3:名無しNIPPER[sage saga]
2024/09/07(土) 22:41:44.35 ID:49voo3/L0
「そうだ櫻子、アンガーマネジメントって言葉知ってる?」
撫子はふと、思い出したように櫻子にそう問いかけた。ただでさえ横文字に弱い妹は、頭に大きなハテナを浮かべて首をかしげる。
「ハンガー……なに?」
「アンガーマネジメント」
「なにそれ、必殺技?」
「ちがう。簡単に言うと、自分の怒りをコントロールすることなの。たとえば何かイラっとしたことがあったら、じっと我慢して6秒数えてみるといいんだって。そうするだけで怒りのピークが過ぎ去って、気持ちが落ち着いて冷静になれるんだってさ。今の櫻子に必要なのはそれかもよ」
「怒ってるときに6秒も数えてらんないでしょ! ねーちゃんはできるの?」
「できるよ。まあ私はもともとイライラすること自体滅多にないけど」
「ペチャパイ!」
瞬間、撫子は自分が履いてきたスリッパをリフティングの要領で自分の前にふっと浮かべ、それを手に取りつつそのまま櫻子の頭をスパンと叩いた。その間、わずか一秒足らず。
「痛った!! ちょっと、やってないじゃん! 6秒は!?」
「今のは櫻子が100%悪いから、私が怒りを落ち着ける必要がないの」
「なにそれ!!」
スリッパを履き直しつつベッドから立つ撫子。ひりつく頭を押さえてベッドに横になった妹の様子を見下ろしつつ、この分なら大丈夫だろうと安心し、ドアへ向かう。
「でも櫻子は、なるべくその6秒ルールを意識してみてもいいんじゃない? あんたとひま子のケンカなんて、あんたが悪いことの方がほとんどなんだから」
「なんだとー!?」
「ほら言ったそばから怒ってるよ。数えて数えて。いーち、にーい」
「うっさい! やってられるか!」
ベッドの上に敷かれていたストールを無造作に掴んで投げつける櫻子と、それをひらりと避けるように部屋を出ていった撫子。
櫻子はベッドにぼすんと突っ伏し、ばかばかしいと思いつつも、試しに目を閉じて6秒を数えてみた。
いち、にー、さん、しー、ごー、ろく。
(……長っ)
数えてみるとその長さに驚いた。ただでさえ長いのに、怒りがピークに達しようというときにじっと数える6秒はあまりにも長すぎるだろう。こんなことは絶対できるわけない。
――きっとこれを考えた人は、怒ったことなんて全然ない、池田先輩みたいにふわふわした人なんだ。そういう人でもなければきっとできないはずだ。そう思いながらも、櫻子は妙に6秒ルールのことが気になって、その後も6秒間を数える練習を胸の中で繰り返し、そしてそのままひつじを数える要領で眠りに落ちてしまった。
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