25: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2022/04/24(日) 05:14:06.29 ID:bGZxlAIa0
「……プロデューサーさん」
「……え?」
聞き慣れた、暖かくて柔らかい声がする。優しい温もりに体が包まれる。
それは、在りし日の日常だった。
必死になって遠ざけようとしている――大切なモノだった。
「プロデューサーさん……もう、いいんです……もう止めてください」
鏡を見れば、後ろから俺を抱きしめるまゆの姿があった。
どうしてここに……俺の家に、こんな時間にまゆが……?
「……ああ」
納得の声が自然と漏れ出た。
聞いたことがある。限界状態にある人間は、必死になって都合の良い出来事を――楽しかった出来事を組み合わせて、生きる気力を取り戻そうとすると。
破壊寸前の脳が自らを守ろうと、何よりも尊くて大切な存在を想い描いているんだ。
「お願いです。まゆのコトを想ってくれるのなら……もうこんなコトはやめてください」
「……うん。ありがとう、まゆ」
本当のまゆも、きっとこんな風に俺を止めてくれるだろう。泣かせてしまうだろう。
けどそれを鏡越しに、そして背中で感じながら――俺の決意は揺ぎなく固まった。
「でも、ごめんな」
こんなにも優しいまゆのために、俺は頑張らないと。
「俺はまゆが大切だから――世界中の何よりもまゆを愛しているから、止まるわけにはいかないんだ」
いつの日か、まゆが俺の元から離れていく時に。
いつかくる、別れの時に。
二人の邪魔をしないように、みっともなくすがり付かないように――俺は脳《おれ》を、破壊する。
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