柔沢ジュウ「雨か」 堕花雨「お呼びですか?」

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253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/05/05(木) 10:10:54.30 ID:Z0/lBtDYo
生きてるだけ?
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/09(月) 09:05:50.04 ID:NqRqUEC70
おつ
255 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/05/10(火) 20:14:38.26 ID:FMHwTD6FO
=====


「いやー、なんか悪いねー」

まるで悪びれもせずにそんな台詞を吐く雪姫。
彼女の目の前にはケーキと紅茶が並べられており、彼女はそれらを実に幸せそうに口へと運ぶ。
対面に座るジュウは、そんな雪姫の様子を呆れ顔で眺めていた。

「それ食ったらさっさと帰れよ」

「ん〜、これも美味しい! ね、光ちゃんも食べなよ」

ジュウを無視して、光は自分の隣に座る光にフォークを差し出す。
光はフォークに乗ったケーキのスポンジを一瞥し、更に何故かジュウを睨みつけてからそれを頬張った。
咀嚼している最中も、ずっとジュウを睨みつけている。
雪姫はそんな光の様子を見て、何が楽しいのか厭らしい笑みを浮かべている。
公衆の面前で光に殴り飛ばされるようなことはなかったが、雪姫に絡まれるジュウと合流した直後、

「女ったらし」

と一言発しただけで、それきり光は一度も口を開かない。
ただひたすら、ジュウを睨みつけるばかりである。
ジュウは説得を試みたものの、光は聞く耳持たずと言った風で膠もない。
そんな中、雪姫が唐突に近くの喫茶店に入ることを提案。
昼下がりの駅前で人の目があったというのと、限定スイーツを食べさせてくれたら潔く帰ると雪姫が進言したため、ジュウは渋々承諾した。
256 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/05/10(火) 20:15:17.82 ID:FMHwTD6FO
入店の際に「3Pカップル一組」などと世迷い言を抜かす雪姫にジュウは逃げ出したくなったが、雪姫はジュウと光の手を掴んで離さず、そのままゴリ押しで入店し、カップル限定ケーキを頬張っている最中である。

「柔沢くんも食べる? はい、あーん」

「いらん」

「ちぇー、間接キスのチャンスなのになー」

マイペースな雪姫の様子に、思わず溜息が出る。
これでは光の目的が達成できないし、光の怒りも収まらない。
この女をどうしてくれようか、などとジュウが不穏なことを考え始めた頃、光が漸く口を開いた。

「……雪姫さん、今日はお姉ちゃん達と約束があったんじゃないんですか」

「あれ、知ってるの? 光ちゃんってば用意周到ー」

「…………」

「あはは、怖い怖い。なんかね、二人とも急用なんだってさ。何かは知らないけど。暇だから駅前で適当に服でも見てよっかなーと思ったら、柔沢くんがいたからちょっと絡んでみただけ」

発想がそこらのチンピラのそれである。
チンピラに絡まれれば拳で黙らせることもできるが、相手が女な上、雨の友人というのがジュウにとっては痛い。
そもそも女を殴るのは趣味ではないし、雪姫は普段はおちゃらけているものの、刃物を持てばおそらくジュウよりも強い。
雪姫は自称刃物愛好家であり、例えガラス片であろうとそれがモノを切れる物であれば、まるで二重人格者のように雰囲気が一変する。
257 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/05/10(火) 20:16:03.49 ID:FMHwTD6FO
その辺にいるチンピラや不良どもとは別の意味で相手にしたくない人間だ。

「光ちゃんと柔沢くんはデート?」

「違います」

「でも二人で待ち合わせしてたでしょ」

「たまたまです」

「柔沢くんはデートって言ってたよ」

ものすごい勢いでジュウを振り向いた光の目は飛び出るんじゃないかと心配になるほどに見開かれており、そこから非難を感じ取ったジュウは、テーブルを軽く叩く。

「雪姫、いいかげんにしろ」

雪姫は最初はヘラヘラしていたが、ジュウが眼光を強めると流石に萎縮したのか、拗ねるように唇を尖らせる。
その隣りに座る光も何故か驚きの表情でジュウを見つめていた。
ジュウは一度光に目配せすると、今回の件について雪姫に説明しはじめた。
光がしつこい同級生に好意を向けられて困っていること、安直に実際にはいない彼氏がいると言ってしまったこと、それを証明するために彼氏役が必要でそれを見せつけなければならないこと。
自身の口から説明してみるとなんとも阿呆らしい経緯ではあるが、雪姫は真面目な顔で黙って聞いていた。
説明を終えても、雪姫はジュウの目を真っ直ぐに見つめてくる。
今の話を疑っているのだろうか?
しかし、ジュウは一つも嘘をついていない。
暫く睨み返してやると、今度は光の方に向き直る雪姫。
258 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/05/10(火) 20:16:31.75 ID:FMHwTD6FO
光は雪姫の視線を真正面から受け止め、見つめ返している。
また暫くそうして、やがて雪姫は、ふうん、と言ってフォークを残っていたケーキに突き刺し、一口で平らげた。

「わかったわかった。そういうことならしょうがないよね。今日は帰りますよ」

ケーキを嚥下し、紅茶を一息に飲み干すと、雪姫は漸く納得したようだった。
光とジュウは、心の中で胸を撫で下ろす。

「じゃあ、ここは柔沢くんの奢りね」

「おい待て、なんでそうなる」

「奢ってくんなきゃ帰らない」

ジュウは再び言い返そうとしたが、目的を優先するために折れることにした。
レシートを持って支払いを済ませ、店外に出る。
先に出ていたらしい雪姫が、光に何か耳打ちをしている。
何を言われたのか、光は身体をビクつかせ、一歩離れた雪姫と目が合うと、途端に耳まで赤く染め上げた。

「おい、またなんか余計な嘘を教えてるんじゃないだろうな」

「私はね、この世のシンリってやつを教えてあげてたのだよ」

「もういい加減満足しただろ。とっとと帰れ」

ジュウがしっしと手を振って追い払うと、何が楽しいのか雪姫は大げさに手を振りながら帰っていく。
259 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/05/10(火) 20:16:59.95 ID:FMHwTD6FO
雪姫が駅の中に消えていくのを確認すると、ジュウは光を振り返る。
光は何故かジュウに背を向けて俯いていた。

「おい、大丈夫か?」

「…………ダイジョウブ」

ロボットのようにカタコトな返事をする光。
ジュウは不思議に思ったが、せっかく返事をしてくれるまで機嫌を直した光に下手なことを言ってまた怒らせては堪らない、と追求するのをやめた。
自分に背中を向けたままの光に問いかける。

