438: ◆tdNJrUZxQg[saga]
2022/12/30(金) 14:41:41.17 ID:loIPccok0
彼方「…………そうなんだ」
彼方母「うん。……もう、全身が瘴気に侵されちゃってて……ダメみたい。落日のときに……たくさん瘴気を吸いすぎちゃったみたいで……それで、身体のあちこちがもうボロボロなんだって」
彼方「…………あと、どれくらい?」
彼方母「1ヶ月持てば……良い方みたい」
彼方「……そっか」
彼方母「あんまり驚かないんだね」
彼方「……お母さんが突然倒れたときから……なんとなく覚悟してたから」
彼方母「そっか……。せっかく、お父さんが身体張って助けてくれたのにね……」
彼方「……そうだね……はい、あーん」
「メェ〜」
彼方「だから、ウールーの分は後でだってば〜……はい、お母さん、あーん」
彼方母「あーん」
彼方「おいしい?」
彼方母「うん、おいしい♪ 出汁がよく効いてて……」
彼方「……実はね〜」
彼方母「んー?」
彼方「今日の卵焼き、本当は甘いやつなんだ〜……」
彼方母「…………そっか」
彼方「……やっぱり……もう、味……わかんないんだね」
彼方母「あはは……やっぱ、バレちゃってたか」
彼方「うん。実は……結構前から、なんとなく……」
彼方母「そっか……」
ずっと私のご飯をおいしいおいしいと言って食べてくれていたから……信じたくはなかったけど……。
もう……味覚も感じられないくらいに……身体が壊れかけている……。きっと味覚だけじゃない……あちこちが、もう……。
そのとき──お母さんがわたしの頭を抱いて、自らの胸に抱き寄せる。
彼方母「……あなたたちを残して先に逝っちゃうけど……ごめんね」
彼方「うぅん、いいよ……悲しいけど……お母さんがお母さんでいてくれて……わたしはすっごく幸せだったから」
彼方母「ありがとう……。……かなちゃんは強いね……」
彼方「……お姉ちゃんだからね〜」
彼方母「……そっか。はるちゃんのこと……よろしくね……」
彼方「任せて〜。遥ちゃんのことは、わたしが何が何でも守ってみせるから〜」
彼方母「ふふ、頼もしい♪」
彼方「うん。……だって、お母さんの子だもん。頼もしくて当然だよ」
彼方母「そっか。……かなちゃんの優しさで……たくさんの人を、たくさんのポケモンを……守ってくれたら……お母さん嬉しいな」
彼方「うん」
ただ、お母さんが優しくわたしの頭を撫でてくれる。そんな静かな病室の中で、
「メェ〜〜」
事情がわかっているのかわかっていないのか……ウールーの気の抜ける鳴き声が昼下がりの穏やかな病室の中で、木霊するのだった。
──そして、この日からちょうど1ヶ月後に……お母さんは静かに息を引き取った。
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