トレーナー「ひたいに油性ペン(極太)で“オグリ”と書かれた」
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3: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2022/01/09(日) 06:35:14.89 ID:7TLsjr9y0
「まさかキミがここまで私のモノになるのを嫌がるとは思わなくて……すまない」

「あー、うん。それなんだけどさ、オグリ」

「……なんだ?」

「別に名前を書いたりしなくていい」

「それは……どういう意味だ?」

「こんな事をしなくても、俺は君のモノだから」

「……!」

 本当は良くない事はわかっているけれど、あまりにもオグリがしょんぼりとしているため嘘をつく。
 いや、これからもオグリのトレーナーを続けていくつもりだからオグリにとっては嘘じゃないのだけど、一般的な男女が“モノにする”という意味では嘘をついている。

「しかし……キミに私の名前が無くて大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ。ほら、スーパークリークのトレーナーさん。あの人はクリークのモノだけど、どこにも“クリーク”って書かれていないだろ」

「確かにそうだ……!」

 ごめんなさい、クリークT!
 心の中で謝っていると、青空に菩薩のような笑みを浮かべるクリークTが見えたような気がした。

「名前を書かなくっても誰のモノかわかる存在がある。俺がキミのモノである事は、他の人だってすぐに気づけるよ」

「ふむ。では私がキミのモノであるコトもそうだろうか?」

「…………………………うん、どうだろうね?」

 年頃の女の子が自分は誰々のモノだなんて気軽に言ったらダメだと叱りたかったけど、それでは話が有耶無耶になる。
 かといってここを流してしまえば“私はトレーナーのモノなんだ”と周囲に自慢しかねない。

「違うのか……? ならばやはり、キミの名前を私に書いてもらった方が……」

「オグリ! 君は自分が着ている服を自分のモノだってわざわざ言って回るかい?」

「い、いや。そんな事をしたコトはないが」

「俺たちは普段から一緒にいる。大丈夫、俺が君のモノである事も、君が俺のモノである事も、誰に言うまでもなく分かってもらえる事だから!」

 教え子に俺は何を言っているのだろう。これじゃまるでプロポーズじゃないか。
 しかしオグリを悲しませずに、かつ俺や自分に油性ペンで名前を書く行為を止めるにはこれしか思いつかなかった。

「そうか……! 私たちはクリークたちと同じだったのか!」

「そ、そうだ!」

 あの二人と一緒にされるのは抵抗感があったが、これもオグリのためだと肯定する。

「私が間違っていたトレーナー。キミが私のモノであると自覚していないせいで、しないでいい主張を周りにしてしまってすまない」

 オグリは良き勢いよく立ち上がった。悲しそうに垂れていた耳はピンと張り、気持ちが高翌揚して頬に紅《べに》がさしている。

「キミが私のモノであるコトは、これまでもそうだったように、この走りで証明しよう」

 そう言って彼女はターフへと向かった。
 その力強い後ろ姿は、俺の選択が間違っていないと教えてくれ――


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