「随分時間を喰われちまったが、今日はどこに行くんだ?」

光はハッとしたように顔を上げると、ちょっと待って、と言ってポケットから紙切れを取り出す。
背中越しなので詳細は見えないが、どうやら何かのメモのようだ。

「え、えっと、まずはその……服を見に、行きたいん、だけど……」

「わかった。そこの駅ビルとかか?」

「う、うん」

光は緊張した面持ちでジュウを振り返り、目的地に向かって歩き出した。
ジュウも少し離れてその横を歩く。
歩きながら光の様子を観察すると、今日は普段よりも可愛らしい格好をしていることに気がついた。
初めて遭遇したときはジャージにタンクトップという少年のような出で立ちだったのが、タイツの上にキュロットスカート、足にはショートブーツ、明るい色のダッフルコートを羽織っており、見違えるようだった。
260 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/05/10(火) 20:17:25.82 ID:FMHwTD6FO
そういえば、今まで光と会うときは制服姿ばかりであり、私服をまともに見るのは初めてかもしれない。
もともとこういう服も着るのだろうか、いや、これから行くのも服屋だというし、もしかしたら最近目覚めたのかもしれない。
ジロジロと見過ぎたのか、光が訝しげな視線を送ってくる。

「……なにジロジロ見てんのよ」

「いや、別に」

思ったよりも可愛い服を着るんだな、と言おうとしたが、また何かしらの罵声が飛んできそうでジュウは言葉を飲み込んだ。
光は女子中学生の平均身長どころか成人女性の平均身長を悠に超え、かなりの長身だ。
そのせいで雨と並ぶと光のほうが姉に間違われることもしばしばあるらしい。
そんな光が見た目相応の大人びた服ではなく、年齢相応の可愛らしい服を着ていることに、ジュウはなんとなく微笑ましさのようなものを感じていた。

「…………あっそ」

ジュウの返事に対して小さく呟くと、光は歩調を速めた。
自分の返答が気に食わなかったのか、とジュウは思案したが、他人の気持ちなどわかりようがない、といういつもの答えに辿り着き、考えるのをやめた。
そこからは二人とも無言で駅ビルに入り、そして光が適当に店に入っては服を物色するのを後ろからジュウが眺める、という状況が続いた。
ジュウとしては女性物の服と女性客に囲まれ続けるのはなんとも居心地が悪かったが、本物のデートもこんなものなのだろうか、と適当なことを思った。
ジュウはふと、以前、雪姫と二人で出かけた時のことを思い出す。
あの時には雪姫のマシンガントークが途切れることはなかったし、今の光のように仏頂面で黙っていることなどなかった。
今日も然り、雪姫には初めて会った時から振り回されてばかりだ。
いや、それは光も同じことか。

「……変態」

261 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/05/10(火) 20:17:51.46 ID:FMHwTD6FO
光の方を見ると、姿見越しに目が合った。
謂われのない罵倒なうえ、場所が場所なのでジュウは反論せざるを得ない。

「何がだ。というか、こういう場所でそういうことを言うのはやめろ」

「どうせ、雪姫さんのこと考えてたんでしょ」

どうしてこう、女というのは勘が鋭いのか。
ジュウが一瞬息を詰めたのを見逃さず、光は言葉を重ねる。

「お姉ちゃんや雪姫さんだけじゃなく、いろんな女の子を引っ掛けて歩いてるんでしょ、どうせ」

「言いがかりだ」

「どうだか」

ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまう光。
女というのは本当に厄介だ。
やたらと勘が鋭い上に、突然怒るし、その理由もわからない。
ただ謝っただけでは許してはくれないし、かと思えばいつの間にか機嫌が直っていたりする。
こんな生き物と人生の苦楽を伴にするなど、考えるだけで辟易しそうだ。
そもそも、そんな不機嫌になるほどに嫌いな相手である自分をなぜ彼氏役などに指名するのか。
そこまで考えて、ジュウはふとあたりを見回した。
視界に入るのは女性ばかりで、たまに男もいるが、大抵は女連れ。
一人でいる男もいるにはいるが、どれも中学生には見えない風貌をしている。

262 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/05/10(火) 20:18:17.75 ID:FMHwTD6FO
「光、例の奴は来てるか?」

「え?」

「だから、お前に付き纏ってる同級生のことだよ。見る限りではいないみたいだけど」

ジュウの問いに光は暫く呆然とした後、あ、と小さく音を漏らした。

「……まさか、目的を忘れてたのか?」

「そ、そんなわけないでしょ! えーと、その、あれよ。ここに入る前まではいたわよ……たぶん」

「ふうん」

もう一度あたりを見回してみるが、それらしき人影は見えない。
ジュウと光の様子を見て諦めたのか、それとも、どこかこちらからは見えない位置に隠れているのかもしれない。

「ちょっとこの階を一周りしてくる。お前はこの辺にいてくれ」

用心に越したことはない。
そんなに大きな建物でもないし、一周してそれらしき人物がいなければ、おそらく諦めたと見ていいだろう。
後ろから光の呼び止める声が聞こえるが、すぐに戻る、と言い残して歩き始めるジュウ。
歩調は一定にせず、物陰や人の隙間、店の中なども注意深く観察する。
ジュウと光が現在いるフロアは女性物のみせしかないらしく、たまに店員から訝しげな視線を向けられるが無視。
ランジェリーショップなどもあるが、ここは流石にスルーした。
ジュウは、相手が男一人でこんな店に入れるような度胸の持ち主ではないこと祈った。
263 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/05/10(火) 20:19:32.26 ID:FMHwTD6FO
一周してジュウが元の店に戻ってくると、光の姿が見えなくなっていた。。
他の店に移ったかと近くの2、3店舗を見てみるが、そこにもいない。
それほど時間は経っていないはずだが、どこに行ったのだろうか。
電話を掛けてみようかとも思ったが、そもそも連絡先を知らない。
どうしようかと思案していると、店員がジュウに近寄ってきた。

「お客様、お連れ様ならこちらですよー」

お連れ様、と言うのは光のことだろうか。
この店にそれほど長居したわけではなかったが、どうやら顔を覚えられていたらしい。
他に手がかりもないので、店員に促されるままに店内を歩いて行く。
こちらです、と店員に案内されたのは、試着室の前。
カーテンによって仕切られている空間の足元には、光の履いていたショートブーツが揃えられていた。
なるほど、姿が見えなかったのはこのカーテンの向こうにいるかららしい。

「光、戻ったぞ」

「あっ!? ああああああんたもう戻ってきたの!?」

よほど驚いたのか、カーテンが光の動きによって大きく揺れる。
その拍子に中が見えるようなことはなかったが、ジュウは念の為に視線を逸らした。

「試着してんのか? 待っててやるから、早めに済ませろよ」

件の同級生がいないとわかった以上、こんな居心地の悪い空間に長居するのはごめんだ。
目的を達したのなら、ジュウは晴れて御役御免となる。
264 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/05/10(火) 20:19:59.30 ID:FMHwTD6FO
この駅ビルは若い女性にも人気の場所であり、それだけに誰に遭遇するかわからない。
自分は女の知り合いなど限られているが、光は友達も多いだろうし、学校でまたぞろ変な噂が立っては面倒だ。
しかし光はそんなジュウの心中を知ってか知らずか、カーテンの向こうからなかなか出てこない。

