3:名無しNIPPER[sage saga]
2023/02/21(火) 20:26:22.64 ID:G7tB3fi30
しばらくすると、店員の足音が近づいてきて、先ほど頼んだ飲み物がコトリと運ばれた。ひとりは差し伸べられた救いの手に縋るようにそれを受け取り、口をつけるようにして小さく飲んだ。
これは「何もできない時間」を、飲み物を飲むという「何かしている時間」に変えてくれる、今日という日の生命線。だからうかつに飲み干してはいけない。
ほっと安堵したような気持ちでカップの中の飲み物をくるくる回していると、リョウがノートではなくこちらを見つめていることに気づいた。
途端に小さく飛び上がって目を背け、「なっ、なんでしょう」と背筋を立てるひとり。
リョウはもう一度ノートに目を落としながら、ぽつりと呟いた。
「……なんか、雰囲気変わった」
その瞬間、冷たいものが胸に突き刺さったような気がした。
(え……)
表情こそはっきりと変わったわけではないが、リョウの声色は明らかに、ひとりの歌詞に違和感を覚えているようだった。
「こんなのだったっけ、ぼっちって……」
(うそ……)
視線をノートに向けたまま、頬杖をついてリョウがそう呟く。
声のボリュームこそ小さかったものの、ひとりの耳にもはっきりとその言葉は届いた。
とたんに胸がばくばくと脈打つ。
おなかの奥がきゅっと縮こまるような嫌な緊張が、二人の間に立ち込めていた。
「ぼっちは、今回のこれで満足してる?」
「あっはい、ええと……一生懸命考えたんですけど……」
「……」
「……あ、あはは……だめ、ですかね……」
口元がひくついてしまい、かけらほどの愛想笑いもできない。
ひとりはまた背中を丸めてうつむき、カップの波紋に目を落とした。
だめだった。
だめだったんだ。
その事実が、沈黙と共に後頭部に重くのしかかっていくようだった。
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