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忍「隠し事、しちゃってましたね……」 アリス「……シノ」
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316 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/05/22(木) 02:19:47.67 ID:z5gCSS+c0
今回はここまで。
結局、欲望に人は勝てないというお話(嘘はついていない)。
ちょっとオリキャラがでしゃばり過ぎた感がありますね……次回は、主人公勢中心で回したいと思います。
あ、次回はカレンも登場予定です。
今更ながら原作をちょこちょこと読み始めてみると、シノたちの学校祭にイサ姉たちは来てないんですね。
アニメスタッフは、本当に素晴らしい改変をしたんだなぁと改めて感嘆しました。
それでは、また。
317 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/05/22(木) 02:40:28.55 ID:aOkWEbu1o
乙デース!
318 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/05/23(金) 16:47:16.79 ID:ErQ3IUlAO
あのスタッフなら二期も安心だ
というか(ごちうさなど)最近のきららアニメは原作愛のある良作ばかりで嬉しい
319 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/06/15(日) 20:23:13.75 ID:TrJbYPzW0
ごめんなさい、もうしばらくかかりそうです。
小ネタ
忍「……」ズーン
アリス「だ、大丈夫だよシノ!」アセアセ
アリス「つ、次のGreeceには勝てる確立高いよ?」
忍「――その、次は?」
アリス「……」
アリス「こ、Columbiaは、うぅ……」
忍「……」
忍「あぁ」タメイキ
忍「私たちのチームも、アリスの所と当たれればいいんですけどねぇ……」
忍「そう、夢の英国!」パァァ
アリス「……」
アリス(シノ、EnglandとUnited Kingdomの区別ついてる、よね……?)ドキドキ
書いてて、シノはスポーツに興味持ってる姿が想像つかないことに気づきました……。
320 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/06/15(日) 20:24:08.78 ID:TrJbYPzW0
訂正:☓立→○率
GL突破は難しいかもしれませんが、応援したいです。
321 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/06/15(日) 20:35:46.55 ID:dIPIQskOo
乙です。
たしかにスポーツに持っている忍は想像できない
322 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[sage]:2014/07/08(火) 23:30:54.85 ID:Y2tta9Es0
体調が崩れて治らないので、もう少しお待ちください。
……完結しないうちに、二期になるかもしれないと思うと、何だか焦りますね。
323 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/07/11(金) 09:49:31.69 ID:/uj2PW3AO
まってる
324 :
◆iw8u0HxUVRB3
[sage]:2014/08/03(日) 23:16:14.27 ID:KDVSM3KW0
すいません、もう少し……
二期タイトル決まったのに、申し訳ないです。
325 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[sage]:2014/08/03(日) 23:17:45.52 ID:KDVSM3KW0
あれ、トリップの様子が……
これで間違えてたらごめんなさい。
326 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/08/04(月) 08:10:46.61 ID:XnDCp2mAO
意図的にHTML化寸前まで放置してるのでなければいくらかかってもいいと思う
327 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[sage]:2014/09/01(月) 21:42:36.61 ID:x7SH0rEF0
すいません……もう少し。
我ながら、虚弱体質ですね。
328 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/09/16(火) 01:02:34.43 ID:h7ZtWU6Z0
少し書けたので、投下したいと思います。
地の文ばかりで読みにくいかもしれません。
あと本当に今更ですが、
>>32
の時点でシノとアリスのコミュニケーションが成立するはずありませんね……ミスでした。
それでは、小出しにしていきます。
329 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/09/16(火) 01:03:30.88 ID:h7ZtWU6Z0
――AM9:00
「わー、そっちの服、可愛い」
「ありがと。でも、そっちも凄く似合ってるよ」
教室のあちこちで、互いに互いを褒め合う声が聞こえてくる。
ワイワイガヤガヤと、本番は始まっていないのに、もう学園祭のような感覚だった。
「……みんな、キレイ」
「いやー、アリスが和装してると、面白いなぁ」
私が呟くと、ふんふんと納得したように頷く陽子がすぐ近くにいた。
そちらの方へ目を向ければ、いやはやなんとも――
「陽子、凄く似合うね」
「そっか? へへ、ありがと。アリスも可愛いな」
「うん! 何か、『頼れるアネキ!』って感じ」
「……実の弟たちにも、そんな風に思われたらいいんだけどなぁ」
素直に思ったことを言うと、陽子はクルッと後ろを向いて、頭を掻いていた。
おそらく、照れ隠しだろう。
察した私は、メイド服組の方へと目を転じる。
「綾!」
「……うぅ」
声をかけると、綾は恥ずかしそうにモジモジとしていた。
しかし、陽子が「頼れるアネキ」なら、綾は「花畑の百合」みたいだった。
たおやかで、折ってはいけない雰囲気、というか……要するに、
「綾も凄く似合う!」
ということだった。
「ア、アリス! そ、そんな大声出さないでぇ……」
私が笑顔で呼びかけると、綾はガクガクと震えてしまった。
元来、恥ずかしがり屋の性分の綾にとって、物凄く大変なんだなぁ、と一人頷く私だった。
330 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/09/16(火) 01:04:34.07 ID:h7ZtWU6Z0
実のところ、前日に実物を着てみる人もいたりした。
「着たい人はどうぞ」というノリで。
私たちは、採寸だけして、そのまま下校するという感じで、今日を迎えた。
何故かといえば、そこでプルプルとしている彼女が身をもって証明してくれているし、
「あぁ、あいつらも、もーすこし嘘をだな……」とか未だに後ろを向いて呟いている彼女もいる。
(……みんなカワイイ)
そんな人たちを見て、嬉しくなっていると――
「はい、みんな! そろそろ着替え終わった?」
あっ、壇上に委員長の姿が。
パンパンと手を叩き、さながら教師のように見える。
(……委員長も甘味処)
そういえば、私はシノたちと以外、あまりお話をしたことがないような気がした。
メイド喫茶と甘味処で別々に別れちゃうけど……それは、裏を返せば、
(色んな人と沢山お話する機会!)
ということになる。
私は、今更ながらそんなことに気づき、一人胸を躍らせた――
「……うぅ、慣れないわね」
「もう、そろそろちゃんと立てって。綾も凄く似合ってるぞ」
「――あ、あなたのそういう所が!」
「またか!」
――後で、二人の会話を耳に挟み、「綾は大丈夫かな……」と思うのだった。
楽しくないと「お祭り」にならないから。
「……そーいえば」
「な、なによ」
「シノ、どーしたかなーって」
「あっ」
「あっ」
私と綾の声は、ピタリと重なった。
331 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/09/16(火) 01:05:46.03 ID:h7ZtWU6Z0
そうだ、シノはあれから――!
「……うん、全員、着替え終わってるみたいだし」
委員長はそう言うと、扉の方を見て、
「入っていいわよ」
と、優しく言った。
「わぁ、皆さんよくお似合いで」
ほんわかとした口調で入ってきたのは、シノその人だった。
「……」
「へぇ……甘味処って、こういう感じなんですねぇ」
女子の視線を一身に浴びせられながら、シノはどこまでもマイペースだ。
さっきまでのザワついた感じは一瞬で立ち消え、全員が黙りこんでいた。ゴクリと唾を飲み込む音も聞こえる。
きっと、シノは気づいていない。
「――改めまして、大宮忍です!」
ニッコリと微笑んで、壇上でペコリと頭を下げるシノ。
そんな彼女に、誰もが心奪われているなんて――
「……嘘、でしょ」
「あれが――おとk」
「シッ! 悲しくなるから言わないの!」
静寂の後で、さっきまでのザワつきが戻ってきた。
けれど、そこにあるのはさっきまでと、ちょっぴり違う感じもする。
「私たちは私服姿を見慣れてるから何だけど……」
「シノって、本当に恐ろしいのね……」
改めて感じ入った、とばかりに友人二人が頷いた。
私も便乗させてもらう。
332 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/09/16(火) 01:07:45.95 ID:h7ZtWU6Z0
「ええと、こういう格好で接客をするのは初めてなので……」
にこやかな表情は全く崩さないままで、少しばかり頬を赤らめてモジモジとしてみせるシノ。
何という反則級。しかし、当のかr――いや、敢えて――「彼女」は、それに気づきもしない。
「皆さん、よろしくお願いします!」
そう言って、シノは再度頭を下げた。
再び顔を上げると、視線が私とバッチリ合った。
「……」
「――!」
その柔和な笑みを、私は忘れられないだろう。
今まで見たシノの顔の中で、一番キレイで、奥底にまで引きこまれそうな、その微笑みを。
つい気恥ずかしくなって、プイッと横を向いてしまう。顔が赤らんだのを確かに感じた。
「はーい、それじゃ大宮さんの挨拶はおしまい、ってことで」
いいわね? と、委員長が皆に確認を取る。
再び黙りこむ一同は、どこか困惑気味ではあった。
それはそうだろう、事前に決を採ったとはいえ、実際に見るのとそうでないのとでは大違いだ……。
「……」
「よ、陽子?」
静寂の中、隣の女の子が「パチパチ」と手を叩き始めた。
たった一人だけの拍手は、しかし、静かな教室内によく響いた。
それに倣って、私も同じ音を鳴らす。
困惑気味だった綾が、私たちの後についてくる。
そして、最後には全員を巻き込み、大きな輪になった――
333 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/09/16(火) 01:08:53.40 ID:h7ZtWU6Z0
――AM9:30
シノを迎えた後、最後の調整に向かっていた男子たちも戻ってきていた。
全ての席が埋まる――おお、何だかんだで皆、楽しみなんだなぁ。
そうして、隣同士でワイワイとやってると、カラスちゃんがゆっくりと入ってきた。
「はい、皆さん! 今日までお疲れ様でした」
そして響く、優しい声。あぁ、これだけで癒される……。
周りを見れば、例えば「ホントきつかったよねー」なんて言いながら、頬が緩みきった女子の姿がある。
「もうこんな力仕事、二度とやりたくねー」なんて言う男子も、素晴らしい笑顔だった。
私は、そんな皆を見てしみじみと思う。
学園祭ってのは、そういう行事だよなぁ、と。
「そして、今日からが本番です!」
教壇上で満面の笑みを浮かべるカラスちゃんは、本当に楽しそうだ。
その気持ちは、きっと全員が持ち合わせているんだろう。
「皆さん、楽しみましょう!」
「おおーっ!」
カラスちゃんがガッツポーズを取るのと同時に、私たちも腕を大きく上げた。
いやぁ、始まる前からワクワクするね!
「この服で、接客、なんて……」
ちょいと近くのお嬢さんは、振り上げた腕がプルプルと震えてますけど……。
さてと。
何か色々なおカタい注意事項とかを言った後で、カラスちゃんは「それでは!」と教室を出て行った。
チラッと時計を見れば、9時40分。うん、まだちょっと余裕アリ。
「陽子、私、ちょっとお手洗いに行ってくるね」
「ん、行ってらっしゃい」
「うん!」
律儀にそう言ってくれたアリスに返事をし、私は机に頬杖をついた。
少し、この余韻みたいな感覚に浸っていたい……。
334 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/09/16(火) 01:10:51.33 ID:h7ZtWU6Z0
「あ、あのさ、大宮さん……」
ん? 聞き覚えのある声だな。
見れば、シノが今朝私が話した二人の男子といる。
「はい、なんでしょう?」
「……えぇと、その」
「一緒に写真、撮ってくれるかな?」
モジモジとした様子の二人は、こっちから見る限り、頬の赤みがバレバレだった。
「はい、いいですよ」
キョトンとした様子のまま、シノは立ち上がった。
「それじゃまず、俺からでいいか?」
「おう……3、2、1」
パチリ、とケータイの音が鳴る。
ちなみにポーズは、シノと男子が近くで一緒に立っているというごくごくシンプルなもの。
「終わったぞ」
「そんじゃ次な……いいか、大宮さん?」
「えぇ、大丈夫ですよ」
再度確認する男子に、晴れ晴れとした笑顔を見せるシノ(メイド服Ver)。
自分の望んだ服を着られて、ご満悦といった風だ。
「そ、そっか」
おいおい、自分から声掛けといて、そんな顔赤くするなって……。
やれやれ、と私は溜息をついた。
中学時代まで、シノと個人的に写真を撮ろうなんて言い出す男子はいなかった。
あの二人が特殊なのか、はたまた――
(シノが、私たちの想像以上に「女っぽさ」に磨きをかけているのか……)
と、机に頬杖を付きながら、何となく時計を見れば――9時50分!?
ヤバい、そろそろ最後の打ち合わせを甘味処班で行わないと……!
