臥煙伊豆子「おいで。君の意思で、私の隣に」
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5:名無しNIPPER[sage saga]
2022/02/03(木) 23:39:38.94 ID:GA97p571O
「どうして席をひとつ空けるんだい?」
「このご時世ですから」

キープディスタンス。間隔を空けるルール。

「でもここには私とこよみんしか居ない」
「空いてて良かったですね」
「だから社会的なルールは適応されない」

そんな馬鹿な。個室じゃあるまいし。けど。

「ルールなんてものは、自分で自分の行動を決められない人間が、何も考えずにただ従うことで楽をしたいがために存在してるのさ」

暴論を口にした臥煙さんが隣の席を叩いた。

「おいで。君の意思で、私の隣に」

ここで僕が僕の意思とやらで間隔を空けて座ればそれは社会的に立派で褒められることかも知れないが、ここには臥煙さんしか存在せず、それをすることで機嫌を損ねるかも知れないと危惧した僕は、仕方なく隣に座った。

「随分と情けない顔をしてるじゃないか」
「僕は、自分の意思で決めてませんから」
「だけど私のせいにしない。そこが良い」

満悦の臥煙さんが僕の手を取る。僕はなんでも知っているわけじゃないけれど臥煙さんが上映中に飲食しないのは手が汚れるのが嫌だからだろうと、そう推察すると肯定された。

「そうだとも。私は君と手を繋いでこの作品を観てみたかった。いや、共有したかった」
「共有?」
「そう……君が何を感じて、何を思うのか」

始まるよと囁いて館内の照明が暗くなった。


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