242: ◆vVnRDWXUNzh3[sage saga]
2023/07/26(水) 21:26:31.14 ID:1kNqHEos0
別に、今の境遇にもう不満はない。寧ろ、あの無能な司令官から常に楽しい【いくさ場】とぶっ飛んだ愉快な日常を用意してくれる今のアイツに上官が変わったことを考えれば──比べ物にならないほど頭がおかしいことを差し引いても──最早幸運とさえ捉えられる。
ただ、私が彼女のような強さを、物理的ではなく精神的な強さを最初から備えていたなら。あの愛しい“地獄”ももう少し早くもう少しマシな環境にできたんじゃないか。そう思わずには居られない。
西住さんは、それを“表”の世界にいたままで成し遂げた。腐り果てた価値観と悪意的な謀略に、“希望に眼を輝かせ使命感と義務感に燃える小娘”のまま抗い抜いた。
艦娘として、身体能力や武力は私の方が遥かに勝っているかもしれない。だけどその精神力は、憧れ、羨み、私もそうありたいと望んでしまうほど強く気高いものだった。
同時に、それは私にとって戦闘そのものに対する享楽とは別の“戦う理由”でもある。西住さんに少しでも長く、できればその生涯が終わるまで、今の“道”を歩み続けて欲しい。心の底から信頼できる仲間たちと肩を並べ、“表”の世界で輝いてほしい。
我ながら青臭すぎて気恥ずかしくなってくるけど、それでも真剣で切実な、そんな理由。
───なのに。
西住みほは、今、私の目の前にいる。
戦車のキューポラから身を乗り出し。
背筋を真っ直ぐに伸ばし。
口元を引き結び、凛とした表情を浮かべ。
あの時、戦車道の試合で見せていた姿そのままに。
「ア……アア………』
『ヴア゛ァ゛………」
自分が乗るW号線車が、うず高く積み重なった「元人間」の残骸を踏みしめているにも関わらず、“いつも通り”だった。
まるで、“私達”と同じように。
「11時方向!撃て!!」
『ヂィッ………!!!』
彼女の叫び声に応じ、素早く砲塔の旋回を終えた“W号”が三発目の砲弾を放つ。
反対側の家屋が直撃弾によって突き崩され、その上に乗っていたチ級が舌打ちを思わせる鳴き声を発しながら別の家へと跳び移った。
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