「ま、待ってるって……! あああんた、本気で言ってんの!?」

「本気も何も、俺一人で帰るわけには行かないだろうが」

なにかおかしなことを言っただろうか?
さっさと試着を済ませて、早く帰りたい旨を伝えただけなのだが。
何故かさっきの店員が少し離れたところから微笑ましいものを見るような表情をしているし、かなり居心地が悪くなってきた。

「おい、まだか?」

「ちょ、ちょっと待ってよ! すー……はー……。……あ、開ける、わよ」

カーテン越しに急かすと、光は一度大きく深呼吸をして、カーテンを勢いよく引いた。
そこには、柔らかそうな生地のフレアスカートに、厚手のタートルネックを着て佇む光がいた。
両手を胸の前で握りしめ、顔を真っ赤にして俯いている。
265 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/05/10(火) 20:20:47.12 ID:FMHwTD6FO

「…………」

「…………」

「…………な、なんか言いなさいよ」

「……なんで試着したままなんだ?」

そう、光は何故か、試着をしたままの姿で出てきたのだ。
これから帰るというのに、試着したままでは帰ることなどできない。
それとも着たまま会計を済ませて、そのまま帰るのだろうか。
ジュウが率直な疑問を口にすると、光は呆けたように口を開け、そして、真っ赤に染まった顔を更に赤くして拳を振りかぶった。

「ばかっ!!」


〜〜〜〜〜
266 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/05/10(火) 20:22:08.35 ID:FMHwTD6FO
大変遅くなってまことに申し訳無い。
今回はここまでです。
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/10(火) 20:38:09.10 ID:JTx11mw3o
乙です
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/10(火) 22:09:39.16 ID:PSth5lBdO
乙!キュンキュン来るぜ
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/11(水) 00:23:22.69 ID:PJLDLpY0O
くそ
ジュウ替われ
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/17(火) 20:08:45.91 ID:IInPq3rbO
次はいつかなー?
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/23(月) 23:38:07.89 ID:R46Uy6XpO
超待ってる
272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/03(金) 22:31:57.26 ID:jLp+K2AGO
マダー?
273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/10(金) 13:30:41.39 ID:9DbOROtaO
梅雨だよ
274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/17(金) 23:20:49.89 ID:UEX7wiA2O
275 : ◆yyODYISLaQDh [sage]:2016/06/22(水) 20:04:31.48 ID:KzZmolM9O
長らくお待たせして申し訳ない
もうしばし
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/22(水) 21:38:44.46 ID:ZIVlvLnLO
おっけー
待つぜ
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/23(木) 02:13:02.07 ID:+SVfEIx/O
おほー待ってたよ
278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/02(土) 00:38:21.30 ID:PlmpTPW+O
マダー?
279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/13(水) 00:40:06.34 ID:NereEW+LO
また一から読み直した
とても素晴らしいね
読み返して思ったこと
もう1年半以上経つ
完結まで本当に6年かかるかもしれないと思った
>>47 こいつのせいだな
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/15(金) 19:50:55.95 ID:d2ufs8kWO
続きが待ち遠しくてビクンビクン
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/18(月) 00:53:36.98 ID:O8p45Egd0
おつおつ̀ー́
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/30(土) 16:03:43.71 ID:CjDn0OMRO
待ち遠しいビクンビクン
283 :1 [sage]:2016/07/30(土) 22:33:49.07 ID:cJpH03Wz0
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/01(月) 00:13:01.94 ID:aVqDNEvMo
酉のあるスレで馬鹿か
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/11(木) 23:29:38.52 ID:/nHWEhJI0
今追いつきました
違和感がなくてすごい・・・
286 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/08/12(金) 07:52:33.32 ID:jazHW5toO
お待たせしてほんとに申し訳ない
9月になるまでちょっとバタバタしてるので、更新はおそらくそれ以降です
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/08/12(金) 10:41:50.49 ID:GyaG00Ew0
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/09/04(日) 19:35:21.89 ID:uTbQrzSO0
うー
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/04(日) 21:52:18.18 ID:tSZjTCY4O
楽しみに待っておるよ
290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/21(水) 16:39:41.39 ID:GdfLSx3TO
9月も半ば過ぎたよ
291 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/10/01(土) 07:19:39.34 ID:gwZkY8xS0
10月になっちまったよ…
292 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/12(水) 20:38:11.54 ID:g5impMbPO
おーいおーいおーい
生存確認!
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/10/12(水) 20:38:40.60 ID:g5impMbPO
おい!
294 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/13(木) 02:16:58.83 ID:25xmgEpkO
実生活がキツイのかねぇ…
295 : ◆yyODYISLaQDh [sage]:2016/10/13(木) 20:35:07.87 ID:PtTb73MdO
すまぬ…すまぬ…
今月中に書ければ投下したい
原作がクロス作品なのにクロスさせるの難しい…
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/14(金) 00:36:57.36 ID:Lnhat11iO
同じ世界だけど別世界…期待して待ってるよ
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/14(金) 07:50:57.76 ID:LhD5/wB/O
ギリギリすぎんだろ…
298 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/10/14(金) 22:20:35.32 ID:J8WJ1/+kO
=====


大きな窓に映る自身の姿を見て、やはり自分にはこういう格好は似合わないな、と真九郎は思った。
こういう派手な格好をするには、圧倒的に顔に貫禄が足りないのだ。
オールバックに整えた髪を乱さない程度に頭を軽く掻く。
もう成人式もとっくに終えたというのに、未だに高校生に間違われることもある。
真九郎は後ろを通った屈強な身体つきをしているガードマンを見て、その威圧感に嘆息した。
こんな自分だからこそこなせる仕事もあるのだから一概に悪いとはいえないが、いずれは九鳳院の近衛隊隊長である騎馬大作ぐらいの雰囲気は手に入れたいものだ。
もう一度、窓に映った自分の格好を眺めてみる。
比較的地味ではあるが、パーティ用のそこそこ高級なスーツに、オールバックに整えた黒髪。
真九郎は今夜、とあるパーティー会場に来ていた。
非合法な会合とか、なにかの組織が催すようなものではなく、国内外の大手企業や財閥の代表が集う、懇親会みたいなものだと聞いている。
真九郎はガードマンとして雇われてはいるが、全身黒尽くめのガードとは違い、綺羅びやかな格好をして他の参加者たちに混じり、怪しい人物がいないか目を光らせている。
今回のパーティーには九鳳院は参加していないものの、雇い主は以前九鳳院の伝手で雇ってもらった某グループ企業の会長であり、つまりは真九郎のリピーターだ。
リピーターの存在は仕事としては喜ばしいことだが、噂によると彼には衆道の気があるらしく、真九郎としては微妙な心情である。

