8:吹き矢[sage saga]
2023/04/07(金) 15:13:14.30 ID:laNpeqI/0
朝起き、ホテルの備えテレビを付けると、関東で事故があったとニュースがあった。雨でスリップした車両が、横断歩道で信号を待つ人々に突っ込んだという悲惨な事故だった。
ざわ。胸が萎んだ。
嫌な予感がした。
(ここ、昨日にちかが言ってたスーパーの近くだよな)
何度も彼女に連れられて行ったから、道路の感じをよく覚えていた。
(まさか、そんなはずが、あるわけ、ないだろ……)
無意識のうちに手は電話を握っていた。
RRR RRR RRR
(出てくれ)
RRR RRR RRR
(朝早くうるさいて怒鳴ってくれ)
RRR RRR RRR
(俺の思い過ごしだと、心配性なだけだと、そうだろ。にちか!)
数十コールと耳にしたが、結局にちかは出なかった。
(そうだ、そうだ! 落として壊れたんだった。だから出ないんだ。きっと、そうだ)
手が震えた。呼吸が浅くなる。このままどうか、思い過ごしだと突きつけてくれ。
次に電話をかけていた相手は社長だった。
社長はすぐに電話口に出た。
『ああ……君か』
その声は憔悴と気遣いの入り混じったものだった。
瞬間、歪む。ぐらりと思考が揺さぶられ、もう社長の声は遠い方へと飛んでいってしまっていた。
事故の被害者の一人に、にちかがいる。
それを直感した。
「に、ちかは……」絞り出した声はあまりにも小さく、か細い。
『今はまだ、何とも言えない状況だ。彼女には、はづきが着いている。お前は何も心配せず——』「社長!」
社長の淡々とした説明と到底飲み込めない指示に、静止をかけた。荒々しい呼吸が向こうにも伝わったのか、社長は一呼吸おいた。
『……。はづき自らの頼みだ。お前が仕事を放り捨てず、気負いせず、無事やり遂げる。そのために帰ってくるまでは黙っていて欲しい、と。……私も同じ考えだ。本当なら言うつもりはなかった。だが……ニュースを見てしまったのなら仕方がない、からな。——非道外道と言ってもらって構わない。お前はプロデューサーだ、この283のアイドルたちの。そうだろう』
「…………」
『やるべきことをやるのだ。それまではこっちの事は全て任せろ。以上だ』
通話終了。向こうから切られてしまった。
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