547: ◆tdNJrUZxQg[saga]
2023/01/03(火) 12:18:26.53 ID:Sh64zN700
私が無言で慰霊碑を後にすると──彼方も特に何も言わずに、孤児院へと戻っていった。それが毎日。
私は特別進んで彼方とコミュニケーションを取っていたわけではなかったけど……この時間は何故か、彼方と二人で過ごす時間だった。
私が慰霊碑を訪ねると、本当に毎日、律義なことに……気付けば彼方が隣に居る。さすがに気になって、ある日──
果林「…………ねぇ、彼方」
私は彼方に声を掛けてみた。
彼方「ん〜?」
「メェ〜〜」
果林「院長先生に何か聞いたの?」
さすがに院長先生は、私の島のことは知っているけど……何も知らない彼方が、こうして手を合わせてくれる理由がよくわからなかった。
だから私は、てっきり院長先生が何かを言ったのかと思っていたんだけど……。
彼方「うぅん、特に何か聞いたわけじゃないよ〜? まあ……毎日手を合わせてるのを見たら……なんとなく、わかるし……」
「メェ〜〜」
果林「……まあ、言われてみればそれもそうね……」
孤児院に居る人間が毎日欠かさず手を合わせている石を見たら……なんとなく、わかるか。
果林「……見ず知らずの人たちの慰霊碑に、毎日手を合わせに来るのは、大変じゃない?」
彼方「うーん……それは特に考えたことなかったな〜。もしかして、迷惑だった?」
「メェ〜〜」
果林「迷惑なんてことはないけど……不思議だと思ったから」
彼方「彼方ちゃんは関係ない人なのに、どうしてこんなことしてるんだろうってこと?」
果林「まあ……そんな感じ」
彼方「う〜ん……それは……果林ちゃんがいっつも一人で行動したがるからかな」
果林「……どういうこと?」
彼方「果林ちゃんが……新しい場所でずっと一人だったら……心配しちゃうかなって思って……」
そう言いながら、彼方は慰霊碑を見つめる。
果林「彼方……」
彼方「あ、もちろんみんなで行動しろって意味じゃないよ〜? 一人が好きな人もいるからね〜。だから、こうしてご家族に報告するときだけでも……彼方ちゃんが隣にいるのを見れば、安心してくれるかなって……」
それは彼方なりの優しさだった。……見ず知らずの私の家族が、今の私を見て心配しないようにと……。
果林「……ありがとう……。……私の家族もきっと……安心してると思うわ……」
彼方「ならよかった〜。じゃ、戻ろっか〜」
私がお礼を言うと、彼方はニコっと笑う。優しい笑顔だった。
果林「…………聞かないの?」
彼方「ん〜果林ちゃんが言いたいなら」
彼方は不思議な子だった。
寄り添っているように見えて、自分からは踏み込んでこない。
それは彼女が人を優しく慮っているからこそ出来ることで……見ず知らずの私を家族として扱ってくれているからに他ならなかった。
だからだろうか……私を家族と思ってくれる人にくらいは……言ってもいいのかな、と……。
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