「あら、お見かけしない顔ですわね。どちらからいらしたのかしら」

「こんばんはマダム。私、こういう者です」

参加者の夫人らしき女性に声を掛けられた真九郎は、慣れた手つきで名刺を差し出す。
女性は名刺を眺め、失礼ながら存じ上げませんね、などと愛想笑いを返してくる。
それもそのはず、真九郎がたった今差し出したのは、偽の名刺だった。
299 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/10/14(金) 22:21:25.90 ID:J8WJ1/+kO
偽とはいってもホームページや会社のビルまであることになっており、ネタばらしをするなら、銀子の手によって作られた架空の会社である。
もちろん、名前のところにも偽名が使われている。
真九郎も裏の世界で名前が広まっており、いつどこにどんな人間がいるかわからない場所では、いつも銀子が作ってくれた設定に頼っている。
裏の世界の人間ならば誰もが知る伝説の情報屋・村上銀次。
その全てを受け継いだ孫娘である銀子の情報操作は、ちょっとやそっとでは暴くことはできない。
真九郎は夫人に実態のない会社の説明をするが、彼女はさして興味もないのか、適当に聞き流しているようだった。
今回のようなスタイルでパーティーに潜入するのは別に初めてではない。
裏世界での知名度は上がったとはいえ、表世界の人間にまで認知されるほどではない。
それこそ道行く人が皆振り返るような、最高の揉め事処理屋と呼ばれた柔沢紅香ほどの目立つ人間であれば別だろうが、裏世界でどんなに仕事をこなそうが表世界では見向きもされないのだ。

「それにしてもお若いのね。失礼ですけれどおいくつ?」

「見た目ほど若くはないと自負しております。マダムこそ、随分とお若いのですね。それにお美しい」

「まあ、お上手」

夫人は口元に手を当てて上品に笑う。
最近はこんな社交辞令にも慣れてきて、口にする度に顔が赤くなるようなこともなくなった。
それから他愛もない話を二、三して、「すみません、お手洗いに」と言って夫人と別れた。
手を振る夫人を尻目に、ホールを出る。
出入り口付近にいたボーイに声をかけてグラスを二つ受け取り、トイレとは反対の方向にある階段を下って、屋敷の庭園へ出る。
無論、酔いを醒ましに来たわけでも、気まぐれに散歩をしているわけでもない。
この庭園は、つい先程まで真紅郎がいた3階のパーティーホールからよく見える位置にある。
上から一望することで、侵入者や危険物などをSPなどがいち早く発見できるようにするためだ。
しかし、この屋敷の所有者の趣味だろうか、庭園全体に薔薇などの草木が植えられており、視界が悪くなっている。
300 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/10/14(金) 22:21:52.68 ID:J8WJ1/+kO
庭師や警備の努力によって死角は極力減らされているが、上から見ても庭園の警備員から見ても死角となる部分が一箇所だけある。
頻繁にこの屋敷に招待されている者や、この屋敷を守護している者も気づかない、或いは見過ごしてしまう程の本の小さな死角。
草木によって作り上げられたその死角――そこに佇む、一人の女性。
この庭園の死角は偶然できたものではなく、人為的に作られたものだ。
真九郎の経験上、パーティーの会場で密かに逢瀬を楽しむ男女(或いは同性かもしれないが)の為に、こういった場所が設けられている屋敷は少なくないが、警護する側からすればはた迷惑な話だ。

「こんばんは」

真九郎は、その女性に声をかける。
身長は真九郎と同じ程度で、女性にしては長身。
黒い喪服のようなドレスを身に纏い、帽子を目深に被っている。
女性の装いに対して、脳裏に黒猫を抱いた魔女が浮かぶが、雰囲気や身体的な特徴から、それは違うと真九郎には断言できる。

「…………」

どうぞ、と言ってグラスを差し出すが、対する女性は口も開かないまま真九郎の顔を見つめている。
警戒されているのだろうか、と真九郎は考えるが、この場所と時間を指定してきたのは相手側であるし、さっさと話を進めろ、ということか。
真九郎は警護の仕事の為にこの屋敷へ来た。
しかし、この屋敷には、もう一つ用事がある。
それが、この女性と落ち合い、報告をすることだった。
このほんの小さな死角も、彼女が指定してきた場所である。

「あの――」

依然として沈黙を保つ女性に対して、真九郎がその報告を口にしようとした瞬間――
301 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/10/14(金) 22:22:18.68 ID:J8WJ1/+kO
――真九郎の視界の外から飛んでくる、鋭い蹴り。
それは紛れもなく、目の前の女性が繰り出した蹴りであった。
一撃必殺を思わせる速度と鋭さ。
撓るように放たれた脚は、しかし、真九郎のこめかみの手前で、ピタリとその動きを止めた。

「…………」

「…………」

女性はその姿勢のまま真九郎を観察し、そして真九郎もまた、女性を無言で観察していた。
ほんの数秒ほどそうしてから女性は元の姿勢に戻り、真九郎からグラスを受け取る。

「この程度にも反応できないの?」

漸く口を開いたかと思えば、嘲笑うような、落胆したような声色で言葉を向けてくる女性。
その声は、女性と言うよりも少女に近い、と言うのが真九郎の感想だった。
大人びてはいるがまだ少し幼さが残る雰囲気で、おそらくは真九郎よりも年下。

「定期報告のために俺より年下の方がお見えになるのは、初めてですね」

「……そうね」

帽子のせいで表情を窺うことはできないが、今の一言だけで自分の年齢を看破されたことに驚いたのか、グラスの水面に小さな波紋が起きる。
明らかな経験不足が見えるが、真九郎はあえてそこを追求するようなことはしない。
経験不足と言えば、先ほどの蹴りもそうだ。
先程の蹴りには、全く殺気が見えなかった。
302 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/10/14(金) 22:22:46.28 ID:J8WJ1/+kO
威嚇か、それとも度胸試しかはわからないが、そう判断したからこそ、真九郎は一歩も動かなかったのだ。

「まあいいわ。…………報告を」

「はい。星?絶奈、斬島切彦、ともに異常なし。引き続き、こちらで監視します」

《星?》と《斬島》。
この両家は、裏十三家に数えられる一族である。
裏十三家とは、古来から続くこの国の闇――裏の世界を支配する存在だ。
《歪空》、《堕花》、《斬島》、《円堂》、《崩月》、《虚村》、《豪我》、《師水》、《戒園》、《御巫》、《病葉》、《亜城》、《星?》。
紫の生家である《九鳳院》家を含む表御三家と、真九郎が少年時代を過ごした《崩月》家を含む裏十三家。
これらの一族によって、表と裏からこの国は支配され続けて来た。
尤も、裏十三家の方は崩月家のように裏家業を廃業していたり、他では断絶している家もあるらしい。
そんな中、《星?》と《斬島》の両家は、つい最近まで裏世界で暗躍していた一族である。
そしておそらく、この少女もまた裏十三家に名を連ねる一族の一人。

