの制裁の可能性は極力下げると言い聞かせるように話す真九郎。
「俺は……!」
身体を震わせる男の目からついに涙がこぼれ、そして。
「俺はぁぁぁぁあああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!!」
二人に襲い掛かってきた。
およそただの不良とは思えないほどの跳躍と蹴り――そして踵と踝から噴出するバーナーのような炎。
常人であれば通常の何十倍もの威力を持った奇襲に対応できずに頭蓋を砕かれるか、防御しても耐え切れずに骨を砕かれてしまうだろう。
「――な」
371 :
◆yyODYISLaQDh
[sage saga]:2017/04/17(月) 23:23:51.66 ID:bASNl0Z+O
驚愕したのは、またもや男の方だった。
見開いた瞳に映る相手の姿が、あまりにも衝撃だったのだ。
真九郎は防御すらしていなかった。
先ほどまでと全く同じ姿勢で、微動だにしなかった。
空中でバランスを崩し、受け身も碌に取れずに床に落下する男。
無様にもしりもちをついた男は、ついに本当の意味での実力差を思い知る。
「その脚――」
呟くようにして腕を伸ばし、男の足首を掴んで立ち上がる。
いとも簡単に逆さ吊りにされた男は情けなく短い悲鳴を漏らす。
「――どこで手に入れた?」
鬼を思わせるその気迫に、男は気絶を堪えるので精一杯だった。
〜〜
「紅くんお帰り〜」
「話がある、星?絶奈」
いつも通り真九郎の部屋で消毒用アルコールを呷っている女に、真九郎は携帯電話を突き付けた。
画面に映っているのは先程の男の脚の写真だ。
213.24 KB
Speed:0.1
[ Aramaki★
クオリティの高いサービスを貴方に
VIPService!]
↑
VIP Service
SS速報VIP
更新
専用ブラウザ
検索
全部
前100
次100
最新50
続きを読む
名前:
E-mail
(省略可)
:
書き込み後にスレをトップに移動しません
特殊変換を無効
本文を赤くします
本文を蒼くします
本文をピンクにします
本文を緑にします
本文を紫にします
256ビットSSL暗号化送信っぽいです
最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!
(http://fsmから始まる
ひらめアップローダ
からの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)
スポンサードリンク
Check
Tweet
荒巻@中の人 ★
VIP(Powered By VIP Service)
read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By
http://www.toshinari.net/
@Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)