「い、委員長! そろそr」
「そこの二人、何してるの!」
「……あれ〜?」
当の委員長、何やら男子二人組にご不満の様子。
「まったく、学園祭直前なのに、そんなにほうけて……」
委員長が呆れた様子で溜息をつく一方で、シノたちは、
「……」
「……」
「わぁ……」
「な、なによ?」
委員長を静かに見つめていた。
キョドった様子の委員長は、なかなかレアだ。
335 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/09/16(火) 01:11:50.00 ID:h7ZtWU6Z0
「いや、お前さ」
「なんというか――似合うな」
「はい! とてもお似合いです!」
「……な、ななっ」
何言ってるの! と、震えた声が私に届く。
あちゃー、あの三人……直前だってのに、ややこしいことしてる場合かっての。
「おい、委員長! そろそろ」
私が声を張り上げ、呼ぶ――
「……あ、あの」
――前に小さな声が、届いた。
336 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/09/16(火) 01:15:28.55 ID:h7ZtWU6Z0
尻切れトンボ感が半端じゃありませんが、今回はここまでです。
気づけば、放送終了から一年経ちそうなんですね……時の流れは、あっという間です。
それでは。
久世橋先生、誰になるのかなー、などと思いながら。
337 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/09/16(火) 12:01:54.64 ID:1PVDw4Suo
乙でした
最近シノが女装ということを忘れそうになって困る
338 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/09/16(火) 22:24:53.47 ID:L+BZ0Ew0O
おつ
339 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/09/19(金) 06:09:23.50 ID:6tdc02e90
それじゃ、今回も地の文付きで投下します。
少し、雰囲気が変わりました。とはいえ、シリアスになったというわけではない、と思います。
どちらかというと少女漫画のような……まあ、投下しましょう。
340 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/09/19(金) 06:10:22.06 ID:6tdc02e90
――AM9:48
(あぁ、そろそろ時間が……)
私は焦った。
昔から、時間通りに事が運ばないと、すぐに困ってしまう性分だった。
予定通りにやるべきことをテキパキとこなす。
その流れが崩れると、途端にポツンとしてしまう。
10分前になるまで、2分足らず。
シノの元へ男子二人が行ってから、ハラハラと見ていたけど、そろそろ時間だ。
シノを呼んで、メイド喫茶側も最後の打ち合わせを行わないといけない――
(……どう、すれば)
チラッと見れば、和装をした「彼女」は、どこかボンヤリとしている。
ダメだ。こういう時のあの子は、あまり頼りにならない……。
「……うぅ」
ゆっくりと、私は立ち上がった。
ただでさえ衣装のせいで恥ずかしかったのに、心臓の鼓動は倍加したようにすら感じる。
どうすればいい? 「男子」となんて、話したこともない気さえする。シノは例外中の例外で。
――綾、変わったよな――
(……陽子)
電流が、身体に走ったような気がした。
「図書室に行こう」と提案した私に、彼女はそんなことを言った。
その名の通り、太陽のような笑顔で。
その言葉が、私の中でずっと響き続けている。
「……」
ゆっくりと、彼らに向かう。
少しばかり逡巡していた間に委員長まで加わり、どうやら事態はよりややこしいことになっているようだ。
……それでも。
(足は、止めない……)
そう、私は「変わった」はず。
大丈夫だ、落ち着くのよ私。
もう、中学時代の私は、いない――!
四人の近くにまで行き、スゥっと息を吸い、
「……あ、あの」
我ながら何て、か細い声。
ちゃんと伝わっただろうか?
341 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/09/19(金) 06:11:18.62 ID:6tdc02e90
「……?」
「あ、綾ちゃん」
三人の疑問符を浮かべた顔と、シノのほんわかとした表情。
一瞬、萎縮する。けれど、踏みとどまった。
私は、ゆっくりと話す。噛まないように、噛まないように……。
「そ、そろそろ……時間といいますか、その」
え、なにこれ?
私の口からちゃんと出ているわよね?
ダメだ、言いたいことはまとまっているはずなのに、頭がグルグルして――
「……あ、集まって、ですね、あの」
――言葉が、上手く出ない。
すぐ近くにいる男子は、キョトンとしている。
うっ、男の人の視線……どうしよう、なんでこんなに怖いんだろう。
陽子やカレンなんて、あんなに当たり前のように男子とも会話している。
シノは別としてもアリスだって、支障をきたしてない、のに。
私だけ、取り残されたの?
なんてことだろう。
結局、私は変われていない……。
「時間……あぁっ!」
ビクッとした。
眼前の委員長が大きな声を出したからだ。
そして、キッと男子たちの方へ視線を向ける。
「あなたたち、もう直前も直前じゃないの!」
「うわ、ホントだ」
「そろそろ男子組の方へ向かうか」
「おう」
大宮さん、ついでに委員長もガンバ!
そんなことを言いながら、男子たちは去っていく。
……あぁ、良かった。とりあえず、「男の人」はいなくなった。
何だかよくわからないままホッと息をつくや否や――
「小路さん、サンキュー!」
……え?
完全に、油断していた。
もう、「責務」は終わったのだとばかり思っていた。
342 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/09/19(金) 06:12:51.44 ID:6tdc02e90
声に反応し振り向いてしまうと、二人の男子が笑っていた。
視線はバッチリ合ってしまう。
でも何故か、私は震えてもいない。ピクッときたものの、すぐに止まった。
すぐさまペコリ、と頭を下げる。
そうするのがベスト、という気がして。
「全く、最後まで……」
顔をあげると、呆れ顔で呟く委員長の姿があった。ほんの少し、顔が赤くなっている。
きっと、時間のことを失念していたからだろう。
私は――今、どんな表情をしているのだろう。分からない。
少しだけ頬が熱いけれど、気恥ずかしさはあまり感じられなかった。
「それじゃ、私も甘味処班へ……っと、小路さん。ありがとね」
「い、いや、その……どういたしまして?」
再びペコリ。
顔を上げれば、クスクスと笑いながら委員長が去っていこうとしていた――
「初めて見たわ。小路さんが男子と話した所」
――!?
またしても、不意打ち。
私がクルッと振り向けば、委員長は甘味処班の人たちを集めていた……。
(……からかわれた?)
いや、さすがに考え過ぎか。委員長にも悪いだろうし。
思い返してみて、普段、アリスが異性と話すレベルの10分の1位だと分析する。
陽子やカレンと比べるのは、まだまだ無理だけど……。
「……あれ?」
何を「分析」しているんだろう、私は。
そもそも、何をやらかしていたんだろう。
――思い返しても、赤面しない。
「しっくりときた」という文章表現が、これほどピッタリ当てはまる状況はあっただろうか。
当たり前のことを、当たり前にしただけなんだから……。
「……綾」
ハッと振り向けば、そこには陽子の姿。
浮かべている表情は、今まで見たこともないほどの優しさを湛えていた。
穏やかに、彼女は言う。
「おめでと」
「!?」
そして気づけば、頭を撫でられている……。
へぇ、陽子の手は、「女の子」してるのね。綺麗で心地いい……あれ?
な、何をしているの、この子は!
「よ、陽子!」
「昔からの『親友』が変われた記念だ。少し、許してよ」
私が顔を真っ赤に染め上げて抗議しても、意にも介さない陽子。
ど、どうすれば……あっ、そうだ!
甘味処班に、この子を送り込めば――!
343 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/09/19(金) 06:15:01.31 ID:6tdc02e90
「……」
「変われたんですね。綾ちゃん」
私が黙りこくっていると、これまた優しい声が聞こえてくる。
さっきの「男子」と比べると、全く声のトーンが違う。声変わり、という現象がシノには起こらなかったとしか思えない。
そう。だから私は、この子をある意味で「女の子」と見なすことが出来ている。
「私、初めて見ました。綾ちゃんが勇気を出して、踏みだそうってした所……そして、実際に踏み出した所も。凄いです」
私も、考えないといけないのかもしれませんね――
シノはそう言った後で、ポツリと意味深なことを呟いた。
この子は何を「考える」のだろうか?
私たちのグループは、今のところ良好な関係としか考えられないけれど……。
「もうっ、猪熊さん! 早く来ないと、話し合いが出来ないわよ!」
「あ、ごめん委員長!」
あっ、陽子の手が頭から離れる。
何も感触が無くなった頭は、熱を帯びていることが感じられた。
陽子の手は、太陽のように温かい――名は体を表すというのは本当らしい。
「そんじゃな、二人とも! 楽しもう!」
そう言うと、ピューッと甘味処班へと向かっていくのだった。
「……」
「ねぇ、シノ?」
私は、どこかボンヤリとしている「彼女」に呼びかけた。
どういうことなんだろう? もしかして、見えない所で軋轢が生じていたとか?
……まさか、ねぇ。
「――メイド喫茶班の所、行かなきゃ」
「……あっ」
何か考え込んでいたようなシノは、パッと顔を上げた。
「そうですね、ありがとうございます綾ちゃん!」
そう言うと彼女もまた淑やかに、メイド喫茶班に合流した。
344 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/09/19(金) 06:16:05.88 ID:6tdc02e90
「……」
勿論、本当に言いたかったことはこれじゃない。
けれど今は――
「学園祭、楽しまないとね!」
そして、私もシノを追うような形で、メイド服班に向かうのだった。
その頃になると、メイド服でいる自分というものがあまり気にならなくなっていた。
さっきまでの気恥ずかしさが、嘘のように雲散霧消した。
思い返すのは、「ありがとな!」と言ってくれた男子たちと、「初めて見た」と優しく言ってくれた委員長――
(……神様がくれたご褒美?)
そうならいいな、とロマンチックなことを考えながら、私は時計をチラリと見る。
AM9時53分――いよいよ、なのね。
345 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/09/19(金) 06:24:57.25 ID:6tdc02e90
ここまでになります。
……いや、ここまで書いて、まだ肝心の本番が始まっていないことは凄いですね。
次回は台本形式(?)中心で行っていく感じになる予定なので、トントンと進めば……いいですね。
「少女漫画的」といっても、別に綾が件の男子に好意を抱くとか、そういう展開は考えていません。
ただ少女漫画って、主人公の女の子も成長していく側面があるので、そう評しました。
そもそも「きんモザにそんな要素いるかな……」とか考えていましたが、書いていたら筆が乗ったので、綾の心情描写に特に文章を割きました。
もしかしたら自分の無知で、綾も男子と普通に話していたりする、のかなぁ……。
陽子やカレンはそういうイメージが強いのですが、皆さんはどうでしょう?
おっと、長くなりすぎました。
それじゃ、ここまで。次回から、本番スタートです。
346 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/09/19(金) 08:16:21.77 ID:Ws7PLUN0O
乙です
綾が男子と普通に話す・・・
うん、ないな
347 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)
[sage]:2014/09/19(金) 22:03:00.25 ID:fK4wGA+n0
乙 次回も待ってる
348 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[sage]:2014/10/15(水) 22:09:25.62 ID:AaWl9qVv0
やばい、もうすぐ一ヶ月でした……。
もうしばらくお待ちを。
349 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[sage]:2014/11/12(水) 22:09:37.95 ID:J2hzzMiP0
すみません、まだかかりそうです……。
350 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/11/29(土) 02:37:59.15 ID:Kn2Q0xzu0
――開演
男子A「さぁ、いらっしゃいいらっしゃい!」
男子B「とびきりのメイドさんと……えっと」
男子B「和装姿の人? が接客してくれますよー」
男子A「……お前、なんか他に言いようはないのか?」アキレ
男子B「それじゃ、そっちは思いつくのか?」
男子A「悪い、無理だ」
――甘味処班
委員長「あ、あの二人は……」プルプル
陽子「まぁまぁ委員長」
陽子「受付なら、あんな感じのお調子者の方がいいと思うよ」
陽子「堅苦しいのは、お祭りに似合わないだろうし」
委員長「……まぁ、猪熊さんの言うことも一理あるわね」
委員長「それじゃ、私たちは臨機応変に接客といきましょうか」
陽子「おー」ニコニコ
アリス「……」
陽子「ん、どうかしたアリス?」キョトン
アリス「う、ううん」
アリス「……陽子って、あの二人と仲良しなのかなーって」
陽子「えっ」
アリス「……」ジッ
陽子(受付のヤツらのこと、だよね……?)
陽子「いやまぁ、普通に話す程度だって」
アリス「……」
アリス「そっか」クスッ
アリス「それじゃ陽子、そっちの班も頑張ってね!」ニコニコ
陽子「……」
陽子(……アリス?)
陽子(今の問いかけはなんだろう?)
陽子(うまく言えないんだけど、なんだか)
陽子(少しだけ、私とあの二人が仲良しであってほしいなー、って)
陽子(そんな感じが……)
陽子(ま、いっか)
351 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/11/29(土) 02:39:29.50 ID:Kn2Q0xzu0
――メイド喫茶班
綾「……あぁ」
綾「ついに、この時が」プルプル
忍「綾ちゃん、大丈夫ですか?」
綾「あ、あぁ、シノ……」
綾「大丈夫よ。さっき何とか――」
綾「……」ガクガク
忍「ホ、ホントに大丈夫ですか?」
綾(……男子とまともに話したことなんて久しぶりだった)
綾(小学生の頃以来かもしれない……ああ、だからこんなに緊張を)
綾(いや、きっと違う)
綾(その後、大切な友達……陽子が起こした行動のせい、よね)
綾(おかしいわね、まるで)
綾(カレンの家で、間違ってお酒を飲んだあの時みたいに考えが回らない……)
忍(綾ちゃん……心配です)キュッ
――数分後
男子A「いらっしゃいませー!」
男子B「お客さま二名、来店!」
忍「!」
綾「!」
客A「へぇ、なかなか凝ってるな」
客B「文化祭に本格的なのっていいわねー」
綾(お、男の人と女の人……)
綾(どうして、二人とも女性じゃないのよ……)アセアセ
忍「……あっ」
忍「いらっしゃいませ、お客様!」ニコッ
忍「こちらへどうぞ!」
客A「ああ、ありがとう」
客B「ふふっ、可愛いわね」
忍「ありがとうございます!」ペコリ
綾「……」
綾(ああ、私が動けないうちに、シノが案内を……)
綾(どうしてこう、身体が動かないんだろう)
綾(どうしても萎縮するこの身体が恨めしい――)
352 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/11/29(土) 02:41:19.40 ID:Kn2Q0xzu0
――昔からの親友が変われた記念だ――
綾(……あの言葉)
綾(嬉しかったはず、なのに)
綾(私は全然、それに見合うようなことを――)
忍「考え過ぎちゃダメです、綾ちゃん」
綾「……!」ハッ
忍「実は私も、色々考えてしまってます」
忍「――多分、綾ちゃんにも想像が付くようなあれこれを」
綾「……シノ?」
綾(なんだろう――)
綾(さっき、私に声をかけてくれた時も、今のように意味深長な表情をしていた……)
綾(優しさと愛しさがいっぱいの顔つきに――迷い?)
