7:名無しNIPPER[sage saga]
2023/01/07(土) 14:00:36.28 ID:FRtckmfc0
「お父さんは、今夜はどうしなさいって?」
「……だ、誰かの家に……泊めてもらえばって……」
とても申し訳なさそうに、目を伏せ気味にぽつぽつと話すひとり。頼るあてを見つけられず、こんな極寒の中で夜を明かせる場はないかとさまよっていたのだろうか。事実だとしてもそんな可能性は考えたくもないが、それより何より、こんなときでさえ頼ってもらうことができない自分に、郁代は歯噛みした。
「どうして頼ってくれないの?」「言ってよ、そんなことくらい!」……思わず口をついて出そうになる言葉は、どれもひとりの心を傷つけてしまいそうだ。
今のひとりに、必要な言葉。
「……じゃあ、私の家に来て?」
「!」
「急に友達が泊まるくらい、うちは全然大丈夫だから。今夜は私の家に泊まって、明日は一緒に学校いきましょ?」
「い、いいんですかぁ……!」
いいに決まってるじゃない、という言葉を飲み込み、郁代は寒さで赤くなっているひとりの頬をもう一度ハンカチでぽんと撫でた。
ひとりは嬉しさのあまり泣きそうになったが……それと同時に、急激な自己嫌悪に陥った。
自分がこう言えば、郁代なら助けてくれるはずだと……本当は心のどこかで思っていたのだ。
だったらなぜ、最初からメッセージを素直に送れなかったのだろう。
「泊めてほしい」と率直に言えず、自分の身の上を説明して相手から「泊まりにくれば」という言葉を引き出させるような真似をしてしまう自分の性格が、つくづく嫌になった。
身体をちぢこめてうつむき、いつもの数倍は小さく見えるひとりの手を、郁代はぱっと取って両手で包んだ。
「きゃっ、冷たい……! ひとりちゃん、なんでこんなに冷たいの!?」
「えっ、な、なんででしょう……」
「こうしちゃいられないわ! すぐに私の家に帰りましょ! 今はとにかく温まらなきゃ!」
「は、はひっ……」
握った手をつないだまま折り畳み傘を開き、ひとりを引き寄せて中に入れ、一緒に歩き出す。
雨は次第に勢いを増し、さあさあと傘を打ちつけた。その音を聞きながら、ひとりはまたも自己嫌悪に陥っていた。
どうして自分は、すぐに「ありがとう」と言えないのだろう。
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