27:名無しNIPPER[saga]
2023/05/03(水) 07:43:42.93 ID:JzIv0dpy0
先輩、もとい妻は確固たる自分を持っていて、頭もスタイルも良くて、まるで漫画に出てくるようなデキる女であった。対する僕は、平凡この上ない見た目で凡庸な頭脳で、成人男性の平均に沿ったかのような体型をしているのだが、何故だか先輩の目には僕が好ましく映ったようだ。
28:名無しNIPPER[saga]
2023/05/03(水) 07:44:13.67 ID:JzIv0dpy0
辛うじて卒論を書きあげ大学を卒業した僕は、そこそこの会社に就職した。そうして、仕事にも慣れてきた社会人4年目、妻からの結婚願望の乗った鋭い視線にも後押しされ、僕は一世一代のプロポーズを敢行し今に至る。
29:名無しNIPPER[saga]
2023/05/03(水) 07:44:44.43 ID:JzIv0dpy0
ソロモン・グランディの歌で言えば、結婚は水曜日。一生のうちの前半を終えたところ。あとは、病気になり病気が悪化し、死んで墓に入って一巻の終わり。でも僕は、それでいいと思ってるし、むしろそうあって欲しいとも願っている。平凡で穏やかな人生を楽し気に過ごし、そして静かに人生を終えるのだ。
30:名無しNIPPER[saga]
2023/05/03(水) 07:45:16.80 ID:JzIv0dpy0
僕達は、結婚式は行わないことにした。それは、僕の妻が激務のあまり結婚式や披露宴に時間を割く余裕が無かったからだ。妻は、平凡な僕とは異なり超有名企業に入社し、僅か5年でその実力を示し、社内に知らぬ人はいないというほどのスーパーOLとなっていた。改めて何で、僕なんかと結婚したんだろうと思うがその心中は妻にしかわかるまい。
31:名無しNIPPER[saga]
2023/05/03(水) 07:45:47.78 ID:JzIv0dpy0
そういうわけで、結婚式を行わず近しい親族だけを集めて宴席を設けることになったのだが。ならばせめて良いお店でと、考えを巡らす僕を止めたのは、やはり妻であった。妻は、互いに高い家柄というわけでもないのだからお金をかけることもあるまいと言うのだ。まあ、妻からそういう意見がでるのであればと、宴席は僕の実家で執り行うこととなった。僕の実家は、決して裕福というわけでは無いが曾祖父の頃に建てられた古い平屋建てで、和室の襖を外せば、宴席を設けるに十分な広さがある。
32:名無しNIPPER[saga]
2023/05/03(水) 07:46:18.55 ID:JzIv0dpy0
男の意地もあり、料理だけは良いものを準備した。加えて妻含め、両家の女性陣が台所に立つことも無いように準備から片づけまでも業者に依頼しておいた。その甲斐もあってか、幸いなことに両家共に酒が進み、和やかに親交を温めることができている。我が父に至っては、義父と与太話に花咲かせ馬鹿笑いをあげている。
33:名無しNIPPER[saga]
2023/05/03(水) 07:46:50.48 ID:JzIv0dpy0
一方の母も、久方ぶりの宴席で酒に酔ったのか覚束ない足取りで本棚からラベルに僕の名前が書かれているアルバムを取り出してきて親戚に披露し始めた。後ろからそっと覗き込むと、母が開いたページは七五三の時のものだった。袴姿の僕が、右手に千歳飴を握って左手をピースの形にして突き出している。そして、その隣には幼い妹を抱えた母が寄り添っていた。
この宴席に妹は来ていない。
34:名無しNIPPER[saga]
2023/05/03(水) 07:47:21.04 ID:JzIv0dpy0
14歳の春、僕は中学三年生にもなって未だ中二病を脱しきれずにいた。漫画の主人公にあこがれ、ビルの隙間を飛び回り、悪党相手に大立ち回りを演じるといった非現実的な妄想に耽っていた。それは、代わり映えしない日常に飽きていたからかもしれない。
35:名無しNIPPER[saga]
2023/05/03(水) 07:47:52.14 ID:JzIv0dpy0
僕は、ヒーローに必要なのは特別な力や血統だけないことを知っていた。彼らは、その物語の中で強者ではあるものの、その強さが圧倒的、絶対的であるかと問われれば疑問符がつく。常に敗北と隣り合わせになりながら、数多の格上ヴィランと戦い抜いていく。どうして、そんなことができるのか。それは、彼らの根底に信念、すなわちオリジンがあるからだ。
36:名無しNIPPER[saga]
2023/05/03(水) 07:48:22.51 ID:JzIv0dpy0
ピーターパーカーにおけるベンおじさんの教え、エルリック兄弟の人体錬成、フジキドケンジの家族との別離。彼らから特異な能力を削り取った果てに残るもの。悲しき出来事を経て得た、強い信念。それこそが彼らの原動力なのだ。だからこそ彼らは強く、僕達の目に魅力的に映る。
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