忍「私は」
忍「綾ちゃんが『踏み出した』所を、この目でしっかり見ました」
忍「そして私は、今の綾ちゃんなら今まで出来なかったことだってなんでも出来ると思ってます」
綾「!」
忍「……綾ちゃんは、私の言うことが信じられませんか?」ジッ
綾「……」
綾(そう、よね)
綾(私と陽子とシノ、三人)
綾(中学の頃に知り合って、これまでずっと一緒だった)
綾(……私が、シノの言うことを信じられない?)
綾「そんなわけ、ないじゃない」
忍「ふふっ、それでこそ綾ちゃんです!」ニコッ
綾「……」
綾「もう、シノったら」
綾「私を励ましてくれるのはとても嬉しいけど」
綾「お客様にお水を出すの、忘れてるでしょ?」
忍「あっ!」ハッ
綾(まったく)
綾(妙な所で鋭くて、おかしな所で抜けている)
綾(そんな、この子が――)
綾「大丈夫、私がやるから」クスッ
綾(こんなに大きな存在だった、なんてね……)
353 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/11/29(土) 02:42:53.75 ID:Kn2Q0xzu0
忍「……」
綾「す、すみません、お客様! 遅れてしまいまして……」プルプル
客A「ああ、大丈夫。そう緊張しないで」
客B「いいのよ、気にしてないから」
綾「あ、ありがとう、ございます……」アセアセ
忍(――綾ちゃん)
忍(大丈夫です、綾ちゃんなら)
忍(きっと、これからもどんどん変わって行けます)
忍(――私、も)
――甘味処班
陽子「いらっしゃーい!」
アリス「お茶ですっ!」
客C「おお、綺麗な金髪……」
客D「留学生?」
アリス「い、いえ! ここの生徒です!」
客C「すげー、日本語上手いね……」
客D「もう立派なバイリンガルね」
アリス「あ、ありがとうございます!」
陽子「……」
陽子(そういや、アリスはバイリンガルになるのか)
陽子(カレンはお父さんが日本人だし、そう考えるとアリスって何気に凄いな……)
陽子「今更か」
アリス「陽子! お客さま!」
陽子「ん、おう」
陽子「いらっしゃいませー!」
354 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/11/29(土) 02:44:57.42 ID:Kn2Q0xzu0
――接客に追われながら、私は充実した気分に満たされていた。
少なくともうちのクラスは、全員やってきて文化祭に参加している。
このことだけでも、何故か嬉しくなるんだよね。
それに、こうして人と接していると、
やっぱり私は人と話すのが好みだということがアリアリと分かって、嬉しくなったり。
(……祭り、かぁ)
なるほど、大昔から今まで、多くの人に親しまれてきたわけだ。
ホントはこういうあれこれを考えるのは綾の役目なんだけど、アイツはそれどころでもなさそうだし。
「い、いい、いらっしゃいませ」
「綾ちゃん、ファイトですっ」
ほら、声も手も震えている。
でも、縮こまってないし、しっかり目の前を向いている。
近くには、お互いにとって大切な友達だって付いている。
「人は変われる」なんて、CMとかではよく聞くフレーズだけど、大切な友達がそれを実践したなんて格別だ。
私まで、何だか熱くなってくる。
「お客様、二名!」
おっと、外のお調子者たちが声を上げた。
どうやら、客足は途絶えることもないらしい。
まぁ――休みたいなんて、全く思わないんだけどさ。
「いらっしゃいま……」
そして――
――同時刻
男子A「……うーん」
男子B「なんだよ?」
男子A「いや――今のサングラスの人、どっかで」
男子B「ああ、あの人か。あのスタイルとか、モデルみたいだよな」
男子A「……モデル?」
男子A「ああ、そっか」
男子B「悩んだと思えばあっさり納得するのな……」
――やってきたのは。
「やっほー、陽子ちゃん」
耳に響く、陽気な声。
私にとっては、シノと同じくらい長い付き合いになる人。
サングラスをかけていても、そのスタイルの良さとか諸々が突出している。
「イ、イサ」
「ストップストップ。一応、内緒ってことで」
つと、私の唇に綺麗な指が当てられた。
絹のようにつややかなその指に、私の声帯は参ってしまったとみえる。
355 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/11/29(土) 02:46:55.83 ID:Kn2Q0xzu0
「もう……正直、隠すつもりないでしょ?」
「ふふっ、まぁバレたらちょっと困るし」
「バレたらバレたでいい、とか思ってるわね……」
「お客様ー! こちらに空き席がございます!」
お客様――イサ姉とお友達は、そんなことを言いながら、空いた席に案内されていく。
メイド喫茶側も含めて、店内の視線がイサ姉に集中していた。
いや、分からないでもないけどさ。というか、妥当?
「あっ、お姉ちゃん!」
イサ姉が席につくと、すかさず動き出そうとするメイド喫茶側の住人。
おいおい、こっちに来ちゃダメだろ。メイド喫茶側に、お客さんが来店してるし。
「シノ。イサ姉は、甘味処班の席だから」
「えぇ〜……陽子ちゃんはケチンボですね」
こっちに来ようとするシノの頭に、私は軽く手を載せて通せんぼする。
すると上目遣いで、シノは膨れ面をしてみせた。
うん、全く迫力がないし、むしろ……。
「――あ、後で何かおごってあげるよ」
やばい、ついドギマギとしてしまった。
正直、シノの不意打ちほど卑怯なものはないと思う。
「わぁ、本当ですか?」
「……100円くらいまでなら」
「やっぱり、ケチンボです」
私がそう返すと、シノは嬉しそうに破顔する。
そのままクルッと身を翻し、すぐさまお客さんの元へと向かっていった。
「はぁ……」
「おーい陽子ちゃーん、注文おねがーい」
私が軽く溜息をつくと、図ったかのようなタイミングで聞き慣れた声が響いた。
顔は見えないけれど、絶対ニヤニヤしてる。間違いない。
「さて、と……」
それじゃ私も、本業に戻りますか。
せめて、イサ姉に負けないくらいの笑顔で仕返ししてやろう……。
「……陽子」
「全く、あの子ったら」
……背中に感じる二人分くらいの視線は、敢えて無視。ごめんね。
「はいお客様、ご注文の宇治抹茶になります」
「わぁ、美味しそう」
「ありがとう」
私が注文品を差し出すと、さっきやって来た二人は美味しそうに飲んでくれた。
正直、高校の文化祭で出せる品物は知れたものだけれど、何か良い気分だ。
やっぱり、お祭りが好きなんだな、私は。
356 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/11/29(土) 02:48:48.58 ID:Kn2Q0xzu0
「前よりずっと、仲良さそう」
「昔から仲良いだろ? だからイサ姉も、私にシノの保護者役みたいなものを任せたんだし」
「何だか、心から信頼し合ってるような……」
「――漫画の読み過ぎだって」
溜息をつくと、外から「お客様一名!」の声がした。
それがまたいかにも男子って感じで、またしてもさっきのシノの表情が脳裏をよぎる。
いけないいけない、これじゃ接客が出来ないって。
「それじゃ私、お客さんの所に行かないと……」
「へぇ、あなたが『陽子ちゃん』ね?」
へ? なんだなんだ?
声のした方を見れば、そこにはイサ姉のお友達の姿が。
興味深そうに私を見つめながら、彼女は言う。
「いつも勇から聞かされてるわ。『かっこいい、けれど凄く可愛い子なのよ』ってね」
「……」
おいおい。
困ったな。
動揺するようなことでも、何でもないはずなのに。
どうして顔が熱いんだろうね?
「あ、ええと――ありがとう、ございます?」
なんだこの尻切れトンボな挨拶は!
内心で自分を罵倒する私は、フラフラと新規のお客さんの元へと向かおうとする。
「ちょっと猪熊さん! 足、フラついてるわよ!」
「あ、ああ、ごめん……委員長」
「顔も赤いわね? 大丈夫?」
「……な、なんとか」
ああ、もう……。
イサ姉だけでも大変だってのに、お友達まで――!
これじゃ、綾のことを励ます権利なんて……ない、のかな?
「……なかなか性悪ね?」
「勇ほどじゃないわよ。あんた、いつも年下をあんな風にからかってるの?」
「まぁ、程々に?」
「――はぁ」
つい、ため息をついてしまった。
目の前のモデル兼友人は、どこまでも飄々としている。
この子と話してると、いつも「狐につままれた」ような気がするのは何故だろう。
私のことはともあれ、今しがた話していたあの子は不憫だ。
というか、この子の「きょうだい」って――
「……あの子が」
「そう、『妹』よ」
「世の中って、広いねぇ……」
メイド喫茶側へと目を転じれば、そこでは喜色満面といった風に接客に励む少女の姿が。
……うん、どう見ても立派な女の子だ。
357 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/11/29(土) 02:50:25.08 ID:Kn2Q0xzu0
「勇。おと……妹さん、大事にしなさいよ?」
「あら、心配するなんて珍しい」
「はぁ……」
目の前ではしゃぐ「お姉ちゃん」は、「きょうだい」のことを心配してはいないらしい。
今日ここへ来たのも、ただ単純に、楽しみたかっただけというのは嘘じゃないとみた。
まぁ、こういう「お姉ちゃん」の方が、下の子は楽しめたりするんだろう。きっと。
「……思ったより、ずっと本格的ね」
そんなあれこれを思いながら、私は教室内を見回した。
喫茶店の看板も、飾り付けも、なかなか気合が入っている。
……私も、もっと本気を出せば、文化祭に燃えられたのかもしれない。
「受験生でさえなければ、とか思ってる?」
「……モデル兼占い師?」
「褒め言葉と受け取っておくわね」
目の前で、楽しそうにはしゃいでいる友人を見て、つい笑ってしまった。
まぁ、過ぎていった日々に後悔するのは意味もないことだし、無粋ってものかも。
今日は、せっかくの「お祭り」なんだから――
358 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/11/29(土) 02:56:42.81 ID:Kn2Q0xzu0
とりあえず、ここまでです。
散々遅れて、申し訳ありません。
今回からやっと、文化祭に入りました。
どこか意味深な描写が多かったと思います。
けれども、伏線として活かされるのかは決めていないという場当たり的な思考の中で書いています。
手探り状態ですね……。
次回は、ほんの少し波乱があるかと思います。
相変わらず冗長ですが、読んで下さる方々には本当に感謝しています。
それでは、また。
漫画も5巻が発売しましたね。
359 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/11/30(日) 15:58:49.31 ID:JYRn1Uibo
乙でした
360 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/11/30(日) 22:15:46.83 ID:pvXAKw7YO
乙
漫画買わないと・・・
361 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/12/01(月) 08:43:05.99 ID:LgNBIv8AO
おお
続ききてた
362 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/12/05(金) 01:52:09.55 ID:5/HVdI+M0
――受付
男子A「いやー、まさか本物のモデルがここにいるとは……」
男子B「たしかに……どこかで見たことがあるとは思ったけど」
男子B「まさか、お前の家で見た週刊誌の表紙だったなんて」
男子A「妹が置きっぱなしにしてたんだな、あの雑誌」
男子B「……世間は狭いってヤツ?」
男子A「どうだろうな――正直、あの人が大宮さんのお姉さんだって方が」
男子B「コメントしにくいな……」
男子B「――っと、いらっしゃいまs」
カレン「女子高生一名、入りマース!」
男子A「……」
男子B「……」
カレン「どうかしたデスカ?」
男子A「あ、いや――たしか」
男子B「たしか編入生、だよね?」
カレン「ハイ! 九条カレンと申すデス!」
男子A「……いつも、大宮さんたちと一緒にいる」
カレン「Yes!」
男子B「ああ、いつもお菓子を恵まれてる……」
カレン「皆さん、親切デス!」
男子AB「……」
男子AB(明るい子だなぁ)
男子A「ま、気を取り直して」
男子A「いらっしゃい、ようこ、そ……」
男子A「――!?」
男子B「お、おいおい……あれって」
カレン「?」
カレン「Classroomで、何か――」
カレン「!」
363 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/12/05(金) 01:53:58.78 ID:5/HVdI+M0
(あぁ……やっと、少し慣れてきた、かも)
相次ぐお客様の対応に追われてとても疲れたけれど、それ以上に充実感がある。
何だ、私も意外と出来るものだ。
(後はこのまま、何も起こらずに終われば――)
そう、私がゆっくりと呼吸をしていると、
「あ、あの! これ俺のメアド、なんですけど……」
「――へ?」
唐突な異変に、私の口からつい、呆けた声が出てしまった。
何があったの?
「……私、ですか?」
「はい! あの……凄く、可愛いですっ」
緊張しきった男子の声に対し、当惑気味な「女子」の声がする。
その声は、私がいつも近くで聞いていて、ついさっき私を精一杯励ましてくれたものだった。
私は頭をクラクラとさせながら「現場」へと視線を転じる。
何やら、面倒事が起きているようだった。
クラス中の視線が、当人たちに集まっているように感じられる。
メモのようなものを渡す私たちと同い年くらいの男子は、
顔を真っ赤に染めながらメイド服に身を包んだ相手を褒め称えている。
刈り上げたヘアスタイルから見るに、どこかの運動部員かしら? この学校の生徒じゃないみたいだけれど……。
もう一人の方はこの位置からではよく見えなかったので、私は静かに移動した。
果たして、そんな彼と相対しているのは――
「……シノ!?」
愕然とした。
メモに目を落とすお相手は、いつも一緒にいる大切な友達だった。
「――そう、ですか。私に」
「はい! メチャ可愛くて……付き合って、くれませんか?」
「……」
シノはペコペコと頭を下げる男子を静かに見つめている。
いつのことだったろう。
私たちは、カレンが男子に告白されている場面を覗き見してしまったことがある。
その時は、私の好きな少女漫画のワンシーンみたいだ、と感じた。
そうだ、と私の中に、ある意味で理不尽な思いが湧く。
ここは共学で、こういったイベントがあるのは構わない。きっと、他のクラスか上級生の教室でも、似たようなことがあったりもするのだろう。
でも――と、私はそこで思う。
でも、よりによって、どうしてシノなんだ、と。
ある意味、八つ当たりなのかもしれない。
私の視線にある見覚えのない男子生徒は、きっと一生懸命なのだろう。
その懇願の様子からすると、決して軽い気持ちではないことがありありと分かった。
だから――私の胸も、キュッとしてしまう。
どうして……どうして、シノなの?
