ソロモン・グランディに憧れて
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96:名無しNIPPER[saga]
2023/06/24(土) 16:36:03.56 ID:r4k1/UK80
 まさか、自分自身の死について語ることができる日が来るとは思いもしなかった。肉体から精神が解き放たれて身軽になったおかげか、年の割に体の調子はすこぶる良い。いや、この場合は体の調子というより魂の調子と言った方が良いのかもしれない。


97:名無しNIPPER[saga]
2023/06/24(土) 16:37:51.31 ID:r4k1/UK80
 ソロモングランディで言うところの、「木曜」と「金曜」、すなわち「病気」と「病気の悪化」は僕には訪れなかった。そりゃあ、風邪やインフルエンザに罹ったことはあるけど、その程度なら経験したことの無い人の方が少ないはずだ。若い時に入った医療保険の保険料を数えれば、良いバイクの1台ぐらいは容易く買えたかもしれない。保険会社にしてみれば、さぞ良いお客様だったことだろう。


98:名無しNIPPER[saga]
2023/06/24(土) 16:39:03.74 ID:r4k1/UK80
 しかし、病気をしないというのも考え物だ。だって僕は、つい昨日まで自分の足で歩けていたし、何なら明日は河川敷をジョギングでもしようかと考えていたほどだ。それが、寝て起きたらもう死んでいたから困ったものだ。死の前兆が無かったせいで、悔いをたくさん残してしまった。死ぬとわかっていれば、とっておきの羊羹だって食べておいたのに。


99:名無しNIPPER[saga]
2023/06/24(土) 16:39:42.22 ID:r4k1/UK80
 ただ、年相応に死ぬ準備だけは済ませておいて正解だった。遺影は毎年取り直しておいたし、遺産の分け方についても家族と相談を済ませてある。残された家族は、きっとスムーズに事を進めてくれていることだろう。


100:名無しNIPPER[saga]
2023/06/24(土) 16:40:54.40 ID:r4k1/UK80
 絶賛開催中の僕の通夜には、親族が山程集まって来た。しかし、長く生きていればそりゃあ親族だって増えるものさ。僕の子供たちが孫を生み、孫が曾孫を生み、曾孫が玄孫を生む。そうやって鼠算式に家族が増えていく。そういう年齢になるまで、僕は生きてきた。


101:名無しNIPPER[saga]
2023/06/24(土) 16:41:48.51 ID:r4k1/UK80
 それに、僕には三人も妻がいたのだ。ソロモン・グランディに倣って、子供に関しては特に触れることもなくやってきたが、実のところ実子が9人もいる。一人目の妻と2人、二人目と2人、最後が5人。内訳でいうと2:2:5。


102:名無しNIPPER[saga]
2023/06/24(土) 16:42:39.24 ID:r4k1/UK80
 前妻の子たちとは、離婚後も良好な関係を築けていた。それも、事あるごとにお小遣いをかかさなかったおかげだろう。彼らもよく、我が家に遊びに来ていた。腹違いの兄弟たちも、その特殊な関係性を気にすることなく仲良く過ごしていたものだ。一方で、年末からお正月にかけては僕も大分泣かされたものだ。世代をまたぐごとに鼠算式に増えていくクリスマスプレゼントとお年玉。年始は、すっからかんで初詣に行き、妻にお賽銭を無心するのが恒例の行事となっていた。


103:名無しNIPPER[saga]
2023/06/24(土) 16:43:16.50 ID:r4k1/UK80
 正直なところ、子供たちの養育や教育には莫大な金がかかった。本来の僕の稼ぎでは、到底はじき出せない額だ。だが僕には、かつてアメリカ大陸で熱狂的支持を受けたとあるスポーツ選手から頂戴した慰謝料があった。金の切れ目が縁の切れ目というが、家族の絆だって例外では無かろう。そのことを思えば、僕が子供たちとの絆を失わずに済んだのも彼のおかげなのだ。


104:名無しNIPPER[saga]
2023/06/24(土) 16:43:49.51 ID:r4k1/UK80
 ちなみに、その資金源は未だ枯れることなく残っており、僕の遺産として次の世代に受け継がれていくことになっている。


105:名無しNIPPER[saga]
2023/06/24(土) 16:44:32.35 ID:r4k1/UK80
 人の葬式だと眠くなる、「南無阿弥陀仏」のフレーズも自分のために念じられてると思えば幾分か心地よく聞こえるものだ。僕の通夜は、もちろんのこと浄土真宗の菩提寺で行われていた。


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