29: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2022/04/24(日) 05:17:57.76 ID:bGZxlAIa0
暑苦しくてパンツを脱いでいた夜はある。アレは確か熱帯夜なのに小窓を開けただけでクーラーをつけなかった時だ。しかしその時のパンツは、グシャグシャの状態でベッドの横に落ちていた。こんな風に丁寧に折り畳まれてはいなかった。
恐るおそるベッドから降りる。毛布に隠されていないから、もうハッキリした。俺は全裸だった。
自宅の一人暮らしとはいえ、この未知なる状況で全裸という装備に不安を覚え、抜き足差し足でパンツに近づく。パンツは本当に丁寧に折り畳まれていた。俺はこんな風には畳まない。
「何が……何が起きている?」
パンツを履いても不安は収まらない。このパンツを畳んだのは誰なんだという疑問が膨らむばかりだ。すると――
「♪〜♪〜」
キッチンの方から鼻歌が聞こえてきた。聞き覚えのある鼻歌に、心臓が締め付けられる。
そんなはずがない、そんな事があっていいはずがない。
そう必死に言い聞かせても、1Kのアパートはこの鼻歌が別の部屋からではなく、たった一つのドアを挟んだ向こう側から響いている事を容易に教えてくれる。
「違う……俺は……した……はずがない」
口にしながら脳裏をよぎるのは、夢の中の出来事。夢の中にしては、あまりにも生々しかったような気が――
「違う……違う……俺は……だってまゆは……何よりも大切で……まゆを傷つける事は……俺にはできない」
否定する。口だけで、否定する。
本当に否定したいのなら、ドアを開けばいいのに、それができない。
まゆがここにいない事を確認すればいいだけなのに、足を一歩も動かさずに口だけで否定する。
だって――ドアを開いたら、認めないといけないから。
そのドアが、ゆっくりと動き出した。
「あ――――――――――」
現実を突きつける光景を隠していたドアが開いてしまい、そこには――
「おはようございます、プロデューサーさん♪」
まゆが、いた。
満面の笑みを浮かべた、達成感による幸せをあふれ出させるまゆが、そこにいた。
フリルのついたエプロンをつけて、みそ汁の香しい匂いをこちらへの部屋へと送りながら、まゆがそこに立っていた。
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