「それにしても、《円堂》の人なのに、随分と好戦的なんですね」

「…………」

敢えて、挑発めいた言葉をぶつけてみるが、先程見せた動揺を自覚しているのらしく、グラスに波紋は見えない。
しかし、グラスを持つ指が強く握られているのを、真九郎は見逃さなかった。
言葉や格好は大人びていても、雰囲気やその精神は子どもであり、素人にも近い。
なぜ、こんな少女が連絡役に寄越されたのだろうか。
そもそも今までは電話や封書でのやり取りが多かったのに、今回は直接だ。
303 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/10/14(金) 22:23:26.08 ID:J8WJ1/+kO
裏十三家の一つである《円堂》。
彼らは裏十三家の中で唯一、表の勢力と融和した一族であり、警察機構などともコネクションがある。
この国を守るためならばテロリストによる虐殺すら見逃すほどであるその性質は『完全保守』。
一年前の事件から、真九郎は当時、《星?》と《斬島》の当主であった絶奈と切彦の監視役――とは名ばかりで現在は保護者となり果てている――を買って出た。
そのとき、師である柔沢紅香を通して《円堂》は真九郎に条件を提示してきた。
それがこの定期報告である。
一ヶ月ごとに円堂の遣いの者か、もしくは指定された方法で、切彦と絶奈の状態を報告することが、切彦と絶奈を真九郎が預かるための条件だった。
《円堂》は最初、紅香に対して絶奈と切彦の抹殺を依頼していたらしい。
曰く、二人は勢力の均衡を崩壊させる火種であり、不安の芽は早々に積むべきである、と。

『お前が決めろ』

とは、紅香の言葉だ。
あのとき、瀕死の絶奈と切彦を前にして真九郎は紅香に判断を仰いだ。
このまま見捨てるのか、それとも匿うのか。
しかし、紅香は真九郎に決断を丸投げした。
そして真九郎の決断に対して、紅香は協力を約束してくれた。
もちろん、二人の抹殺を依頼してきた《円堂》の説得も、紅香のおかげで滞りなく済んだのだ。
まったく、紅香には頭が上がらない。
そして真九郎は同時に《円堂》に対する不信感も増していた。
紅香への依頼の件とは別に、真九郎は過去に何度か《円堂》に裏切られている。
思想や主義のすれ違いによるものとはいえ、何度も続けば良い感情をもてるわけもない。
真九郎が交渉の場でもないのにわざわざ挑発的な言葉をぶつけてみたのも、その感情の表れだった。

「……《星?》と《斬島》を飼うなんて、貴方、正気とは思えないわ」

304 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/10/14(金) 22:24:03.58 ID:J8WJ1/+kO
その挑発に対して少女は応えず、逆に挑発めいた言葉を返してきた。
《星?》家は、《悪宇商会》という人材派遣会社の設立に深く関わった一族だ。
人材派遣といえば聞こえはいいが、その実、ボディガードから誘拐・暗殺までなんでも請け負う、裏社会の住人が蠢く巣窟。
真九郎も、かつては《星?》の当主であり、《悪宇商会》最高顧問であった星?絶奈と対立し、殺し合った関係である。
およそ同じ人間とは思えない肉体と思想、倫理。
一度は人外の敵と見做した相手をどうして助けてしまったのか、真九郎にもよくわからない。
それでも、あの弱り切った絶奈を前にして、真九郎は手を伸ばさずにはいられなかったのだ。
しかし、《円堂》からすればそんな真九郎の心情など関係ない。
一年前の件だけでいえば被害者であった絶奈個人ではなく、表の世界にまで影響を及ぼした事件の発端である《星?》を危険視するのは当然のことだ。
そんなことは百も承知だが、理屈と感情が完璧に合致することなどそうはない。
それとも、揉め事処理屋として、一人の男として、真九郎がまだまだ未熟なだけなのだろうか。

「俺は《崩月》ですよ。裏の人間同士でつるんでいたって、別に不思議じゃないでしょう」

「…………」

真九郎の皮肉めいた言葉に対して、少女は言葉を返さない。
揉め事処理屋の紅真九郎が《崩月》の戦鬼であることは、裏世界の人間ならば誰でも知っている。
特に1年前の事件を知る者の間では、真九郎は《悪鬼》などという異名を付けられているほどだ。
そんな連中から言わせれば、紅真九郎という人間はとうに箍が外れているも同然。
更に言えば、そんな真九郎を《円堂》が警戒していないわけがない。
しかし先程の少女の発言は、まるで真九郎がまともな人間であるとでも言っているかのようにもとれる。
まるで、真九郎がどんな人間なのかを知っているような――

「そろそろ、戻った方が良いんじゃないかしら」

305 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/10/14(金) 22:24:29.82 ID:J8WJ1/+kO
――少女の言葉で、真九郎の思考は中断される。

「……そうですね、あまり離れすぎると、何かあったときに困りますから」

庭園に来てから、既に5分以上経過している。
プロの殺し屋なら、上のパーティー会場にいた人間を皆殺しにするのに、3分とかからない。
少なくとも、自分ならば――――
真九郎は無意識に、自身の左肘に爪を喰い込ませていた。
喉の奥の塊を、息とともに細く短く吐き出す。
それから、訝し気にする少女に一礼して背を向ける。
庭園から屋内に入る際に一度振り返ると、少女は死角に消えて、既に見えなくなっていた。
もしかしたら、どこかで会ったことがあっただろうか、と顔の見えない少女に記憶を巡らせて。

「まあ、いいか」

と、小さく呟いた。


〜〜〜〜〜
306 : ◆yyODYISLaQDh [sage]:2016/10/14(金) 22:28:41.35 ID:J8WJ1/+kO
毎度毎度長らくお待たせして申し訳ないです。
そのくせ、あんまり展開は進まないという始末で……
1年前のことは、以前も書きましたが別スレをそのうち立てて書くので、今しばらくお待ちを。
もしかしたらPixivに移行するかもしれませんが……いずれにしろ、このスレを書ききってからの話ですね。
それでは今回はここまでです。
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/14(金) 22:31:02.43 ID:3UK7Rcypo
乙です
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/15(土) 00:41:55.16 ID:XKpJTvSL0
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/15(土) 01:51:10.32 ID:YH/l68n0O
オホー乙乙
待ってるぜー
310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/15(土) 02:46:12.79 ID:UI2m8xcDo

無理しないで
311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/15(土) 11:50:48.36 ID:4szjR971O