364 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/12/05(金) 01:55:43.94 ID:5/HVdI+M0
「……」
気づけば、身体が勝手に動き出していた。
男の人がいる、といったような考えは働かなかった。
それ以上に、どこか放心しているように見えるシノのことが心配だった。
(待ってて、シノ――!)
静かに、けれど急いで二人の元へ向かおうとすると、
「ごめんなさい、少しいいかしら?」
聞き馴染みのある声が、した――
――ずっと昔から。
それこそ、陽子ちゃん以上に馴染み深い声が聞こえました。
「私、ここの高校のOGなんだけれど……」
「は、はぁ……」
その声につられて、私は目の前の方から頂いたメモから目を離しました。
見れば、すぐ近くに大切な人がいます。
長い髪。昔から憧れていた、綺麗でどこまでも女の子らしいスタイル。
そこにいたのは、何を隠そう、私のお姉ちゃんでした。
「実は今、うちの高校、いわゆるナンパ活動に厳しくなっちゃったみたいで」
「……へ?」
呆ける男性の前で、お姉ちゃんはゆっくりと言葉を紡ぎます。
そのすぐ後ろには、こっちに来ようとしてくれた綾ちゃんの姿がありました。
男性がいるのにも関わらず、こちらに来て私を助けようとしてくれたのでしょうか。
どうやら私の考えていた以上に、綾ちゃんは変わっているようです――
「それでね、ええと……今、怖い先生がこの階を見まわってるのよ」
「……?」
お姉ちゃんの言葉に相手の男性は、ほんの少し訝しげな視線を向けました。
無理もありません。お姉ちゃんは、この高校のOGではないのですから。
だから今、お姉ちゃんが言い淀んだことに疑問を持ったのでしょう。
「だから、その――」
尚も歯切れの悪いお姉ちゃんは、こちらから見ていてもドギマギとした様子でした。
ああ、そろそろまずいかもしれません。
このままでは――ちょっと、ややこしいことになってしまいそうです。
これ以上、お姉ちゃんに任せきりではいけません。
「あ、あの」
私がそう、口を挟もうとすると――
365 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/12/05(金) 01:57:28.10 ID:5/HVdI+M0
「あ、烏丸先生!」
「見回りですか!?」
外から、男の人の声がしました。
見れば、受付係のお二人が椅子から立ち上がっています。
……あ。あの、金髪は。
近くにいるのは、私たちの大切なお友達のようでした。
「……あ、そうそう! この烏丸先生っていうのがその怖い先生でね」
彼らの声にひかれるような形で、お姉ちゃんは再び、ゆっくりと話し始めました。
「見つかると面倒なことになっちゃう、かも――」
「……マジすか」
参ったな、と目の前の方は呟きました。
見るからに残念そうな表情です。
そんなことを思っていると、クルッと私の方へと視線を向けました。
「それじゃ、今日は帰ります。連絡先、気が向いたら……」
ドギマギしながらそう言って、ペコリと頭を下げます。
そして荷物をまとめると、教室から急いで出て行きました。
「……」
「シノ」
その声に、ハッとしました。
見れば、目の前でお姉ちゃんが複雑そうな表情を浮かべていました。
「――その、メモ」
「あ、これ、ですか……」
お姉ちゃんが指摘したのは、やはりこのメモでした。
「……どうするの?」
私が目を落としていると、お姉ちゃんが問うてきます。
その声は――どこまでも複雑そうでした。
非難しているわけでもなければ、歓迎しているわけでもない。
お姉ちゃんにしてみても、今回の「一件」は予想外だったのでしょう。無理はありません。
「……一応、持っておこうと思います」
声がつっかえないように、私はゆっくりと声にします。
そのメモを大切にポケットの中に入れて、お姉ちゃんと視線を合わせます。
「……そう」
お姉ちゃんはそう言うと、身を翻しました。
「――私は、シノがどう対処しても、いいと思うわ」
もう高校生なんだし。
そう言いながら、お友達の座るテーブルの所へと戻って行きました――
366 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/12/05(金) 01:59:16.86 ID:5/HVdI+M0
――シノが、告白された。
カレンが告白されている所は私も皆と一緒に見て、「ああ、そっか」と納得していた。
イギリスにいた頃から、カレンはどこか異性からモテやすいのかも、と思っていたからかもしれない。
けれど……シノは。
「……ビックリしたぁ」
近くで見ていた陽子は、そう言いながら脱力していた。
私は、どこか遠くで起こった出来事のように、未だに実感が持てずにいた。
シノが男子生徒に告白される。
これは、ある意味でとんでもないことだった。
ホームステイの日々を送っていても、納得できていない事実として――
やっぱり、シノが「男の子」だということがあるから。
「……なぁ、アリス?」
「なぁに、陽子?」
声を震わせながら、陽子が私に問うてくる。いや、きっと私の声も同じだったと思う。
目の前の友人は、私と視線を合わせながら、
「――シノって、やっぱり『女の子』なんだな」
と、恥ずかしそうに言った。
「……うん。そうだね、陽子」
私も、どこまでも恥ずかしくなりながら、そう返事をする。
そして、私は再び「現場」に目を転じながら思う。
(……シノ)
私は、シノのことが「好き」なんだよ、と想い続けながら。
367 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/12/05(金) 02:02:17.35 ID:5/HVdI+M0
――とんでもない所を見てしまいマシタ。
「Amazing!」と、私の故郷では言うのでショウ。
ただ……目の前で、私が見た光景は、『信じられない!』というレベルを遥かに超えていマシタ。
「……はぁ。びっくりした」
「でまかせでカラスちゃんの名前出しちゃったけど……ま、いっか」
呆けた頭のままでいると、目の前の男子二人はそんなことを言っていマス。
私はそれを見ながら「あぁ、『男子』ってこういう声だった」と実感しマシタ。
(……シノが)
そう思いながら、私の頭の中ではいつかのあの光景がフラッシュバックしマス。
人気のない校舎裏。目の前で深々と頭を下げる男子生徒。
それに対し私は、嬉しく思ったのは事実デシタ。
……デモ。
(私は、ヤッパリ)
あの時、頭の中をよぎったのは、いつも見ているオカッパ頭の「女のコ」。
だから私は、あの時断りマシタ。
今、私の頭はグルグルしていマス。
例の男の人が出て行ってから、教室内はどこかざわついていマシタ。
それも、イサミがテーブルに戻ってからは消えてしまったようデス――
「……私、戻りマス」
「ん? あ、あぁ、そっか」
近くにいる受付係の男子生徒二人にそう言って、私はフラフラと廊下を歩き出しマシタ。
どこへ向かうといえば――
(……私、は)
今日、『あの』お芝居をブジに終えられるのでショウカ?
目の前であんな光景を見せられても、私はあのシーンを演じられるのでショウカ?
不安ですが、仕方がありマセン――そう、自分に言い聞かせマス。
今日のお芝居の内容は、アリスを含めて誰にも伝えませんデシタ。
かえって、良かったのかもしれマセン。
――だって。
(こんな気分のまま、お芝居ナンテ……)
まともに出来る気がしないのですカラ――
368 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/12/05(金) 02:08:12.76 ID:5/HVdI+M0
とりあえず、ここまでです。
「一波乱」のお話でした。
今回のような展開は、このSSを書き始めてから、どこかで絡めようと思っていました。
次回は、カレンの演劇の話になると思います。
原作とはかなり異なったものになると考えていますが――ご容赦頂ければ、と思います。
このような設定で、読んで下さる方がいるだけで嬉しいものです。
……原作も、もしかしたらこうした設定(もちろん、違いはあるにせよ)で始まっていたのかもしれませんね。
見てみたいものですが、無理でしょうね……(諦め)。
それでは、また。
いつもありがとうございます。
369 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/12/05(金) 03:46:50.75 ID:36bASjDu0
おつです!
370 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/12/05(金) 17:08:32.30 ID:IQr+smSbO
乙
371 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/12/22(月) 00:28:34.75 ID:c4dYWrVV0
カレンの演劇の話は、次回以降になると思います。ごめんなさい。
372 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/12/22(月) 00:29:29.14 ID:c4dYWrVV0
「それじゃ、陽子ちゃん。後はよろしくね」
お友達との一服を終えてから、席を立ったイサ姉はそんなことを言った。
口元は笑っているんだけど、どこか複雑そうな目つきをしている。
「……ん。まぁ、大丈夫だと思う、よ」
頭をかきながら、私はそう返事をする。
いけない、軽く流そうとしたのにどこか歯切れの悪い返事になってしまった。
……いやまぁ、無理もないんだろう。多分。
「うん。陽子ちゃんなら、あの子を任せてもいいと思えるわ」
「……だ、だからさぁ」
あぁ、どうしてこういうことを言われると、瞬時に顔が赤らむのか。
以前――そう、少なくとも一学期の間には決してなかった。
「あの子」絡みのことでからかわれた時に、こんな反応をすることなんて。
「――シノのサポート、ホント頼むわね」
「……あ」
ポンっと肩を叩かれた。
フワッとした風と共に、イサ姉は出口へと向かっていく。
私の見た後ろ姿は、相変わらず綺麗なものだった。
「……」
「応対、ありがとね」
おっと、見とれてしまっていた。
声のした方へ振り向けば、イサ姉のお友達の姿がある。
「まぁ、えぇと……あまり緊張しないで。なんとかなると思うから」
それじゃね、と手を振りながら去っていく彼女を見ながら思った。
(……励まされた、のかな?)
