281: ◆tdNJrUZxQg[saga]
2022/12/25(日) 10:25:50.04 ID:PfMOWZim0
侑「ありがとうございます……。……ごめんなさい……迷惑掛けて……」
ヨハネ「いいのよ。貴方も私の研究所から旅立った、可愛いトレーナーの一人なんだから」
侑「……ありがとうございます」
私は本来、ヨハネ博士のもとから旅立ったトレーナーじゃないけど……こうして言葉にして、我が子のように優しくしてくれるヨハネ博士と話していると、なんだか胸が温かくなる。
ヨハネ博士は……自分が送り出したトレーナーの私たちを……本当に大切にしてくれているんだ。
だからこそ……私は申し訳なかった。博士には……もっともっと、大切な大切な……最初のトレーナーがいるから。
侑「ヨハネ博士……」
善子「ん?」
侑「……せつ菜ちゃん──菜々ちゃんのこと……なにもできなくて……ごめんなさい……」
善子「……」
侑「……私の言葉……全然、届かなくて……。……私……」
善子「貴方のせいじゃないわ」
そう言って、ヨハネ博士は私の肩を片腕で抱くようにして、引き寄せる。
善子「……ごめんね。私がローズでの会議のとき、あんな態度取ったから……気にしちゃうわよね」
侑「……そ、そういうわけじゃ……」
善子「……。……私ね、憧れの人が二人いるの」
侑「……?」
ヨハネ博士は突然そう話を切り出す。
善子「一人は……千歌。……千歌は私にとって、ライバルで仲間で友達で……。ポケモンのことが大好きで、自分のポケモンのことを誰よりも信じていて、だから誰よりも強いトレーナー」
侑「……」
善子「もう一人は……マリー。私の師匠のようなもので……人遣いは荒いけど……誰よりも人とポケモンの未来を考えていて、そのために研究を続けている姿が……すごくかっこよくて、憧れたの……」
ヨハネ博士は、空に浮かぶ月を見上げながら言う。
善子「だから、私も博士になって……人とポケモンのために何かがしたいって思ったの。……私も人とポケモンの架け橋になりたくて」
侑「それが、ヨハネ博士が……博士になった理由なんですね……」
善子「そういうこと。人とポケモンはね、長い歴史の中で手を取り合って、一緒に戦って成長することで繁栄してきた。それは今も続いてる。千歌が、マリーが、それを私の目の前でたくさん見せてくれた。……だから、私も人とポケモンを巡り合わせられる人になりたいなって思ったの。そうしたら、もっと素敵な未来が待ってるんじゃないかって」
侑「……」
善子「でも、現実はなかなかうまくいかなくて……。……菜々には悲しい思いをさせちゃった。きっと……私のやったことも、菜々を歪ませた一つの原因なの」
侑「そ、それは違います……!」
善子「うぅん、違わないわ。あのとき、私と知り合わなければ……菜々はあんな風にならなかったと思うわ」
侑「ヨハネ博士……」
善子「……ただね、菜々と知り合わなければよかったなんて思ったことは一度だってない。……むしろ、私が後悔しているのは──あのとき、あの子の手をちゃんと握ってあげられなかったこと。手を……離してしまったこと」
その言葉と一緒に──ぐっと……私を抱き寄せる、ヨハネ博士の腕に力が籠もったのがわかった。
善子「……だから、私はもう間違えない……。あの子が道を踏み外してしまったんだとしても、私は今度こそ、あの子の手を掴む。掴んで……今度は離さない」
ヨハネ博士はそう言葉にして、私の方を見る。
791Res/1707.57 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20