265: ◆tdNJrUZxQg[saga]
2022/12/24(土) 00:26:31.95 ID:ITfcLIGe0
果林さんの差し伸べた手が──私を悪しき道に引きずり込む手だったことに気付くのには……さして時間は掛からなかった。
でも、あのときの私は、自暴自棄になっていたところもあって……その手を振り払おうと思わなかった。思えなかった。
力を受け取ってしまった。使ってしまった。……その力でもう……人を傷つけてしまった。
自分で決めて……自分で力を振るって……自分の意思で人を傷つけたんだ……。
そんな人間が、今更反省した振りをして、手の平を返すことなんて……出来ない。出来るはずがない。
──だから、私は……悪に染まろうと思った。身も心も……悪に染まれば、楽になれるんじゃないかって。
だけど、私は今……一人の人間を──歩夢さんという一人の人間を……壊すことに加担している。
それが、恐ろしくてたまらなかった。
せつ菜「…………貴方ほど……悪に染まれない……悪に……狂えない……」
自分の肩を抱いて、震える私に向かって、しずくさんは、
しずく「…………せつ菜さんはきっと……真面目で、優し過ぎるんですよ」
そんな風に言う。
せつ菜「……」
しずく「……せつ菜さんは、悪い人になりたいんですか?」
せつ菜「…………今更……正義者面なんて……出来ませんし……したくないですよ……」
しずく「……正義にも、悪にもなり切れないのが……辛いんですね」
せつ菜「…………」
しずくさんのその言葉が、妙にしっくりきた。……私は、何にもなり切れないのが……辛いんだ。
私の沈黙を肯定と取ったのか、しずくさんは言葉を続ける。
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