疑問符つきの思いのまま、私は店内を見渡した。
さっきの「一件」が起きてから、それほど時間は経っていない。
店内は和洋入り混じった様子で、まぁ人入りはそこそこってとこか。
……ただ。
373 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/12/22(月) 00:30:56.73 ID:c4dYWrVV0
「……シノ、が」
「わ、私が、しっかりしない、と」
私の大切な友達は、どうやらショックから立ち直れてはいないらしい。
まぁ、無理もない。
恐らく、アリスと綾で受けているショックの質みたいなものは違うんだろうけど。
――そして。
「お待たせしました! カフェラテになります!」
「おお、美味そう!」
「へぇ、学祭のものにしてはなかなか凝ってるわね……」
「ありがとうございます!」
ペコリと一礼する「アイツ」は、さっきのこともどこへやら、完璧な接客をこなしていた。
お客様に対する態度も良く、こっちから見る限り笑顔もしっかりしている。
……そう、だからきっと。
(――そっか)
私とイサ姉しか気づけなかっただろう。
付き合いの長さでいえば、あの人の次くらいに長い私くらいしか。
「……ねぇ、委員長?」
「どうかした、猪熊さん?」
甘味処班のリーダーたる委員長に、私は声をかけた。
「少し、休憩してもいいか?」
「――ん、そうね」
チラッと時計を見る委員長。
次いで彼女は、店内を見回す。
そしてまた私と向き合うと、
「実は、そろそろ節目としてはアリかな、と思ってたのよ」
「……そっか」
「今、来店しているお客様が出て行かれたら、休憩にしましょうか」
委員長はそう言うと、クスっと微笑む。
「どうかした?」と私が聞くと、こう返した。
「……大宮さんのこと、心配?」
「っておいおい、委員長までそれか?」
「あなたが一番、付き合いの長いことは聞いてるしね」
笑みを浮かべながら、委員長はゆっくりと言う。
「だから、他の子が気づかないことも……気づけちゃうんでしょう?」
「……」
鋭い。
ただの「真面目系キャラ」じゃないとは前から思っていたけど、やるな。
「さ、そうと決まれば休憩までベストを尽くしましょう」
最後まで優しげな表情のままで、委員長は元の業務へと戻っていった。
「……うん」
私もそう返事をして、接客対応へと足を向ける――
374 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/12/22(月) 00:32:32.01 ID:c4dYWrVV0
――AM12:00
「それじゃ、休憩ー!」
……あ。
どうやら、一旦おしまいのようです。
パンパンと手を叩く委員長の姿も、やりきったという充実感でいっぱいのように思えます。
――当然、私も。
「や、やっと……終わりなのね」
「お疲れ様、綾ちゃん」
声を震わせながら言う綾ちゃんに、私は笑いながら返しました。
「今日は凄かったです、綾ちゃん。本当に、間違いなく『変わった』と思います!」
「……あ、ありがとう。でも、シノ」
はしゃぎながら言う私に対して、綾ちゃんはどこか複雑そうでした。
「あ、あなたは……その」
「あっ! 甘味処班のお二人も!」
今度は甘味処班の方へと目を向けて、私はそう口に出していました。
陽子ちゃんもアリスも、やり遂げたという感じで、こちらへと向かってこようとしています。
私は、そちらへ視線を転じながら、お二人の姿を待っていました――
――「その」の後、何を言おうとしていたのだろう。
考えなしに私の口から飛び出した言葉に、当の私自身が驚いてしまった。
とはいえ、具体的な内容なんてどうでもよかったのかもしれない。
当然、さっきのことについて聞こうとしていたに決まっているのだから。
相手の男子生徒は、シノの連絡先を知らない。
つまり、シノが連絡しない限り、よほどのことがない限り二人はもう接触しない――
(……どうして)
さっきの、やるせない気持ちが、また蘇る。
どうしてシノなんだろう、と。
仮にシノが正真正銘の「女の子」なら、私はこんなことは考えなかったはずだ。
この行き場のない思いに、私はどう対処すればいいのだろう……。
375 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/12/22(月) 00:33:51.66 ID:c4dYWrVV0
「それじゃ、食べ物屋回ろうか!」
私のすぐ隣で、陽子は満面の笑顔で言う。
いつも「早弁」をしている彼女は、食べ物のことになると一味違う。
それは、普段の付き合いの中でよく分かっていた。
「わぁ陽子ちゃん、私、おごられちゃうんでしょうか?」
私の二つ隣にいるシノは、手を叩いてそんなことを言う。
ポワポワとした笑顔は、いつも私の見るものだった。
……まるでさっきのことなんて、なかったことみたいな。
「……アリス」
ハッとした。
見れば、綾が私に顔を向けていた。
その評定は、どこまでも複雑そうで。
……今の私も、同じような表情をしているのだろう。
「ど、どうしたの綾?」
慌てて、私は応じる。
目の前の彼女は、逡巡する様子の後で、私に言う。
そして、私の耳元に口を寄せて、
「……さっきのこと、どう思う?」
「――!」
驚いた。
どうやら綾は、私と全く同じことを考えていたらしい。
陽子とシノの二人はどこ吹く風で、おいしいクレープ屋のこととかを話していた。
「……綾」
今度は私が綾の耳元に口を寄せて、ボソボソと言う。
それに対し、綾はコクリと返事をすると、
「よ、陽子! シノ!」
「ん? どうかした、綾?」
「そ、その――ちょ、ちょっとアリスとお手洗いに行ってきたい、んだけど……」
顔を赤らめながら、綾はそう続ける。
376 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/12/22(月) 00:34:41.33 ID:c4dYWrVV0
ここで、私は驚いた。二回目だ。
こういう、いかにも恥ずかしくなりがちなことを、綾が即座に言い出したことに。
……綾も、間違いなく変わっているんだ。
そんなことを感じた。
「ん、わかった。それじゃ、待ち合わせ場所は――そうだな、中庭でいいか?」
対する陽子は、いつものように気さくな調子で綾に返す。
「わ、わかった!」と綾は応じた。
「アリス、行きましょう」
「う、うん。わかった」
綾に連れて行かれる格好で、私は二人から離れていった。
その合間にチラッと、視線を向ける。
「行ってらっしゃい、お二人とも」
そこには、いつものように、私の大好きな笑顔を浮かべるシノがいて――
「……」
それを見てから私は、ゆっくりとそこから離れていった。
377 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2014/12/22(月) 00:37:44.20 ID:c4dYWrVV0
ここまでになります。
カレンの演劇に一気に話を飛ばそうと考えていたのですが、いざ書いてみると思いました。
一旦、その場面に至るまでにある程度の決着みたいなものを付けておいたほうがいいのではないか、と。
とはいえ、読者の方によっては冗長に感じられるかもしれませんが……。
次回は、とりあえず分かれた二人組同士で、あの「一件」について色々と語ってもらう予定です。
進捗次第では、次回にカレンの演劇の話が書けるかもしれません。
それでは。
いつも読んで下さる皆様に感謝を。
378 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2014/12/22(月) 10:01:28.53 ID:weX5eX0SO
おつ
379 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2015/01/21(水) 00:03:09.20 ID:IqDtd8Jf0
――廊下・ベンチ
陽子「おまたせ、シノ」スッ
忍「わぁ、ありがとうございます!」パァァ
陽子「わたあめだけど、良かったかな?」
忍「はい、嬉しいで……」ピタッ
陽子「私とお揃いってことで……ああ、美味しー」モグモグ
陽子「ん? どうかした?」
忍「よ、陽子ちゃん……」フルフル
忍「これ、おいくらでした?」
陽子「ん……そうだな」
陽子「500円だったよ」パクッ
忍「――わ、私、払いますね」アセアセ
陽子「ちょい待った。シノ、本気にしてる?」
忍「??」キョトン
忍「で、ですが」
忍「お祭りとかだとわたあめって……」
陽子「あれ実際、かなり高めにしてるんだってさ」
陽子「で、かなり儲けられるんだって」パクッ
忍「……」
陽子「だから、ホントは100円だよ」
忍「――おごって、くれるんですか?」ジッ
陽子「さっき約束しただろ?」
忍「……ありがとうございます」ニコッ
忍「やっぱり、陽子ちゃんはイジワルですね」クスクス
陽子「褒め言葉?」
忍「はい」パクッ
陽子「ああ、美味しかった」
忍「はい、とても……」ウットリ
陽子「あの二人、どうしてんのかな」
忍「もう、陽子ちゃん? お手洗いに行ったことを気にするなんてはしたないですよ」
陽子「ねぇ、シノはどうしてると思う?」
忍「そうですね。きっと、人気のない裏庭辺りで……」ハッ
忍「――本当に、イジワルですね」クスッ
陽子「引っかかるシノが悪い」ニコッ
380 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2015/01/21(水) 00:04:30.99 ID:IqDtd8Jf0
忍「お二人に心配をかけてしまったのでしょうか」
陽子「そりゃそう思うよ」
陽子「……シノが悪いんじゃなくて」
忍「……」
陽子「あー、あの男子が悪いわけでもないよ」
陽子「そうだな、誰も悪くない。で、シノがそうなるのも仕方ない」
陽子「そんな感じじゃないかな」
忍「何だか納得いかないような……」
陽子「こらこらシノ」
陽子「私はずっと一緒にいて、シノがどれだけ優しいのか知ってるよ」
忍「……陽子ちゃん」
陽子「で、我慢するタイプだってのも」
忍「――」ギュッ
陽子「右手」
忍「!」ハッ
陽子「大丈夫? 長い間、握ってただろ?」
忍「……気づいちゃいましたか」
陽子「まぁ、ね」
陽子「ずっと一緒にいた私やイサ姉が気づかないわけがないよ」
忍「実は、ちょっと赤くなってしまいました」
陽子「やっぱり……」ハァ
陽子「昔から」
陽子「緊張したりパニクったりすると、それやっちゃうんだよね」
忍「これは、癖みたいなものですね……」
陽子「まぁ、それで感情を抑えられるシノは強いと思うよ」
忍「ありがとうございます」
陽子「けど……」
陽子「たまには、シノから頼ってほしいかな」
忍「ごめんなさい」ペコリ
陽子「謝らない謝らない」
陽子「――シノは凄いよ」
忍「……ありがとうございます」
381 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2015/01/21(水) 00:05:35.42 ID:IqDtd8Jf0
忍「それでは、お言葉に甘えて」ヨッコラセ
陽子「わっ、ちょ、シノ!?」アセアセ
忍「膝枕、してもいいですか?」ジッ
陽子(うっ、上目遣い……)
陽子(しかも、こういう時だけ色っぽく赤面までしてみせるって)
陽子「たまに、シノが怖いって思うことがあるよ」
忍「ふふっ、陽子ちゃんってば」コロン
陽子「……」
陽子(傍からだと、どう見えるんだろ?)カァァ
陽子(ま、まぁ、あれだ……)
陽子(シノを膝枕してあげたことなんて、それこそ――)
陽子「記憶にないぞ」
忍「ええ、私も驚いてます」ウットリ
陽子「……知ってただろ?」
忍「ご想像にお任せします」
陽子「シノはイジワルだ」
忍「陽子ちゃんには言われたくありません」クスッ
忍「……」
忍「陽子ちゃん」
陽子「な、なに、シノ?」ドギマギ
忍「――私」
忍「どうしたらいいんでしょうか?」
陽子「……」
忍「あんな風に、気持ちを伝えられたのは初めてです」
忍「男性の方と一緒にお話ししたりすることは、もちろんありましたけれど」
忍「……まさか、自分がこうなるとは思ってもみませんでした」キュッ
陽子(そりゃまぁ――)
陽子(カレンが告白されるのとは、色々と意味合いが違うからなぁ)
陽子「……」
忍「陽子ちゃん」
陽子「――私は」
陽子「そうだな……シノが自分なりに行動すればいい、と思うよ」
忍「……そう、ですよね」
382 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2015/01/21(水) 00:06:30.86 ID:IqDtd8Jf0
陽子「でもね」
陽子「私はシノがどんな行動をしても、それを全力で応援するよ」
忍「――!」ハッ
陽子「それだけはホントだから」ニコッ
忍「……もう」
忍「本当にイジワルで……お優しいんですから」
陽子「まったく……」
忍「……」
忍「ねぇ、陽子ちゃん?」
陽子「ん? なに?」キョトン
忍「――いえ、なんでもありません」フルフル
陽子「もう、なんだよ。気になるぞ?」
忍「ふふっ、内緒です」
陽子「隠し事、か?」
忍「……」キュッ
忍「ご想像にお任せします」ニコッ
――裏庭
綾「……シノは、どうするのかしら?」
アリス「まさか相手の人は、シノのことを……」アセアセ
綾「いや、それはないと思うわ」
綾「――さすがにシノの『素性』を知っていて、告白したとすれば」
アリス「もう、私たちの手に負える範囲を超えてるもんね……」
アリス(ただでさえ混乱してるのに……)
綾(ああ、もう……どうしてシノなのよ)
綾(カレンが告白された時とは、わけが違うのよ……)ハァ
綾「……ええとね、アリス」
アリス「なに、綾?」
綾「アリスは、どう思った?」
アリス「……」
綾「シノが、そ、その……告白、された時」
アリス「――カレンに続いて、シノまで遠くに行っちゃったなぁって」
綾「ええ。正直、私も同じようなことを考えたのは否定できないわね……」
綾「でも、それだけじゃないんでしょう?」
アリス「……うん」コクリ
383 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2015/01/21(水) 00:07:29.14 ID:IqDtd8Jf0
綾「そうよね」
綾「私もビックリしたもの」
綾「……シノが告白される、なんて」
アリス「考えたこともなかったよ」
綾「ええ」
アリス「……綾は、どう思った?」
綾「今度は私の番、ね」
綾「そうね……私もホントは、今も気が気じゃないのよ」
綾「色々と考えが走っちゃってて、抑えられない状態というか……」
アリス「わかるよ、それ」コクコク
綾「――シノは、本当に大切なお友達で」
綾「あの子がいなかったら、私も今日、乗り切れたかどうか……」
アリス「うん、シノは凄いよ」
アリス「無理してないか心配だけど……」キュッ
綾「そうよね……」
アリス「そっか。綾もシノが好きなんだもんね」
綾「も、もちろん」カァァ
綾(アリスの『好き』とは、きっと意味合いが違うけれど……)
綾(きっと、この子もそれを分かっているんでしょうね)
綾「ねぇ、アリス?」
アリス「ん? なぁに?」
綾「戻ったら、シノに何て声を掛けましょうか?」
アリス「……もう、綾ってば」クスッ
アリス「いちいち考えなくても、私たちは大丈夫だよ」
アリス「――いつも通りにしてれば」ニコッ
綾「アリス……」
綾(気丈に言うアリスを見ながら、私は気づいてしまった)
綾(彼女の笑顔が、翳ってしまっていることに)
384 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2015/01/21(水) 00:09:54.00 ID:IqDtd8Jf0
綾(それなら――)
綾「そうね、アリスの言うとおりね」
綾「それじゃ、そろそろ戻りましょうか」ニコッ
アリス「うん!」
アリス「……良かった。綾が笑って」
綾「アリスのおかげで、ね」
アリス「ふふっ、綾ってば」クスクス
綾(それなら、私もそれに倣おう)
綾(アリスも私の表情に気づいてるのだろうし……それならそれで)
綾(お互い様、ということで)
――さて。
二人が戻ってきた所で、私たちはその場を移動した。
行き先は、講堂だ。
そこで私たちの友達が劇をする、ということは知っていた……けど。
「そういえば……」
「な、なによ、陽子」
講堂の目の前で、立ち止まる。
ふと、思いついたことがあった。
近くの綾に視線を向ければ、何故か綾が照れ出した。
それに気づかない振りをしながら、私は、
「なぁ、カレンって何の劇をやるんだ?」
「……そういえば」
私の質問に応えて、綾は鞄から冊子を取り出す。
言うまでもなく、文化祭のパンフレットだ。
手際よく、該当のページを綾は見つけ出した。
「あったわ、カレンのクラス」
「そっか。で、演目は?」
「……演劇、としか」
「マジか」
綾に促される形でパンフに目を通した私は、呆気にとられてしまった。
たしかに綾の言うとおりだった。
「カレン……一体、何をするんだろう?」
「そもそも、何の役をするのかしら……」
腕を組み、考えこんでしまう。
そういえば、カレンは「劇やりマス! ショーデス!」としか言っていなかった。
なんやかんやで、今日まで詳細は明かされなかった、ってわけか。
「ねぇ、アリス? アリスは何か聞いていませんか?」
「うーん……私も何も聞いてないよ」
先頭を行く私と綾の後方で、シノがアリスに訊ねていた。
私たちだけでなく、シノとアリスまでも聞いていない、という。
……なんだろう。
385 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2015/01/21(水) 00:11:34.94 ID:IqDtd8Jf0
「なんだか胸騒ぎがするな……」
「奇遇ね、陽子。私も似たようなことを考えている気がするわ」
自慢じゃないけど、私の『嫌な予感センサー』は外れたことがほとんどない。
頼むから、今回は「はずれ」であってほしい……。
「うーん……考えていても始まりませんし」
「そうだよ、二人とも。中に入ろ?」
私たちが考えていると、シノとアリスが私たちを促した。
まぁ、確かに二人の言う通りだ。考えこんで当たるような問題でもない。
「それじゃ行くか、綾」
「ええ、そうね」
隣で考え込んでいた様子の綾と一緒に、私はゆっくりと講堂に足を踏み入れる――
――そして。
「ず、随分と人が多いな……」
「空席、あるのかしら……」
講堂内を見渡せば、かなりの客入りということがありありと分かった。
私が見る限り、ポツリポツリと空いた席はあるものの、四人が一気に座れるスペースは、というと……。
「あっ、大宮さんたち」
ん? 聞き覚えのある声がする。
声のした場所を探せば、そこにいたのは――
「受付の二人組か」
「なんだ、空席でも探してるのか?」
「まぁね……というか、何するのか知ってる?」
「さぁ、俺たちも知らねえ」
さっきぶりの二人組だった。
取り留めのない会話の後で「俺たちが詰めるから、ここ入ってもいいぞ」と移動してくれた。
あっ、ちょうど四人分だ。
「サンキュー」
軽い調子で返事をして、私は三人を促して列に分け入った。
私、シノ、アリス、綾の順に座る。
「いやー、助かった助かった」
「何かおごってくれてもいいぞ」
「無理。私がおごるのは、きっと一人だけだし」
「……え?」
ん? 何か変なこと、言ったっけ?
