1: ◆CItYBDS.l2[saga]
2023/08/15(火) 00:28:33.47 ID:CdvupbE30
齢30にして、恋人すらいない。
数少ない友人たちは、俺という存在を忘れたかのか連絡の一つも寄越さない。
安物のソファーに根を張り、乾いた豆をつまみながら白球を追う甲子園球児を眺める日々。
冷房を付けるほどの暑さではないと自分に言い聞かせ、扇風機の風にあたるも額には汗がにじんでいる。
部屋中の窓を開けているせいで、ワシワシと健気になくクマゼミの声がやたらとうるさい。
先日の台風のせいで仕事もできず、俺は世間様よりだいぶ早くから盆休みを堪能していた。
しかし、長い退屈は憂鬱を作る。地元高校が初戦で敗退するのを見た時、とうとう俺の鬱屈した心が限界に達した。
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2:名無しNIPPER[saga]
2023/08/15(火) 00:29:37.78 ID:CdvupbE30
こうなっては最早致し方ない。
日もまだ明るいうちから酒を空け、健康診断くそくらえと油っこい飯を喰らうばかりだ。
だが、暴飲暴食の果てに膨れた腹ともたれた胃に苦しむのは経験上明らかで。
自暴自棄になることすら躊躇してしまう自分に、年相応の老いを感じてしまう。
3:名無しNIPPER[saga]
2023/08/15(火) 00:30:21.66 ID:CdvupbE30
ふと、スマホを手に取り「ダム」で調べるみる。すると、我が地元には九州最大のダムがあるというではないか。
部屋で暗雲低迷としているよりは、幾分か有意義な休日となるかもしれん。
「ダムを観に行こう」
4:名無しNIPPER[saga]
2023/08/15(火) 00:31:00.41 ID:CdvupbE30
? ?? ??
真夏のツーリングというものは最悪なもので。
全身に風を受けるのは気持ちのいいものなのだが、信号に捕まるごとに照りつける日差しとエンジンから沸き上がってくる熱に両面から焼かれるのはたまったものではない。
走れば天国、止まれば地獄。それが真夏のツーリングだ。
5:名無しNIPPER[saga]
2023/08/15(火) 00:31:33.53 ID:CdvupbE30
だがしかし、久しく街乗りライダーと化していた俺は、自身のバイクが高速巡行に向かないことをすっかり忘れていた。
時速60キロを超えたごろあたりから、セローのエンジンは力強く震えだし、俺の尻を小刻みに蹴りあげ始めたのだ。
悲鳴をあげる尻に、たまらず座る位置を変えてみたり立ち乗りをかましたりしたが然したる効果はなかった。
俺は、思い付きで部屋を出たことを後悔し始めていた。
6:名無しNIPPER[saga]
2023/08/15(火) 00:32:19.74 ID:CdvupbE30
濡れた道路に足元を取られぬよう速度を落としたのがなお良かった。
セローは俺の尻を蹴りあげるのをやめ、今はリズミカルにエンジン音を奏でてくれている。
ほどなくして、目的地である一ツ瀬ダムにたどり着いた。
7:名無しNIPPER[saga]
2023/08/15(火) 00:32:51.31 ID:CdvupbE30
九州最大のアーチ式ダム「一ツ瀬ダム」。
アーチ式というのがどういう構造の物なのかは、よく知らない。
それにアーチ式で無ければ九州最大では無いのでは? という素朴な疑念も残る。
8:名無しNIPPER[saga]
2023/08/15(火) 00:33:20.62 ID:CdvupbE30
? ?? ?
道を折り返し、帰路に就く。
痛む尻には、たとえ安物のソファーであっても恋しく思えた。
9:名無しNIPPER[saga]
2023/08/15(火) 00:33:54.83 ID:CdvupbE30
ビールを3本買ったのは、兄貴の分と俺の分、そして祖父の分だ。
兄貴と祖父は、同じところにいる。
砂利の敷かれた駐車場にバイクを止め、俺は自身の名字が刻まれた墓に向かった。
10:名無しNIPPER[saga]
2023/08/15(火) 00:34:24.59 ID:CdvupbE30
思い返せば、俺の暇つぶしは全部兄貴譲りのものばかりだ。
バイクも、映画や漫画といったオタク趣味も、仕事だってそうだ。
兄貴は、俺の知らない未知のジャンルを開拓してきては、俺に教え込む伝道師のような男だった。
11:名無しNIPPER[saga]
2023/08/15(火) 00:34:56.94 ID:CdvupbE30
?? λ.... ??
アパートに帰りつく。
ほんの数時間空けただけだというのに、既に部屋には熱気が立ち込めていた。
12:名無しNIPPER[saga]
2023/08/15(火) 00:35:34.49 ID:CdvupbE30
「みんな、ダムはいいぞ」
おわり
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