モバP「終わりと始まり」
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5:名無しNIPPER
2024/09/22(日) 00:14:38.74 ID:j0Rh5Gsc0
 結局、俺の愛したチームは解散が決まってしまった。ストライキも署名活動も、さらなる合併を中止させる事までしか出来なかった。
 2004年9月24日。心模様じみた曇り空と多少の蒸し暑さの中、運良く手に入れたチケットを握りしめた俺は大急ぎで大阪ドームに向かっていた。俺が愛した大阪近鉄バファローズの最期の主催試合が始まるまで、あと1時間。


6:名無しNIPPER
2024/09/22(日) 00:16:07.67 ID:j0Rh5Gsc0
「……デューサー。プロデューサー!」
「ん?ああ……」

 不快にならない程度に脳に響く声で、20年前から現実に引き戻された。机の上に積み上げられていたはずの書類は七割方消えており、目の前にはぷくーっと音を立てんばかりに頬を膨らませた女の子。酒好きの野球アイドルとして俺がプロデュースしている姫川友紀だ。

以下略 AAS



7:名無しNIPPER
2024/09/22(日) 00:16:39.93 ID:j0Rh5Gsc0
「で、何の話やっけ」
「だーかーらー!仕事終わったら一緒に京セラドーム行こうって話じゃん!どんだけ仕事に集中してたのさ」
「京セラ?甲子園やなくて?」 
「うん!」
「時間はあるしええけど……」
以下略 AAS



8:名無しNIPPER
2024/09/22(日) 00:17:07.90 ID:j0Rh5Gsc0
「こないだ宮崎に帰ったらこんな写真を見つけてさ」

 そう言って、友紀は1枚の写真を見せてきた。セピアに染まった随分と見覚えのあるスタンドをバックに、ピースを向ける父親と娘らしき2人。右下には「2004.9.24」と刻まれている。

「……大阪ドームでの近鉄の最終戦の日やな。ユッキも行ってたんか」
以下略 AAS



9:名無しNIPPER
2024/09/22(日) 00:17:43.61 ID:j0Rh5Gsc0
 ペチャクチャと喋りながら、最後の書類にサインする。これで今日の仕事は終わりだ。
 俺はユッキが何をあの日に残してきたのか、全く知らない。でも、その中身をもし知れたのならと思った。パートナーの思い出や秘密を知りたいというのは、すべての男に共通する欲望なのだ。おそらくは女にも。だから。

「ユッキ、準備出来たか?」
「えっもう終わったの!?」
以下略 AAS



10:名無しNIPPER
2024/09/22(日) 00:18:16.24 ID:j0Rh5Gsc0
続きは明日あたりに。


11:名無しNIPPER
2024/09/22(日) 23:34:56.14 ID:j0Rh5Gsc0
 暑い夏の日だった。外遊びから帰ってきたあたしを見つけるなり、お父さんがおもむろに言った。

「友紀、9月に野球観に大阪行くぞ」
「大阪?阪神を倒しにいくの?」
「いいや、今年で無くなる近鉄の試合だ」
以下略 AAS



12:名無しNIPPER
2024/09/22(日) 23:35:37.10 ID:j0Rh5Gsc0
 関西に向かう列車の中で、あたしはお父さんに尋ねた。

「なんで近鉄の試合なんかに行くの?パ・リーグなんだしどうでもいいじゃん!あたしキャッツ見たいのに!」

 お父さんは黙ったままだった。その表情を正確に覚えてはいないけど、どことなく悲しそうだったような気がする。その時の気持ちを理解するには、あたしはあまりにも幼稚だった。どんなチームにも熱狂的なファンがいて、「どうでもいい」チームなんてどこにもないことも、まだ知らなかった。


13:名無しNIPPER
2024/09/22(日) 23:36:12.53 ID:j0Rh5Gsc0
 シーズン終盤にも関わらず、席はそれほど埋まっていなかった。今年は優勝争いに絡むこともなかったし、毎年引退試合を組んでいるホーム最終戦はもう少し後だからだろうか。

「プロデューサー、こっちこっち!」
「ユッキ……おま、どこにそんな元気あんねん……」

以下略 AAS



14:名無しNIPPER
2024/09/22(日) 23:36:47.96 ID:j0Rh5Gsc0
「かんぱーい!」
「乾杯!」

 喉を駆け抜けたアルコールが体に染み渡っていく感覚。酒豪でも酒好きでも無いが、確かにこの瞬間は好きだ。
 見渡すと、ぼちぼち埋まり始めたスタントが目に入った。グラウンドには守備練習をする、バファローズのロゴを背負った選手たち。時折聞こえる売り子の声。電光掲示板を流れるCM。遠目から見れば、20年前と何も変わっていない光景。それでもー
以下略 AAS



15:名無しNIPPER
2024/09/23(月) 23:53:06.58 ID:uOlWpvdA0
 この日のスタンドは満員だった。普段は閉まっているバックスクリーンの真下の席まで開放するという大盤振る舞いをするほどだった。しかしー

「……ほんまに近鉄ファンやった人、何人おるんやろ」

 ーものの見事に一見ばかりだった。何しろ近くの席から「ブライアントは見られるかな」なんて声が聞こえてくる始末である。10年前に引退しとるわボケ。それだけ近鉄というチームに、誰も興味が無かったということなんだろう。
以下略 AAS



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