いや、目の前でピクッとしてから動きを止めた男子が、よく教えてくれているみたいだ。
……ああ。
「わぁ、陽子ちゃん。私、照れちゃいますよ?」
「……え、大宮さん? マジで?」
「ち、違う! シ、シノ、何言って」
「ふふっ、陽子ちゃんにおごられちゃって幸せですねぇ……」
386 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2015/01/21(水) 00:20:02.03 ID:IqDtd8Jf0
――さて。
そんな一騒動(?)があってから、少し経った。
そろそろ時間になる。
(……頼むよ)
私は、知らず知らずのうちに手を握りしめていた。
まるで、隣にいる「彼女」の癖が移ったように。
何でかって?
そりゃまぁ、「センサー」が外れるのを祈ってるからだよ……。
ビー、とブザーの音が鳴り響いた。
そして、静かに幕は上がり――
「あぁ……」
声が漏れた。
目の前には、花畑が広がっていた。
その脇に設置されたベンチに、二人の男女が座っている。
男子の方は紳士的な格好をしていて、もう一方の女子の方はドレスで着飾っていた。
どこかの王妃が着ているようなイメージをもたせるのに、十分すぎる出で立ちだった。
「……さすが、ですね」
左隣から、心の底から感心したとばかりの声がした。
シノもそう思ったか。いやきっと、シノだけじゃない。
「……あっ」
「凄い、わね」
とはいえ、多分アリスと綾だけでもない。
「おい、あれってまさか……」
「そっか、さっきの」
受付係もよくわからない反応をしているけど、この二人だけでもない。
構内にいる観客全員が、同じことを考えているに違いない。
普段は飄々としているあの子は、その実とんでもなく可愛い。
それをよく知っている私たちは、そのギャップで余計に心を揺さぶられるんだと思う。
普段のあの子を知らない観客も、嘆息するに違いない。現に、前からも後ろからも唾を飲み込んだような音がしている。
舞台で淑やかに座っているのは、私たちの大切な友達――九条カレンだった。
いつになく真剣なその表情は、ただ緊張しているというだけではなさそうだった。
私は舞台の小道具と、カレンのそんな表情を見ながら、
(……「センサー」、当たっちゃったかぁ)
そう、確信してしまった――
387 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2015/01/21(水) 00:33:51.59 ID:IqDtd8Jf0
ここまでになります。
二期の日程も久世橋先生の中の人も決まったようですね……時の流れは早いものです。ごめんなさい、遅れました。
気づけば、地の文は陽子視点のものが圧倒的に多くなりましたね。
一番書きやすいもので……いずれ、嘘つきブラザーズも出るかもしれません。
あと、いつの間にか主人公的な立ち位置になったようにも感じます。
それでは、また。
陽子の「センサー」は、どこまで当たるのでしょうか……。
388 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2015/01/21(水) 02:09:51.49 ID:IqDtd8Jf0
すみません。
>>385
と
>>386
の間に、この文章を挿れておきます。外されてしまっていました。
左隣にいるシノは、満面の笑みを浮かべながら穏やかに言葉を紡ぎ続ける。
「けれど、陽子ちゃん? ホントに私だけでいいんでしょうか……」
その後で、赤面と上目遣いの強烈コンボ。
さっき見たばかりとはいえ、この技に私は勝てる気がしない。
「だ、だから、シノ……ええと、あのさ」
「そっか、猪熊が……」
「大宮さんの……ふーん」
「二人とも、静かにするっ!」
シノを相手にするだけでも大変なのに、右側の二人まで来られちゃ泥沼化は必至だ。
「まぁ、なんだかんだで、か」
「猪熊がいるなら何とかなるか……さっきのことも」
私がそう言っても説得力はなかったらしく、なんだか得心が行ったような反応を返されてしまった。
というか、やっぱり「さっきのこと」を気にするのは私たちだけでもなかったらしい。当然といえば当然だけど。
「……もう、知らんっ」
男子から視線を逸して、シノへと視線を戻す。
相変わらずの表情を浮かべながら「陽子ちゃんは可愛いですねぇ」と、ほんわかに言われてしまった。
私は「シノのイジワルめ」と返して、頭を垂れた。
やれやれ、左右からの攻撃をかわすのは疲れる――
「陽子……やっぱり、シノに」
「あ、あなたねぇ……」
――まだ、休めないのか。
溜息をつき、私は再び元の体勢に戻る。
明らかに顔が熱い。熱でも出たんじゃないか。
まぁ、いいや。
気を取り直してから、綾とアリスの方へ視線を向け、
「わ、私とシノは、そ、そういうんじゃないからっ!」
噛んだ。恥ずかしい。
389 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/01/23(金) 04:51:44.37 ID:+cZV3pxiO
かわいいな
乙でした!二期楽しみ
390 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/01/23(金) 09:33:32.24 ID:9IWPNdep0
おつ!
ラッキースケベされた陽子もみてみたい
391 :
◆OtZIp/YaIxCt
[saga]:2015/01/25(日) 00:23:01.66 ID:/773hr+x0
レス、ありがとうございます。
>>390
ラッキースケベを書きたいと思っていますが、なかなか入れる場面が思いつかず……。
ともあれ、次回辺りで文化祭は決着すると思うので、それから考えますね。ありがとうございます。
――開演から遡って・空き教室
女子1「……これでよし、っと」
女子2「おー……何度見ても、惚れ惚れするね」
カレン「――そ、そうでショウカ」アセアセ
女子3「こりゃ、本物のお嬢様……いや、お姫様」
女子1「観客席が沸きそうだねっ」
カレン「……」
カレン(あれから時間が経ったノニ)
カレン(さっきのシノのことが気になって、しょうがないデス……)キュッ
カレン(シノは、あれからどうなったのでショウカ……)
カレン(――確認するのが怖くて、すぐに飛び出してしまいマシタ)
女子1「く、九条さん……大丈夫?」
カレン「……!」ハッ
カレン「ご、ごめんナサイ」
女子2「まぁ、九条さんも緊張するよね」
女子3「でも、大丈夫。何か失敗したとしても、今の九条さんなら」
女子1「多分、どんな振る舞いでも絵になるから……」
カレン「……ありがとうございマス」
カレン(この人たちに言えるわけでもありマセン……)
カレン(ホントは劇のことよりも、さっきのことが気になってる、ナンテ……)
カレン(ここまで準備してきてくれたクラスの皆さんに申し訳ないことデス)
カレン「……台本を取って頂けマスカ?」
女子2「ん、分かった。はいっ」スッ
カレン「Thanks……」
カレン「――」パラパラ
カレン「や、ヤッパリ、こういうシーンハ……」
女子1「まぁ、その辺は適当に」
女子2「そう気張らなくっていいよ」
女子3「どう演技しても、絶対大丈夫だから」
カレン「……」
カレン「ハイ、わかりマシタ」コクリ
392 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2015/01/25(日) 00:23:48.82 ID:/773hr+x0
トリップ間違えてました。
――集合場所
女子1「みんなー、終わったよー」
女子2「見て驚け!」
女子3「あんたが主役みたいになってるね……」
カレン「……お、お邪魔するデス」モジモジ
「わっ」「凄いキレイ……」「なんだあれは……」「く、九条さん、やっぱり」
カレン「……」
カレン(どうしてなんでショウカ)
カレン(皆さん、私をとても褒めてくれてマス。嬉しくないわけがありマセン)
カレン(……ナノニ)
「やっぱり似合うな、九条さんは」
カレン「あ」
男子「今日は、よろしくな」
カレン「……」
カレン「ハイ」コクリ
男子「うん」ニコッ
男子「それじゃ俺、ちょっと台本読んでくるから」
カレン「――ファイト、デス」
男子「そっちもな」
女子1「へぇ、スーツ姿ってのは初めて見た」
女子2「意外と似合うもんね」
女子3「同感」
カレン「……」
女子1「まぁ、九条さんには敵わないけど」
女子2「そりゃまぁ、仕方ないよね」
カレン「そ、そんなコトハっ!」アセアセ
カレン「ない、デス……」
カレン(だから、シノたちには言えませんデシタ)
カレン(私がヒロインで、「彼」がヒーロー)
カレン(私が主役ということもそうですが、何より「彼」のこともありマシタ)
カレン(シノたちは――あの時、「彼」を見ているのデスカラ)
393 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2015/01/25(日) 00:24:36.93 ID:/773hr+x0
――本番前・舞台袖
男子1「それじゃそろそろ行くぞー!」
男子2「主役ー!」
男子「おう」
カレン「……ハ、ハイ」
男子「よいしょ、っと」コシカケ
カレン「……」
男子1「それじゃ、ブザー鳴ったらスタートで」
男子2「ガンバ、二人とも」
男子「ありがとよ」
カレン「が、ガンバリマス」モジモジ
男子「……」
男子「緊張してる?」
カレン「……Yes」
男子「無理もないよな」
男子「まぁ、あれだ」
男子「今の九条さんなら、どんなミスしても大丈夫だと思う」
カレン「それ、さっきも言われマシタ」
男子「みんな同じようなこと思ってるよ」
カレン「そう、でショウカ」
男子「おっ、鳴ったな」
カレン「は、ハイ……」
カレン(幕が上がり始めマシタ)
カレン(私の目の前に、多くの人が現れテ――)
カレン「あっ……」
カレン(シノたち――)
――観客席
陽子「……あ」
忍「あの方は――」
アリス「そうだ、カレンに」
綾「……そうね、あの時の」
綾(もしかすると、だからこそ……)
陽子(カレンは、私たちに知られたくなかったのかも……)
カレン「……」
カレン「今日は、帰らなくていいのデスカ?」
男子「ええ」
男子「――今日一日は、あなたのものです」
394 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2015/01/25(日) 00:25:13.15 ID:/773hr+x0
陽子(胸やけしそうなセリフだ……けど)
陽子(主役が言うと、妙に堂に入ってるというか)
忍「……カレン」
綾「お話の世界みたいね……」カァァ
アリス「あ、綾? 顔、赤いよ?」
――時間が経って
陽子(劇の内容は、よくある男女恋愛モノで)
陽子(身分違いの恋だとかそれによる両家の確執、でもって最後は困難を乗り越えてハッピーエンド)
陽子(……どこかで見たことがあるような要素のごった煮、というイメージだった)
陽子(私は、評論家でもないからよく分からないけど)
陽子(筋書きはともかく、主役の演技が凄い)
陽子(まるで本当に「叶わぬ恋」みたいな鬼気迫る感がある、というのも)
陽子「当たり前か……」
綾「二人とも演技が凄いわね」
アリス「うん」
アリス「カレンも本当に上手だけど、男子の方が本気って感じがするよ」
アリス「……まぁ」
綾「無理もない、わね」
忍「……」
陽子(――シノ)
――舞台
男子「私の想いは、永遠に叶わないのかもしれません……」
カレン「そんなコト」
男子「でも……あなたを諦めることなど」
カレン「――」チラッ
カレン(シノ……)
カレン(あれからどうなりマシタカ? 相手の方と……)
男子「あなたを思うだけで、一日が終わってしまいます」
カレン「……あ」ハッ
カレン「わ、私も、デス……」
カレン(一日が、すぐに終わってしまいマス……)アセアセ
395 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2015/01/25(日) 00:26:18.27 ID:/773hr+x0
――更に時間が経って
――舞台
カレン「本当に……私で、いいのデスカ?」
男子「はい。もちろんです」
男子「さぁ、ここから抜け出しましょう」
カレン「……」
カレン(――「ここで」)
カレン(「ここで、軽くハグ」)
カレン(台本に書かれていた、ラストシーンの文章……)
カレン「……」キュッ
男子「……?」
男子「どうかなさいましたか?」キョトン
>ナンダナンダ?
>アクシデント?
