302: ◆vVnRDWXUNzh3[sage saga]
2024/08/07(水) 23:05:04.66 ID:A23xFse80
深海棲艦を押し返した、バリケードの内側に立て籠もって以降は殆ど犠牲者は出ていない、おまけに艦娘と自衛官までやってきて救助の目処も立ったかもしれない。武器弾薬の問題など不安要素も勿論あるけど、少なくとも現時点まで状況は好転の一途を辿っている。
特に西住さんが本格的に指揮を取り始めてからは、それはとても顕著だ。
なのに、私の胸の中は明るくなるどころか、益々激しく不安を訴える。まるで後ろから得体のしれない何かに追いかけられているかのように、まるで手探りで進む暗い道の先が断崖絶壁であるかのように。
その感覚は、両親と最期の喧嘩をした時に………2人が、永遠に帰ってこなくなってしまった日のものと奇妙なまでに似通っていた。
「…………………なぁ、沙織」
「麻子」
どうしようもなくなって、隣で無線機械と格闘していた沙織に声を掛ける。けど、沙織は食い気味にこちらの台詞を遮った。
「きっと、大丈夫だから。………みぽりんは、大丈夫だから」
決して、私に向けての返事ではない。多分、沙織が自分自身に言い含めているんだろう。だけどその響きは酷く空虚で、繰り返せば繰り返す分だけ、沙織の中で不安が大きくなっているような気がした。
(……………………)
改めて、周りを見回す。格納庫を隅から隅まで満たす“熱狂”の中には、幾つもの見知った顔がある。
「──ええ、とりあえず生徒会としても西住さんには全面的に協力します。現在衛生班に参加している生徒の皆さんは、引き続き医療スペースの拡充を………」
五十鈴さんは、生徒会長としての勤めを全うしようと矢継ぎ早に指示を出している。凛とした姿勢を崩してこそいないが、時折その視線は、物憂げに格納庫の“外”へと向けられる。
「………真田丸で徳川軍を押し返した真田信繁、ってところか?」
「蝦夷へと敗走していく過程で宇都宮城を落とした土方歳三……はしっくりこないぜよ」
「テルモピュライのスパルタ軍………だめだ、どれも玉砕してしまう」
「…………やめよう、縁起でもない」
カバさんチームの四人は“いつものやり取り”をしようとしていたが覇気もキレもなく、最期にはエルヴィンこと松本さんの一声で全員が黙り込んでしまった。
「隊長…………」
「大丈夫だよ梓、西住先輩なら…………」
ウサギさんチームの澤さんは膝を抱えて塞ぎ込む。その横では山郷さんが懸命に元気づけようとしつつ、そんな彼女も今にも泣き出しそうに瞳を潤ませている。
「何にもできないにゃ……私達………」
「仕方ないピヨ………」
「一般人の限界モモ……」
アリクイさんチームの3人も、その隣で無力さに打ちのめされ座り込んでいる。
「砲弾の運搬はこちらです!新たな機銃の設置位置はアリサ殿から伝達を受けています故そちらへ!!」
「他の予備パーツの点検もやっとこう!……西住さんが戦いに行くなら、せめて少しでもその安全を守らないと!」
「いい!?素人は却って邪魔になるから外には出ちゃダメよ!特に中等部は全員地下へ行きなさい!物資運搬は風紀委員まで、それ以外は中等部の子達や小さい子たちを見てあげて!!」
秋山さん、ナカジマさんら自動車部の面々、そど子達風紀委員は、各々駆けずり回って保安官や医療班と共に働いている。けれどその動きは、作業をするためではなく押し潰されそうなほど大きな不安から逃れるためであるように見えた。
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