5:名無しNIPPER[sage saga]
2024/09/07(土) 22:47:16.60 ID:49voo3/L0
ハンガーなんとか、と言っていた説明はよく覚えてないけれど、イライラすることがあったら6秒数えてみるといいという姉の言葉と、優しく頭を撫でてくれたあの手つきが、ふと呼び起こされた。
(いち、にー、さん……)
立ち止まって、目を閉じて、昨日寝る前に繰り返していたように6秒を数え始める櫻子。
向日葵も同じように足を止め、突然じっと黙りこくってしまった櫻子のかつてない挙動に、思わず言葉を詰まらせた。
(しー、ごー、ろく)
ゆっくり目を開けると、何事かと驚いて怪訝そうな表情を浮かべている向日葵の顔が視界に入った。
「さ、櫻子……?」
「……」
自分の胸に手を当ててみる。今の今まで募っていた気がするイライラ感は、あまり感じられなくなっていた。
朝のそよ風が櫻子の頬を撫でつける。すでに上がり始めている気温に熱されたその空気は、冬のような静謐さこそないものの、夏の香りを充分に含んでおり、櫻子の心を妙に落ち着かせてくれた。
昨日は確かに何もしていない。本当は向日葵の言うとおり、宿題のひとつにでも手を付けるべきだった。大量の宿題を出されてパンパンになっているカバンの重みを肩に感じる。中学に上がったら少しは宿題が減ってくれるかと思っていたのに、むしろ小学生の頃よりもたくさん増えてしまって、さすがに今年は夏休み最終日の土下座作戦をしても間に合わないかもしれないのではと肝を冷やしていたのを思い出した。
――悪いのは、自分だ。
「ちょ、ちょっと櫻子っ」
「……向日葵、ごめん」
「え……?」
「向日葵の言う通り、何もしてなかった。怒られて、落ち込んで、ずっとゴロゴロしてた」
「……」
「ごめん」
櫻子は少しだけ頭を下げ、心配そうに近づいた向日葵の足元に視線を落としながら、今胸の中にある素直な謝罪の気持ちを淡々と伝えた。
驚いたのは向日葵の方だった。突然立ち止まり、黙りこくり、自分以上に激しく爆発するのかと身構えていたら、ストレートに謝罪されてしまった。こんな櫻子を見るのは初めてだった。
まっすぐな目で向日葵を見る櫻子。激しく燃え上がってしまったぶん、自分の方がその温度感に戻ることができず、向日葵は当惑した。
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