360: ◆tdNJrUZxQg[saga]
2022/11/14(月) 17:25:00.44 ID:wroKVd390
それは身近とはいえ、一緒に暮らしていたか、そうでなかったかの違いもあったのかもしれない。
理由はどうあれ、侑ちゃんは子供の頃は今以上に元気いっぱいで、外を走り回るのが好きな子で、近くの道路で戦っているトレーナーたちのバトルをこっそり覗きに行くのが大好きな子だった。
私もそんな侑ちゃんに連れられて、一緒にポケモンバトルを覗いていたけど……私は侑ちゃんほど、ポケモンバトルを好きになることはなかった。
もちろん、嫌いというほどじゃないし、ポケモンリーグのような競技シーンで熱戦を繰り広げるポケモンたちに夢中になる人たちの気持ちも理解は出来る。
いわゆる名試合と呼ばれるような試合では、侑ちゃんと一緒に胸を熱くしながら観ていたことだってある。
……だけど、私よりかは侑ちゃんの方が、ポケモンバトルを真剣に観ていたのは間違いないし、ポケモントレーナーに憧れていたのも、間違いなく侑ちゃんだ。
歩夢「でも……先にポケモントレーナーになったのは……私だった」
ある日、通っているポケモンスクールにいるときに校長室に呼び出されて、何かと思いながら向かうと──そこでヨハネ博士が待っていた。
私たちの住んでいるセキレイシティの研究所にいる博士で、その博士に呼ばれたということだった。
もちろんそこには、かすみちゃんとしずくちゃんもいて……私たちはポケモン図鑑とパートナーポケモンを貰って旅に出る3人のトレーナーに選ばれたということだった。
歩夢「最初は……侑ちゃんを差し置いて、私がポケモントレーナーになってもいいのかなって……思ったんです、でも……侑ちゃんは」
──『歩夢、博士に選ばれたのってホント!? それってホントにすごいことだよ!! おめでとう!! 私も幼馴染として、誇らしいよ!!』
歩夢「侑ちゃんは、自分のことのように喜んでくれて……私もそれが嬉しくて……そのときは立派なポケモントレーナーになりたいなって、思いました。ただ……」
エマ「ただ?」
歩夢「私は……立派なポケモントレーナーになれるか……ずっと不安でした」
──だって私には……何もないから。
一緒に選ばれたかすみちゃんは、いたずらっ子で校内でも有名だったけど、ゾロアのことをよくわかっていて、先生たちを出し抜いて悪さをすることもしばしば。
もちろん後でこっぴどく叱られるんだけど……先生たちも手を焼くほど、ポケモンの扱いに長けた子だった。
お勉強はともかく、バトルの成績は優秀で、学校のポケモンを借りて戦うバトルの授業でも、上級生に引けを取らなかったし、ポケモントレーナーになるべくしてなったような子だと思う。
逆にしずくちゃんは、かすみちゃんとは全然違うタイプだけど……座学もバトルも成績優秀な子で、学校では1年生でありながらポケモン演劇部──ポケモンと一緒に舞台演劇をする部活──のエース。
ポケモンたちと息を合わせながら舞台を創るその姿は、下級生とは思えないほどだったし、しずくちゃんが博士に選ばれたのも納得だった。
だけど──私は……なんで選ばれたんだろう。
確かに座学の成績は悪くはなかったとは思う。……ただ、バトルの授業はあまり好きじゃなかったし、それに関しては侑ちゃんの方がずっと優秀だった。
だから、どうして私が選ばれたのか……わからなかった。
私がポケモンを貰って、ポケモントレーナーとして旅に出るくらいなら──侑ちゃんが選ばれるべきだと思った。
……だけど、せっかく選んでもらったのに、私がそんな態度でいたら失礼だと思ったし……もしかしたら……もしかしたらだけど、博士は私を見て、何かすごい……私自身も気付いていない、特別な何かに期待してくれているんじゃないかって、そう思ったんです。
──ポケモン図鑑を貰ったトレーナーたちは、ほぼ例外なくその才能を花開かせて、一目置かれる存在になるらしい。
それは侑ちゃんの大好きなチャンピオンの千歌さんや、街のみんなも知っている実力者のことりさんや曜さん。そして、ヨハネ博士も昔は図鑑を貰って旅に出たトレーナーだったそうです。
なら、私も……私も、そんな人たちのような、特別な何かが眠っているのかもしれない……そんな風に思って……。
あまり自分に自信がない私だったけど……ポケモン図鑑と最初のポケモンを託される人に──特別な人に選ばれたということが少しだけ嬉しくて、その事実だけで少しだけ自分に自信が付いたような気がして。
歩夢「でも……それも全部、ただの思い上がりだった……」
エマ「思い上がり……?」
歩夢「私は……弱いままだったんです……。少し上手く行っただけで、自分は特別なんだって……思い込んで……」
あのとき……ジムバトルをしている間、どうして自分に特別な力があるって思い込んでしまったんだろう。
歩夢「その思い上がりのせいで……失敗して……侑ちゃんの大切なジム戦を……台無しにして……」
1002Res/2130.98 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20