男子「……九条さん、大丈夫?」ヒソヒソ
カレン「わ、私、ハグ、出来マセン」アセアセ
男子「……」
カレン「ご、ごめん、ナサイ」
カレン「――うっ」グスッ
カレン「シノ……」
――観客席
男子A「お、おい、あれって……」
男子B「泣いてる?」
陽子「!」ハッ
アリス「!?」
綾「カ、カレン……?」
陽子「――あぁ」
陽子(センサーを今日ほど憎んだ日はない……)
忍「……カレン」
陽子「シノ……」
忍「――」キュッ
396 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2015/01/25(日) 00:27:25.31 ID:/773hr+x0
――終演
「皆さん、ご観賞ありがとうございました!」
陽子(結局、あれから慌てた様子のナレーターが締めの言葉を述べて)
陽子(二人の主役は舞台袖に戻っていった)
陽子(最後の、全員揃っての挨拶まで少し時間がかかったけど)
陽子(カレンも中央で、お辞儀をしてくれた)
陽子(こうして、カレンのクラスの演劇は幕を閉じた――)
男子A「よかったな」
男子B「うん、特に主役二人の演技が凄かった」
陽子「……」
男子A「猪熊」
陽子「な、なに?」
男子B「あの主役の子、お前の友達なんだろ」
陽子「……そうだよ」コクリ
男子A「話、聞いてあげた方がいいぞ」
陽子「うん……」
男子A「それじゃな、大宮さんたち」
男子B「また後で」
陽子「……」
アリス「カレン、大丈夫かな」
綾「やっぱりあれって……」
忍「泣いて、ました」
忍「目が潤んでました……」
陽子「シノ……」
――それから
放送「これにて、第〇〇回文化祭を、終了します!」
アリス(放送……)
アリス(そっか、これでおしまい)
綾「お疲れ様、みんな」
陽子「これで後は片付けだな!」
アリス「うん、そうだね……みんなお疲れ様」
397 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2015/01/25(日) 00:31:10.61 ID:/773hr+x0
忍「はい、お疲れ様――」
忍「あっ、携帯電話が……失礼します」カチカチ
忍「……」ピクッ
アリス「?」
忍「皆さん、ごめんなさい」
忍「少し、席を外しますね」ペコリ
陽子「? どうかしたのか、シノ?」
忍「いえ――」
忍「すぐに戻りますから」タタタッ
綾「あ、し、シノ?」キョトン
アリス「……」
陽子「まぁ、なにはともあれだ」
陽子「片付けよう、二人とも」
綾「……ええ、そうね」
アリス「う、うん」
アリス(……あ)
アリス(そろそろ、ゴミが溜まっちゃった)
アリス「陽子、綾。ゴミ箱、捨ててくるね」
陽子「お、サンキュ……でも」
綾「重くないかしら」
アリス「大丈夫だよ。今、捨てにいくなら私一人でも」
アリス「それに、みんな忙しそうだし」ニコッ
陽子「そっか、それなら頼む」
アリス「うん!」ヨッコラセ
アリス(……ゴミ捨て場は)テクテク
アリス(うん、あった。あそこだ)
アリス(……シノ、どこへ行っちゃったんだろう?)
アリス「よいしょ、っと」
アリス「ふぅ、これでおしまい――」
「……シノ」「カレン……」
アリス「!?」ピクッ
アリス(こ、この声は……)
アリス(裏庭、だよね?)
398 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2015/01/25(日) 00:31:37.66 ID:/773hr+x0
アリス「……」
アリス(カレン――やっぱり)キュッ
カレン「少し、このままでいさせてくだサイ……」
忍「……」
忍「わかりました。大丈夫ですよ、カレン」ナデナデ
カレン「……シノ」ギュッ
アリス(カレンが、シノにハグしていた)
アリス(私は動揺するより先に、納得してしまった)
アリス(仮に私がカレンの立場でも、同じことをしたと思うから……)
アリス(――でも)
アリス「シノ、カレン……」
アリス(やっぱり、すごく複雑な気持ちだった――)キュッ
399 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2015/01/25(日) 00:35:16.65 ID:/773hr+x0
ここまでになります。
カレンの演劇まで、一気に書きました。
今回で一応、文化祭の行程自体はおしまいです。
色々とすっ飛ばした感は否めないですが、ご容赦下さい。
次回は、忍視点でカレンとの会合を書きたいと思っています。
それでは、また。
いつもお読みいただきありがとうございます。
400 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/01/25(日) 03:18:55.30 ID:LJvdaGtN0
乙です。
次回の更新がとても楽しみです!
401 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2015/02/01(日) 00:23:32.18 ID:sef3L+Kl0
――アリスが来る前・裏庭
忍「……」
忍「ここ、ですよね」
忍「――」カチャッ
忍(文面は「中庭に来てくだサイ。シノ一人だけで」……)カチカチ
忍「……」パタン
忍「大丈夫ですよ、私一人だけです」
カレン「!?」ビクッ
忍「もう、カレンったら。私がカレンのことに気づかないと思いましたか?」クスッ
カレン「……シノ」モジモジ
忍「陰からチラチラと見ていても、わかっちゃいますよ?」
カレン「――ごめんナサイ」
忍「謝らないで下さい」
忍「……大丈夫、ですか?」
カレン「……」
カレン「正直、参っちゃってマス」タメイキ
忍「ですよねぇ」
カレン「――何からお話ししまショウカ?」
忍「カレンが話したいこと、全部言ってください」ジッ
カレン「……」
忍「私は、じっくりと聴きます」
忍「途中で言葉を挟んでしまうかもしれませんが……それで、どうでしょう?」
カレン「――ハイ」コクリ
カレン「ありがとうございマス、シノ」
カレン「これはシノだけではないのデスガ」
カレン「まず、内緒にしていてごめんなさいデシタ」ペコリ
忍「……」
カレン「私たちのクラスで、その……ああいった劇をすると決まってカラ」
カレン「最初にモメたのは、どの二人が主役をするかデシタ」
カレン「――それで結局」
忍「……投票」
カレン「Yes」コクリ
カレン「つまり、『誰が主役とヒロインになってほしいか』といった投票会が開かレテ」
カレン「結局、私と『彼』がそうなりマシタ」
カレン「初めは、断ろうと思ってマシタ」
カレン「シノたちと一緒にいる時間の方がずっと大事で……とても楽しかったからデス」
カレン「……それに、相手が相手というのもありマシタ」キュッ
402 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2015/02/01(日) 00:24:35.23 ID:sef3L+Kl0
忍「――カレン」
カレン「But」
カレン「クラスの人たちは『それでもいい。九条さんが主役なら、どんな演技をしても絵になるから』ト」
カレン「そんな風に言われたら、せっかく仲良くしてくれる皆さんに申し訳ありマセン」
忍「……カレンは、優しいですから」ニコッ
カレン「……」
カレン「それから、あまり練習もしないまま本番を迎えマシタ」
カレン「……それからのことは、シノたちが見ての通りデス」
忍「……」
カレン「私が一番辛かったノハ」
カレン「――クラスの人が、誰も私を責めなかったことデス」
カレン「特に、相手の方にはとんでもない迷惑をかけてしまいマシタ」
カレン「それ、ナノニ……」ウルッ
忍「!」ハッ
カレン「相手の方は、何も言いませんデシタ」グスッ
カレン「た、ただ、『こっちこそごめん。台本に、やりすぎだって注意できなかった』ッテ……」
忍「……」
カレン「わ、私、最初に台本をもらって、相手が『彼』だと分かってイテ」
カレン「それでも、そう演技出来るって思ってマシタ。今日の朝までは、絶対に出来るつもりデシタッ」
忍「――カレン」
カレン「……But」
カレン「今日の午前中、私ハ――」
――アリスが教室を出てから・教室前の廊下
委員長「猪熊さん、小路さん。男子が片付け終わったみたいだから、ここ掃いてもらえる?」
陽子「ん、ああ。わかった」
綾「りょ、了解」
陽子「……」ホウキ
綾「……」チリトリ
陽子「なぁ、綾?」パッパッ
綾「なぁに、陽子?」サッサッ
陽子「――カレン、心配だな」
綾「ええ、そうね……」
陽子「……綾?」キョトン
綾「ごめんなさい。少し、考えることがあって」
陽子「そっか……」
403 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2015/02/01(日) 00:25:47.57 ID:sef3L+Kl0
陽子(……あぁ、もう)
陽子(『センサー』が当たったことは、まぁ仕方がないと割り切った)
陽子(出来事って起こるときは起こるものだと思うし……だけど)
――お前、あの子の友達なんだろ?――
――話、聞いてあげろよ――
陽子(正直、あの二人に言われなくたって分かってる)
陽子(そんなの、当たり前だ。友達のために何かをする、なんて……)
陽子(なのに――なんだか、私は調子が振るわない)グルグル
陽子(どうしてなんだろう……)
陽子「はぁ……」タメイキ
綾「――そっか、こういうことなら」
陽子「あ、綾?」
綾「陽子。どうして、カレンは泣いたと思う?」ジッ
陽子「な、なんだ、いきなり?」
綾「考えてみて」
陽子「……そ、そりゃあ」
陽子「相手が例の男子だし、あの場面がどういう台本だったのかは分からないけど……」
陽子「恋愛モノは、やっぱりキツかったってことじゃないのか?」
綾「ええ、そうね。私もさっきまで、似たようなことを考えていたわ」
綾「――でも、本当にそれだけなのかしら?」
陽子「……え?」ピクッ
綾「私たちと行動を共にすることが多かったにしても」
綾「演劇をするんだったら、数回くらいは『通し稽古』を行うでしょう?」
綾「カレンや他の人たちの演技を見ても、さすがにあれが初めての『通し』だなんて信じられない」
陽子「……たしかに」
綾「それならそういった機会に、『こういう演技は出来ない』ということを台本担当の人に伝えるはず」
綾「別に伝えても良かったはず。普段のカレンなら、気軽な感じでそういった主張をすると思うし」
陽子「――そ、そうだな」
綾「ということは、カレンは台本の流れを知っていた上で、今日……」
陽子「泣いた、ね」
綾「そうね、辻褄が合わないわ」
綾「それなら今日の演劇前に、カレンに『何か』が起きたと仮定したらどう?」
陽子「……何か」
陽子「ダメだ、思い付かないよ」
綾「そうね、私もさっきまで同じだったわ」
綾「――『シノ』のことに、考えが及ぶまでは」
陽子「!」ハッ
404 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2015/02/01(日) 00:26:18.78 ID:sef3L+Kl0
綾「陽子には、今更言うまでもないことよね。アリスとカレンがシノのことを――『好き』ってこと」
陽子「う、うん……」
綾「それなら今日のあんな場面を見せられて、カレンが平然としていられるわけがないと思わない?」
陽子「ってことは」
綾「そう……カレンが、あの時の光景を見ていたとしたら」
綾「壇上でのカレンの行動についても、辻褄が合うの」
陽子「だ、だったら。劇の直前にでも、台本係に『やっぱりやめて』って……」アセアセ
綾「そうね。でも何となくだけど――カレンは、人の期待を裏切れない子だと思うの」
陽子「――」ハッ
綾「……推理でも何でもない、ただの想像よ」
陽子「いや……」
陽子「びっくりしたよ、綾。よくそこまで考えられるな」
綾「……あまり、気は進まないけどね」
陽子「いや、凄いよ。だって、私には全然分からなかったし」
綾「あのね」ジトッ
綾「いい、陽子? あなたがしっかりしていてくれれば、私がこんな『想像』を話す必要なんてなかったの」
陽子「……綾?」
綾「私が知ってるあなたなら」
綾「今の私の話なんて全部とばして、『とにかくカレンの話を聞いてあげよう』なんて私たちを巻き込んで飛んでいったはずよ」
綾「――あの二人に言われなくても」
陽子「――!」ハッ
綾「シノの一件があって、調子が狂っちゃった?」
陽子「……そう、かも」
綾「それじゃ、もう悩むの禁止」
綾「いい? あなたのためじゃなくて、私たち皆のためなんだからね?」ビシッ
陽子「……うん」
陽子「ありがと、綾。少し、目が覚めた」
陽子「綾のためにも、調子戻すよ」パッパッ
綾「……まったく」サッサッ
綾「そういうことを臆面もなく言うから、陽子は困るのよ……まったく」カァァ
陽子「ん、ホントにありがと」ニコッ
陽子(……そうだ)
陽子(二学期に入ってから、シノのことで動揺することが増えて)
陽子(今日、色んなことが立て続けに起きて……私も、かなり参ったのかも)
陽子(――でも)
陽子「私が、しっかりしないとだな……」グッ
405 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2015/02/01(日) 00:27:12.08 ID:sef3L+Kl0
綾「――ところで」
綾「私は、アリスのことも心配なのよ」
陽子「アリスが? そりゃまた、どうして?」キョトン
綾「……いい、陽子?」ジッ
綾「今日、シノに起きたことと、前にカレンに起きたこと」
綾「――わかるでしょ?」
陽子「……あ」
――再び裏庭
忍「――やっぱり、あれはカレンだったんですね」
カレン「ご、ごめんナサイ。中に入れなくて、ソソクサト」
忍「いえ……」
カレン「シ、シノが、相手の方にどうResponseするノカ」
カレン「それが気になったら、げ、劇に集中出来なくナッテ――!」
カレン「そ、ソレデ……」ポロポロ
忍「いいです、カレン。ほら、顔が水だらけですよ?」
忍「今、拭いてあげます」
カレン「シノ……」グスッ
忍「大丈夫ですよ。このハンカチ、今日は使ってないので……」フキフキ
カレン「――シノは、優しすぎマス」
忍「カレンには負けます」ニコッ
カレン「わ、私はトモカク……」
カレン「――シノだって、すごく疲れてマス」
忍「……そう、見えますか?」ピタッ
カレン「ハイ」
忍「そう、ですか……」フキフキ
忍「実は、私もかなり参っちゃってるみたいで……」
カレン「……ヤッパリ」
忍「カレンも見ていたのなら、分かりますよね」
忍「相手の方は――どこまでも『男の子』でした」
カレン「――!」ハッ
忍「私、どうすればいいのでしょうか?」
