290:名無しのパー速民[sage saga]
2019/05/29(水) 22:07:39.84 ID:EqsuTjqp0
【街中――】
【ごく涼しい初夏の夜の匂いがした、ここ数日がおかしなくらいに暑かったのだとして、なんだか冬のように思えてしまうから】
【それでもどこかの飲み屋から帰るようなスーツ姿を見るでもなく見やるに、半袖のシャツを着ているのだから、辛うじて夏であるらしい】
……………………――――――――――――、へびさま?
【――なればひるり吹き抜ける風の温度は剥き出しの腕を撫でつけて酔っぱらいの頭を少しだけ冷やして駆けていく、そんな刹那に】
【長い毛先を乱されながら、唐突に少女が一人振り返るのだろう。――まるで鈴の音のように"りん"とした声、それでも何かの感情に揺らいで、微かな余韻】
あ……、……えと、ごめんなさい。探してる人の声がした、気がしたから……。
【そうして振り向いた彼女は足先すら止めてしまっていた、日曜午後の都心に比べたら十分に空いた道なのだとして、それでもがらんどうの幽霊街には程遠く】
【あるいは誰かが後ろを歩いていたら驚かせてしまうかもしれなくて、――もしかしたらぶつかってしまうかもしれなかった。そうだとして、彼女はまず謝るし】
【どちらにせよ同じたぐいの言葉を吐くのだろう。――急に立ち止まった言い訳一ツ、口元に添えた指先の隙間からかすかに聞こえる、ため息の湿度】
【――少女と言い切るにはいくらも高い背をした少女だった。腰まで届く長い黒髪はお行儀の良い編み込みのハーフアップ、滝より余程凪いだ毛先の温度】
【だからこそ真っ白い肌がずうっとずっと映えていた、――視線に重たげな影を落とす睫毛で雨宿りするよな眼差しは光の加減によって赤と黒を曖昧に移ろって】
【赤いワンピースを着ていた、リボンを編み上げた飾りとしてのコルセットとたっぷりと布地を詰め込んで膨らませたスカートの温度差に、足先の細さが際立ったら】
【もとより少しだけ高めの背丈にうんとかかとの高い靴を合わせていた、――こちらも編み上げのショートブーツ。かかとにひらりリボン飾りをあしらうなら】
【一目見るに十六ほどの少女のようでありながら、――きっとたぶん何か違うのだろうと思わせるようだった。或いは、UTなんて単語から連想して一つお花の名前、思い出すのならば】
【この少女のこと、いくらか分かるのかもしれなくて/けれど分からなくっても何一つ困りはしないのだろうから。きっと、】
…………――うんと高い背の、真っ白い髪の、男の人。……なんだけど……。たぶん……。
【――――――大人びて見せる物憂げさは本人も述べた通り、探し人に関するものなのかもしれなかった。なれば、ふと思いついたように尋ねる声、】
【――自分で探している人だというにごくあいまいな言葉を添えていた、けれど、なにかだましてからかってやろうという色でないのは、きっと、確かで】
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