生存報告でもいいからスレを落とさないでくれ
ギリギリすぎて毎度ハラハラするわ
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/15(土) 12:37:18.09 ID:Gkk/Uj82o
乙乙乙
313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/17(月) 16:42:21.89 ID:DtNvX7kc0
お前の更新を待ってたんだよ!
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/05(土) 09:46:46.47 ID:kZevey+dO
ほしゅ
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/22(火) 01:03:50.53 ID:rjRGeq6IO
保守
316 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/30(水) 02:12:51.29 ID:1NLPRKcRO
マダー?
317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/02(金) 16:03:50.99 ID:eIpL/GFfO
またギリギリになりそうな予感
いつ落ちても不思議では無いのはやだなぁ
318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/10(土) 01:19:59.79 ID:CpGEUiFc0
保守ゥ!
319 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/10(土) 10:55:49.46 ID:olCwMgPno
おいおいまたギリギリだよ
320 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/15(木) 17:53:25.16 ID:ez1dv+P2O
ちょぉぉぉぉぉ!
落ちるぞ
321 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/18(日) 01:05:50.05 ID:Rj/mYV/0O
まだ来てない…だと…!?
322 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/19(月) 13:33:52.01 ID:sChZhohpO
いつ落ちてもおかしくないからお礼を
>>1
あなたの書くジュウや、雨、光、紫、真九郎…
みんな好きだったよ
続きが見れないのは残念だけど、楽しい時間をありがとう
323 : ◆yyODYISLaQDh [sage]:2016/12/22(木) 19:30:02.49 ID:KTOjgENUO
お待たせしてすみません
絶賛スランプ中であります
324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/22(木) 20:50:45.01 ID:Ini8YQkMO
スランプ解消を依頼しなければ…
325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/23(金) 11:13:22.84 ID:H32BHl+wO
落ちなくて一安心
326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/04(水) 07:59:38.41 ID:88NrbDm4O
あけおめ保守
327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/06(金) 11:44:03.59 ID:JJ0flYUfO
新刊出ない分このSSに期待支援
328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/15(日) 16:10:51.50 ID:NXiPwIYj0
しゅっほしゅっほ
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/17(火) 06:11:27.05 ID:r0Qta3amO
|д゚)チラッ
330 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/31(火) 22:25:15.61 ID:VpVRY3lc0
ほす
331 : ◆yyODYISLaQDh [sage]:2017/02/02(木) 18:14:59.03 ID:GXv9wLGAO
お待たせしております
2月中に投下予定です
332 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/04(土) 01:20:51.37 ID:eSUDW/rKO
おぉ
まってた
333 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/09(木) 23:53:53.92 ID:HxrLSt2ko
正直信じられない
334 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/20(月) 23:53:49.02 ID:sCLmiysM0
a
335 : ◆yyODYISLaQDh [sage]:2017/02/23(木) 20:52:30.43 ID:V014Qou/O
投下します
336 : ◆yyODYISLaQDh [sage]:2017/02/23(木) 20:52:57.23 ID:V014Qou/O
=====


光による原因不明の鉄拳制裁を受けた翌日。
昨日は光に連れまわされ雪姫に絡まれ、散々な一日だった。
光はまだ可愛いものだが、雪姫は何を考えているのかよくわからないし、雨は過保護だし、あいつらと一緒にいると、酷く疲れる。
今日は祝日で、学校も休みである。
ジュウはそんな休みの一日を昨日の分まで、一人で悠々自適に過ごすつもりでいた。
つもり、と言うのは、現実にはそうなっていないということである。

「どうした。食べないのか」

どんな聖人君子だろうと、誰もが人生の中で最も苦手とする人間と出会うだろう。
柔沢ジュウにとっては、目の前にいるこの人物こそがそれだった。
ウェーブのかかった長い茶髪と、ワインレッドのスーツ。
二十代と言われても納得できてしまう美貌とスタイル。
テーブルに肘をつきながら、ジュウを横目に紫煙をくゆらせているこの女の名前は、柔沢紅香。

「母の手料理を無駄にするつもりか?」

柔沢ジュウの、実の母親である。
目の前にはナポリタン、付け合わせのサラダとスープ、そしてどうやら手作りのプリンが用意されている。
無論、普段学校の弁当におにぎりを適当に握っていくだけのジュウがこんなに手の込んだ昼食を用意するはずもなく、これらは紅香が作ったものだった。
皿から立ち上る香りが鼻腔をくすぐり、胃袋は目の前の料理を受け入れる準備を整えている。
しかし、それらを前にして、ジュウは手を付けるのを躊躇していた。
別に、毒が入っているかもしれないとか、皿に蠅が集っているとかいうわけではない。
料理自体は盛り付けまで美しく、一般的な家庭と比較しても、豪華な昼食と言えるだろう。
ただ、自由な休日の出鼻を挫かれたような、そんな気分に勝手になっているだけである。
紅香はなかなか料理に手を付けないジュウに対する興味がさっそく失せたのか、テレビを眺めながら新しい煙草に火を点けている。
337 : ◆yyODYISLaQDh [sage]:2017/02/23(木) 20:53:40.16 ID:V014Qou/O
ジュウが物心ついたころから、こういう母親なのだ、この女は。
物凄く優しい母親のようなことをしたかと思えば、次の瞬間には急に無関心になったり、唐突に暴力的になったりもする。
好きか嫌いかと聞かれれば、苦手と言うのが一番しっくりくる。
そもそも滅多にこの家には帰ってこないし、どこか他所で男と暮らしているらしい。
子どもの頃はこんな紅香にも母親らしさを期待していたジュウだったが、現在ではただの目の上のタンコブだ。
ジュウは紅香を睨み付けてみるが全く効果は無く、鼻で笑われる始末だった。
この程度で済むのだから、今日はまだ機嫌が良い方だ。
虫の居所が悪ければ、皿に手を付けようとしない時点で何をされていたか、長年この女と過ごしてきたジュウとって想像に難くない。
観念してフォークを手に取り、ナポリタンを巻き付ける。
トマトソースの程好い酸味と塩味が舌の上で解けていく。
美味い。
悔しいが、ナポリタンも、スープも、サラダも、全てが美味かった。
無言で食べ進めると、あっという間に食べ終わってしまった。
デザートのプリンに手を伸ばす。
白磁の耐熱容器に収められたプリンをスプーンで掬って口へ運ぶ。
これも美味い。
同年代の男子に比べて自炊はする方だが、流石にこんな菓子までは作ったことはない。
自分で作るものや、ましてやコンビニのものなどとは比べ物にならないであろう味だ。
腕力でも勝てない、知力でも勝てない、更に料理の腕でも全く敵わない。
そういった事実をできるだけ意識から外しつつ、最後の一口を口へ運ぶ。

338 : ◆yyODYISLaQDh [sage]:2017/02/23(木) 20:54:22.66 ID:V014Qou/O

「そういえば、あのガールフレンドとはどこまでいったんだ?」

「げほぉっ!?」

予想外の問いかけに、思い切り噎せるジュウ。
口に入りかけていたプリンが吹き飛んで、テーブルと服の上に飛び散る。
紅香は、汚いな、と露骨に顔を顰めた。

「……あいつとは、そういう関係じゃねえ」

「なんだ、そうか」

大した興味も無かったのか、紅香はテレビを消して椅子から立ち上がり、コートを羽織る。

「片づけておけよ」

背を向けたまま面倒くさそうに言い放ち、さっさと玄関に向かっていく紅香。
ジュウはもはや何を言う気も起きず、皿を手に取りながら立ち上がる。
あの女の言うとおりに行動するのは癪だが、この皿をいつまでも残しておくと、逆に紅香の影が気になってしまうのも事実。
ここは早急に片づけて、適当にレンタルショップにでも繰り出すのが得策だ。
少し邪魔は入ったが、久々に一人を満喫しようじゃないか。
そんな決意とともにスポンジを泡立て、皿洗いに没頭する。
食べ終えてからそれほど時間も経っていないし、食器の数も少ないのですぐに洗い終えた。
後はテーブルの上を片付けて、服を着替えて、街へ繰り出すだけだ。
意気揚々と振り向いて、直後、ジュウは硬直した。
339 : ◆yyODYISLaQDh [sage]:2017/02/23(木) 20:54:59.28 ID:V014Qou/O