忍「困ってしまいました……ああ、どうしましょう」タメイキ
カレン「……シノ!」
ダキツキ
忍「カレン……」
カレン「ムリ、しないでくだサイ」
カレン「シノは、いつもムリしてマス」
406 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2015/02/01(日) 00:27:43.04 ID:sef3L+Kl0
忍「そんな、ことは……」
カレン「ダッテ」
カレン「……私やアリスは、いつもシノに色んなカオを見せマス」
カレン「悲しい時、嬉しい時――今のように、泣いた時ダッテ」
忍「……」
カレン「ヨウコやアヤだって、シノには色んなカオをしマス」
カレン「……シノは、私たちに悲しいカオをしマセン。いつも、笑ってマス」
忍「――それ、は」
忍「私は、皆さんと一緒にいる時は、ただ、楽しいから」アセアセ
カレン「そうやって『ムリ』を重ねるカラ」
カレン「……まだ泣いてる私が、シノにハグしてるんデス」
忍「……!」ハッ
忍「――カレンには、隠し事出来ませんね」タメイキ
カレン「その『隠し事』は、私だけにデスカ? それもDoubtデスネ?」
忍「だうと?」キョトン
カレン「『嘘』って意味デス」
忍「……」
カレン「シノ」
カレン「……どうすれば、シノはムリをしないでくれマスカ?」ジッ
407 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2015/02/01(日) 00:28:08.49 ID:sef3L+Kl0
――そう言って、カレンは私を見つめてきました。
上目遣いで。
私がさっき、陽子ちゃんにした行為です。
ただ、今のカレンには、あの時の私のような「計算」が全く感じられません。
私も、ゆっくりと彼女の瞳を見つめます。
見れば見るほど綺麗な光彩を帯びていて、吸い込まれそうになります。
そして、カレンの顔の下部にある唇もまた抜けるような赤さで、魅力的でした。
「――シノが、ムリしないでくれる方法」
そう呟いて、カレンは私にその綺麗な顔を近づけてきます。
ただでさえ近かったその距離は彼女が詰めることで、文字通り目と鼻の先にあります。
「シノは、どう思いマスカ?」
カレンは、気づいているのでしょうか。
恐らく、意識してはいないでしょう。
まだ涙に濡れた瞳。
私の首にかかる、滑らかな腕。
抜けるように赤い唇。
絹のように淑やかな、その金髪。
そういった全てが、私の――
「……シノ」
――理性を、粉々に砕こうとしていることなんて。
408 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2015/02/01(日) 00:28:48.70 ID:sef3L+Kl0
忍「……あ」
忍(その瞬間、私は気づいてしまいました)
忍(間違いありません……あの金色は)
カレン「シノ……?」
忍「――カレン」ポンッ
カレン「アッ……」
忍(私の手が、カレンの肩に触れました)
忍(そして、ほんの軽く押します)クイッ
忍「もう、あまりに勢いよく抱きついてくるから……」
忍「綺麗な金髪が乱れてしまってますよ?」ナデナデ
カレン「……シノ」
忍「……」
忍「ごめんなさい、カレン」ペコリ
カレン「!」
忍「私、カレンが『好き』です」
忍(いけない……)ハッ
忍「それは、本当です。信じてくれますか?」
忍(笑顔です、笑顔――)ニコッ
カレン「……ハ、ハイ」コクコク
忍「――でも、いや、だからこそ」
忍「その……こういったこと、は」
忍「出来ません」
カレン「……?」
カレン「!」ハッ
カレン「わ、私、ハグしたダケデ……Uh」
カレン「き、きs」カァァ
忍「ストップです、カレン」フルフル
忍「……どうですか? 落ち着きましたか?」
カレン「……」
カレン「Yes」
409 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2015/02/01(日) 00:29:44.65 ID:sef3L+Kl0
カレン「シノのお陰で、本当に助かりマシタ」
忍「それは良かったです」
忍「それでは、一緒に帰りましょうか」
カレン「――イエ」
カレン「わ、私! ちょっとクラスの人たちの所へ――」アセアセ
忍「……そう、ですか」
忍「分かりました」
カレン「……」ジッ
カレン「シノ」
忍「はい?」
カレン「――I like you very much」
――そう言って、カレンは走っていきました。
私は、そんな彼女の後ろ姿を見つめながら、さっきの英語に思いを馳せます。
(あいらいくゆー……?)
さすがの私でもI Like Youの、それぞれの意味くらいは知ってます。
私 好き あなた……
(じゃあ、最後のべりーまっちは)
「あなたが大好き、だよ。シノ」
「そういう意味だったのですか。さすがは、アリスです」
私の悩みに颯爽と答えてくれたのは、大好きな金髪少女でした。
アリスは、ゆっくりと私に近づいてきます。
「つまり、カレンはシノが大好きってこと」
「えへへ、照れますね」
「ただの『好き』じゃない、っていうことを強調したんだよ」
「……」
黙り込んだ私に、アリスはしっかりと視線を合わせてきます。
「シノ、カレンとハグしてたね」
「……アリスも一緒に来ればよかったのに」
「うん、そうしたいと思ったよ。カレンと、その……キ、キス、しそうになるまでは」
そう言うと、顔を赤らめながら地面に視線を落としてしまいました。
「私ね、どうすればいいのかわからないの。もちろんカレンのことは心配だし、いつも笑ってるシノが顔を曇らせてることも 心配だよ」
「……アリス」
「で、でも……私、もう二人に置いていかれちゃったし。二人とも告白されたのに、私だけ……」
「――!」
アリスはブラウスをギュッと掴みながら、身体を震えさせています。
その目に、さきほどのカレンと同じような光がきらめいたのは見間違いではないでしょう。
アリスもまた、目を潤ませていました。
「どうすればいいんだろう、って……そう思ったよ? でも、私は、もう――」
410 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2015/02/01(日) 00:30:36.03 ID:sef3L+Kl0
次の瞬間。
私の腕には、柔らかな感触が広がりました。
顔には、可愛らしく風になびく金髪が触れています。
「シノ……」
腕の中から、アリスが小さく声を出しました。
私は、ギュッと抱きしめます。腕の中にいる、ガラス細工のように脆く柔らかい彼女を壊さないように。
「私はアリスが置いていかれた、なんて思ってません」
「……」
「それはですね、アリス」
そう言いながら、私は少し腕を緩めました。
そして、腕の中から現れたアリスの瞳と、視線をしっかりと合わせます。
「アリスの可愛さに、皆さんがまだ気づいていないってだけです。
そして、私以上にアリスの可愛さを知っている人はいません」
「……シノ」
「これだけは、自信があるんですよ?」
そう言って、にこやかに笑ってみせます。
大丈夫、もう大丈夫です。
さきほどカレンに指摘されたようなムリ、なんてことは――
「それじゃ、シノ。私には……」
――ない、はずです。
「え、えっと……キス、して」
ない、はずでした。過去形です。ごめんなさい、ムリでした。
「な、なんて――私、言わないよ?」
そして、アリスは顔を赤らめながら上目遣いをしてきました。
どうすればいいんでしょう?
正直な話、私の理性はさきほどから揺さぶられていて、壊れる寸前一歩手前にあるような気がします……。
「だって……そうしたら」
全部、壊れるような気がしちゃうから。
アリスは静かに、そう言いました。
「……」
「ご、ごめんね、シノ? からかったわけじゃないよ」
私だって、ホントはね――
そこまでは聞き取れましたが、それ以降は聞き取れませんでした。
それが何故なのかは、すぐ近くで、頭上に湯気をあげて黙りこんでしまった金髪少女を見れば一目瞭然でしょう。
「……と、とにかく!」
しばらく唸った後で、アリスは頬を染めながら、私を決然と見つめます。厳しい表情です。
ちなみに、まだ私の腕の中にいるので、その厳しさは可愛らしさに巻き込まれて消えました。
いけない、真剣にならなくては――
「シノ! 私も、シノのことが好き――『大好き』なんだからね!」
真剣になった反動で、私の理性は余計に強いダメージを受けました。
411 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2015/02/01(日) 00:31:23.43 ID:sef3L+Kl0
――裏庭
アリス『あれ、メールだ……あっ』
アリス『ごめんね、シノ。今日は、一緒に眠れないみたい。イサミたちにも伝えておいてほしいかな』
アリス『え、どこに泊まるかって? それはね――』
忍「……」
忍「ああ――」ハァ
忍(どう、しましょう)
陽子「――いたっ!」
綾「もう、シノ! さっきアリスが教室に戻ってきて」
陽子「シノが裏庭で倒れてるって聞いて、飛んできたんだよ」
綾「あと、カレンも元気そうに『先に帰る』って言ってきて……」
陽子「何が何だか――って、シノ? 聞こえてるか?」ズイッ
忍「……陽子ちゃん、綾ちゃん」
忍「私、色々と参っちゃいました」タメイキ
陽子「へ?」キョトン
忍「正直な話、もう今日は疲れて、本当にくたびれてしまいました」クタクタ
綾「シ、シノ?」アセアセ
忍「――だから」
忍「お二人とも、私に肩を貸して頂けませんか?」
――その後・廊下
陽子「もう、大丈夫か?」
忍「ええ、ありがとうございます」ヨッコラセ
綾「珍しいわね。シノがあんな風に、誰かに頼るなんて」
陽子「基本、私たちが『大丈夫か?』とか言わないと、頼らないのになぁ」
忍「……」
忍「その考えを、さっき大きく揺さぶられてしまいまして」
陽子「――そっか」
綾「シノは、頑張り屋さんだから」
綾「……憧れてるのよ、私は」カァァ
忍「ありがとうございます」
忍「――はぁ、疲れました」
委員長「あ、猪熊さんたち!」
陽子「あ、委員長」
委員長「もう。急にいなくなって帰ってこないからどうしたかと」ハァ
綾「ご、ごめんなさい」モジモジ
412 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2015/02/01(日) 00:32:34.39 ID:sef3L+Kl0
委員長「まったく……でも」チラッ
忍「――あ」ハッ
忍「委員長……ごめんなさい」
忍「私、ちょっと――理性が大変だったもので」
陽子(な、何を言ってるんだシノ……)
綾(普段のシノのボケとは何か違うわ――『天然』というより『素』というか)
委員長「……まぁ、無理もないわね」
委員長「あんな状況になったら、誰だってそうなると思うし」
忍「――委員長」
委員長「……ただ」
委員長「少し、カータレットさんにも気を配ってあげたほうがいいわ。先に下校したんだけど……さっき戻ってきた時、どこか物悲しそうな表情をしていたから」
――木枯らしが吹いていた。
晩秋の寒さに見を震わせながら、私はゆっくりと「彼女」の家に向かって歩いていた。
今日、おじさんはいないらしい。
というわけで、私たちは二人きりでお泊り会ということに――
(……何年ぶりだろう)
あっちにいた頃、私たちはシスターのように過ごしていた。
家族ぐるみの付き合いで、本当に血の繋がったきょうだいのように……。
私は、彼女の泣いた姿を見たことがある。
シノたちがビックリしたのは無理もない。今日、初めてそういう姿を見たのだろうから。
ただ、彼女だって普通の女の子だ。笑っていることが多くても、泣くことだってある。
シノたちの知らない彼女の姿を、私はよく知っている。
だからこそ、私は困っている。
私は、今日のシノじゃないけど、誰よりも彼女のことをわかっている自信がある。
……だから。
(――シノ)
私は、「好き」だよ。
ずっと一緒にいたいと思ってるよ。
――でも。
それは、私だけじゃ叶えられないことなんだよね……?
笑顔を作ろうとしても、なかなか作れない。
会うまでには何とか形作れると思ったけど……仕方ない。
マンションの前に着いて、私は彼女に電話をかける。
「着いたら電話をして」と、言われていた。
二言三言の会話の後で、私は携帯電話を切る。
そして、待つこと数秒――
413 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2015/02/01(日) 00:33:18.33 ID:sef3L+Kl0
「……アリス」
マンションのエントランスから、聞き馴染みのある声がした。
ゆっくりと、私は彼女へと視線を向ける。
トレードマークと言ってもいいユニオンジャックのパーカーは、少しクシャッとしていた。
「さっき、抱きつかれたせい?」と聞くと、「ハイ」と返ってきた。
そして「やっぱり見ていたデスネ」と、クスクスと笑いながら言った。
そんな彼女の姿を見ていると、何故か故郷のことが脳裏をよぎった。
きっと、今日、色々なことがあったせいだろう。
そう納得して、どこか愛おしい気持ちになりながら私も自然に微笑むことが出来た。
「――アリス」
お互いに笑い合った後で、綻んだ口元はそのままに彼女は続ける。
「『Council of War』といきマショウ」
「『作戦会議』……それって、やっぱり」
私が言葉を継ぐと「Yes」と彼女――九条カレンは首肯して、
「The Subject:『私たちが、これからもずっとシノと一緒にいるためには、どうしたらいいか』デス」
414 :
◆jOsNS7W.Ovhu
[saga]:2015/02/01(日) 00:41:02.97 ID:sef3L+Kl0
ここまでになります。
今回はおぼろげに頭の中に浮かんでいたアイデアを全部書き出しました。
結果、長さはもとより、展開としてもかなりチグハグなものになってしまったかもしれません……。
色々と触れたい要素はありますが、何よりここまで放置(?)されてきた金髪少女の「逆襲」を書きたいと思っていました。
ここの所、ずっと陽子が主役になっていましたし……それはそれで、とても面白かったのですが。
結局、この三人(アリス、忍、カレン)の関係に答えは出るのでしょうか……。
それでは、また。
二期まであと二ヶ月ちょっと……。
415 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/02/01(日) 02:09:11.58 ID:nMiegLa3o
良い感じに事態が動き出してて
この後の展開も楽しみ
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