110:名無しNIPPER[saga]
2023/09/01(金) 22:08:00.37 ID:YWmeO82zo
「もう、限界みたいだ」
少し息切れを起こしながら、不動は椎名のもとへ向かって歩く。彼女の目前まで着いたとき、足が絡んで転んでしまう。
「痛ててて…」
ふと目を開けたとき、椎名の顔が目の前にあった。転んだ拍子で彼女を押し倒す形になってしまったようだ。
花のように甘く良い香り、大きなくりっとした瞳にきれいな肌、細やかな息遣い、全てが不動の感覚を刺激する。
「え…と…」
固まる不動を暫く見つめたあと、椎名は不意にキスをして、笑顔で彼を見つめる。唇に少し触れるだけの軽いものではあったが、不動をドギマギさせるには十分だった。
不動は慌てて椎名の上から退けると、心を落ち着けるために窓際へ行き、外の風景を眺めた。不動ももっと椎名と触れ合いたいとは思っていたが、なんせこの家には二人の家族まで居るのだ。あまり下手なことはできない。
椎名は起き上がって不動の横に立つと、同じく外の風景を眺めた。小高い丘にあるこの家からは、街の様子がそれなりによく見える。外は夕焼けで真っ赤に照らされていた。
「みんな、どうしてるかなぁ」
「お別れを言う時間もなかったからな」
「うん…」
「けど、新しい学校のみんなもいい奴ばっかだろ?」
「そうだね…。不動くんを見てもあまり怖がらないし」
椎名はクスリと笑いながら、窓にもたれかかる。
「それにやっぱり、今が安全なのも確かだと思う」
「なんでだ?」
「だって、多分だけど学校にも護衛の人がいるみたいだから」
「そうなのか?」
「うん。化学の先生は魔力の感じからして魔法使いで、私達のそばでよく見かけるもん。他にも何人が居るみたいだし」
「…全然気が付かなかった。というかあの先生、普通に教え方もわかりやすいけど、教師は本職なのか…?」
「さあ?…安全だけど……でもやっぱり、寂しいよ」
椎名は外の景色を眺めているが、実際にはその先にあるはずの元いた学校、知り合い、風景を思い描いているのだろう。
「なら、また会いに行こう。このゴタゴタが全部片付いたら」
「…うん!」
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