悲鳴を上げそうになるのをどうにか堪えた、と言うのが本当のところだ。
なぜなら、そこに堕花雨がいたからである。

「お邪魔しております」

深々と丁寧に頭を下げる雨だが、ジュウにとってはそれどころではない。

「お、お前いつから……!?」

「ジュウ様が食器を洗い始めたあたりからです。テーブルの上が汚れていましたので、片づけておきました」

見れば、確かに先程ジュウが吹き飛ばしたプリンの残骸が無くなっている。
しかし、ジュウが問題にしているのはそこではない。

「いつの間に入って来たんだってことだ! まさか――」

「いえ、以前禁止されましたので窓からではありません。普通に玄関から入ってきました」

「玄関?」

「はい。と言うよりも、入れて頂いた、と言う方が正しいかもしれません」

そこまで聞いて、ジュウはようやく思い至った。

「あのババア……!」

雨を招き入れた張本人、それは紅香だ。
おそらく、玄関を出た際に雨と遭遇。顔も知らなかった以前と違い、先日の事故などでジュウは雨に借りがあるし、それを知っている紅香はそのまま通したのだろう。
悪戯のつもりか、それともただ面倒だったのかは知らないが、紅香から一声あってもよさそうなものだ。
声もかけずに背後で待機している雨にも問題があるが、こちらは心臓が飛び出る思いだ。
340 : ◆yyODYISLaQDh [sage]:2017/02/23(木) 20:55:30.54 ID:V014Qou/O
大きく溜息を吐いてから、ジュウは雨に向き直る。

「それで、なんか用か?」

「正午を過ぎてもご連絡が無かったので、御身の無事の確認をと」

ジュウは再び溜息を吐いた。
寝起きに紅香が襲来していたために忘れていた。
学校にいる間だけではなく、休日も必ず安否の連絡をする決まりになっていたのだった。
正直言って、あまりにも過保護すぎる雨に対して、ジュウは辟易とした気持ちを隠せなくなってきていた。
それに昨日は雪姫と光に今日は紅香と、せっかくの休日だというのに一人で気を休める時間もない。

「そろそろ、止めにしないか」

これからもこんなことが続くのかということを考えれば、ジュウのこの提案は当然のものだった。
とはいえ、以前からこの提案は遠回しにしていた。
一人でも大丈夫だ、とか、なにかあったらすぐに呼ぶからいちいち確認はいらない、とか、わざわざ来てもらうのは申し訳ない、とか。
しかし雨は「ジュウ様のお命の為です」の一点張りで、頑として首を縦に振らなかった。
それは雨の妄想癖によるところでもあるし、同時に本気でジュウを心配してのことなのだろう。
それがわかっているからこそ、ジュウも明確な言葉は避けてきた。
雨とは長い付き合いとは言えないが、そのぶん濃い時間を共有しているし、何度も事件や勉強で世話になった。
もちろん感謝もしている。
だからこそ時間をかけて説得しようと思っていたのだが、ジュウは自分の短気さを忘れていたのだ。
341 : ◆yyODYISLaQDh [sage]:2017/02/23(木) 20:56:14.96 ID:V014Qou/O
「もう限界だ。止めよう、こんなこと」

前髪を乱暴に掻きながら、ジュウは勢いよく椅子に座る。
顔を天井に向けて、自分の不満を溜息と同時に吐き出す。

「俺もいちいち家に来られたら面倒だし、お前も無事を確認するためだけに自分の家から来るんじゃ大変だろ、結構遠いしな」

言いながら雨を見遣る。
相変わらず前髪のせいで感情は読めないが、少し驚いているような感じがする。
ジュウが迷惑がっているとは思わなかったとでもいうのか。
しかし、妄想の世界に生きる雨ならあり得ないというほどでもないか。

「だからさ、安否の定時連絡はもうこれきりにして、前みたいに――」

そこまで口にして、ジュウは違和感に気が付いて言葉を止めた。
目の前の雨に対する違和感であり、それは雨の全身を眺めてみて、初めて気が付くことだった。

「そういえばお前、今日は制服じゃないんだな」

今度はあからさまに動揺を露わにする雨。
手に持っていたバッグを取り落としそうになって、さすがは堕花雨、見事にキャッチした。

「それに、少し化粧もしてるか?」

しかし、ジュウの追撃によって雨は今度こそバッグを落とした。
342 : ◆yyODYISLaQDh [sage]:2017/02/23(木) 20:56:57.84 ID:V014Qou/O
全身を硬直させて、人形のように白い肌がどんどん赤く染まっていくのがわかる。
ジュウにとってそんな雨の反応は非常にレアだった。
そして、今日の雨の格好も。
少し丈の大きいニット地のセーターに、スキニージーンズを履いている。
セーターの白と黒い髪が対照的でよく映える。
いつも制服のスカート姿しか見ていないので、スキニーも印象的だ。
腕にはマフラーとグレーのコートを抱えている。
全体的に冬っぽい格好で、これから更に寒くなるのに合わせて揃えたのだろうか、あまり着古したようには見えなかった。
それに、雨が化粧というのも意外だった。
もともと綺麗な髪や透き通るような肌をしているし、今まで何度か出かけたときにはそんな様子はなかった。
今日も本当にうっすらとしているぐらいで、普段は色素の薄い唇が淡く染まっているせいでジュウも漸く気が付いたぐらいなのだが。
なんというか、雨であって雨でないような、云うなれば、気合が入っている、と評すればいいのか。
光もファッションに目覚めたようだし、姉妹揃って嵌っているのだろうか。
あるいは、光が雨に勧めでもしたのか。

「変、ではありませんか……?」

「え?」

「ぁ……」

雨は、しまった、というふうに所在無く手が動き、ジュウの視線から逃れるように顔を逸らした。
長い髪によってほとんど隠された顔のうち、ジュウには赤く染まった頬だけが見えた。

343 : ◆yyODYISLaQDh [sage]:2017/02/23(木) 20:57:42.64 ID:V014Qou/O
「いいと思うぞ。そういう格好も」

ジュウは気まずい沈黙が嫌で、思ったことをそのまま口にしてみた。
しかし、口にしてからなんとなく気恥ずかしくなり、ジュウは照れ隠しに前髪を乱暴に掻いた。
雨は何かを堪えるように唇を引き締めて、何も言わない。
再び流れる沈黙。
なぜこんなことになっているのか、ジュウにももはやわからなかった。
自分はただ、面倒な定期連絡を止めたかっただけだというのに。
しかし、その話を再開するためには、一度仕切り直さなければならないだろう。
ジュウは雨に座るように促し、お茶を淹れることにした。


〜〜


「ありがとうございます」

わざと時間をかけてお湯を沸かし、出来立てのお茶と適当な茶菓子を用意してやった。
そうして時間をかけたおかげか、湯呑に入った分のお茶を飲み干して幾分か落ち着いたのか、雨の頬の赤みは既に引いていた。
いつものように真っすぐジュウを見据えて淡々と話す様子に、ジュウは胸を撫で下ろした。
先程のような沈黙がいつまでも続くのは非常に居心地が悪い。
それも自分の家でとなれば尚更だ。
他所であれば自分が出て行けば済む話だが、自宅では撤退のしようがない。
雨と出会ったばかりの頃、髪の色を変えてまで逃げ回っていた自分を思い出して、ジュウは無意識に口元が緩んでいた。
そういえば、後にも先にも無抵抗で逃げ出した相手は初めてだった。
サイコパスな殺人鬼とも殴り合った、同級生には殺されかけて、裏家業の人間ともわずかながら相対した。
ジュウは、まるで人形のようにいつも通り自分の目の前にいる雨を見遣る。
344 : ◆yyODYISLaQDh [sage]:2017/02/23(木) 20:58:13.64 ID:V014Qou/O

白い肌。小柄で華奢な体躯。鼻の頭まで隠れるほど前髪の長い綺麗な黒髪。そしてその前髪の奥に隠されている美しい双眸。
あの瞳を前髪越しでない間近で見たのはいつ以来だろうか。

「ジュウ様?」

「――え?」

名前を呼ばれて、ジュウは湯呑を片手に立ったまま雨を眺めていたことに漸く気が付いた。
途端に顔が熱くなる。
ジュウはそのことを隠すように片手で顔を覆って椅子に座ると、何かを吐き出すように深呼吸をした。
……最近の自分は、本当にどうかしている。

「ジュウ様、大丈夫ですか?」

雨の心配気な声が聞こえる。
ジュウは、なんでもない、と短く応え、雨もそれ以上の追求はしてこなかった。
ジュウにはそれが心地よかった。
踏み込み過ぎず、かと言って突き放すわけでもない。
雨のその絶妙な距離の取り方は、ジュウにとって居心地のいいものだった。
まさに従者か侍女か、或いは――

「――さっきの話だが」

ジュウは咄嗟に思考を打ち切って、話を切り出した。
この思考は危ない、と本能的に察知して、鍵と鎖をがんじがらめにして心の奥底に押し込む。
なぜそうしたのかはわからない。
しかしジュウの中にある何かがそうさせた。
ともかくジュウはそれについて考えることの一切を放棄して、話を続ける。

345 : ◆yyODYISLaQDh [sage]:2017/02/23(木) 20:58:39.55 ID:V014Qou/O
「定期連絡はもう必要ないんじゃないか。あれからもう暫く経つし、そんなに危険に晒されることもしょっちゅう起きるわけじゃない」

「私はジュウ様の騎士です。ジュウ様の安全を確認する義務があります」

当然のように電波を発信してくる雨。
騎士だったり従者だったり奴隷だったりは雨のその時の気分によって変わるが、その妄想癖は相変わらずだ。
その点を追求しても堂々巡りになるどころかその内容を延々と聞かされることになるのはわかり切っている。
テーブルに突っ伏しながら、ジュウは話を合わせつつ雨の意見を退けようと試みる。

「そんな義務を課した覚えはない」

「私が私に課した義務です」

「それにしたって学校ならまだしも、休日に家まで来るな」

「確認の為です」

「そんなに俺に会いたいのか、お前」

雨の妄想に基づく屁理屈に対する、冷やかしや軽口のつもりだった。
いつもなら「私にそのような願望を持つ権利などありません」とか「本来ならば二十四時間お傍に控えさせていただくのが当然です」といった返事が聞こえてくるはず。
それなのに、雨からの返答は無い。
不思議に思って顔を上げるジュウ。

346 : ◆yyODYISLaQDh [sage]:2017/02/23(木) 20:59:09.70 ID:V014Qou/O
「――――」

そこには、再び顔を赤くしたまま立ち尽くす雨がいた。
耳どころか首まで真っ赤に染め上げて硬直している。
今日の雨は本当に変だ。
そして、そんなこいつの様子を見て落ち着かなくなってしまっている自分も。

「お前、今日はもう帰れ」

今はお互いに尋常な状態ではない。
一度インターバルをとって冷静になり、明日また会った時に話し合えばいい。
ジュウは立ち上がって、玄関へ向かう。
雨は一瞬、何かを訴えかけるような目をしていたが、そのまま何も言わずにジュウの後ろについてきた。
コートを羽織って靴を履き、振り返って深々と頭を下げる雨。

「お邪魔いたしました」

「おう、また明日な」

また明日、などという言葉が自然と口から出てくるあたり、自分も相当丸くなったものだ、とジュウは心の中で自嘲した。
或いは、それを望んでいるのだろうか。

「……あの、ジュウ様」

「ん?」

347 : ◆yyODYISLaQDh [sage]:2017/02/23(木) 21:00:03.28 ID:V014Qou/O
雨の声で現実に引き戻される。
見遣れば、雨は顔を俯けたままバッグの持ち手を強く握りしめている。
思えば、このバッグも初めて見るものだ。
雨と言えば基本的にいつも制服姿で、バックも通学カバンぐらいしか見たことはなかった。
華美な装飾も無く落ち着いた色のバッグは、今日の服装も相まって雨によく似合っていた。
そんなバッグの中から、なにかの包みを取り出す雨。
それはまるで、弁当の包みのような。

「わ、私はやめた方が良いと言ったのですが、雪姫がどうしてもと無理矢理……その、す、捨ててしまっても構いませんので……」

「え」

「そ、それでは失礼します」

その包みを押し付けるようにしてジュウに渡すと、雨はそのまま顔を上げることなく足早に出て行ってしまった。
ジュウは呆然として、何かを言う暇も、言葉も無かった。
暫く閉まったドアの向こう側を見つめてから、包みに視線を移す。
広げてみると、タッパーに入れられたサンドウィッチが顔を出した。
そのうちの一つをつまんで口に運ぶ。

「……料理にも目覚めたのか?」

切れ目がデコボコのサンドウィッチは、意外にも美味かった。


〜〜〜〜〜
348 : ◆yyODYISLaQDh [sage]:2017/02/23(木) 21:01:47.10 ID:V014Qou/O
長らくお待たせして申し訳ありません。
今後はもう少し時間がとれるようになると思うので、できるだけ早めに投下します。
349 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/23(木) 21:21:48.62 ID:2r+hzSMGO
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
乙乙待ってて良かった
350 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/23(木) 21:40:35.17 ID:QbAlaX78o
乙です
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/24(金) 00:14:01.81 ID:TB6aLYY9O
おつおつおーつ
雨ってこんなに可愛いの!?
話は進まなかったけど満足した
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/24(金) 12:08:06.82 ID:jM5VJzHSo
おっつおっつ
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