【ミリマスSS】あわてんぼうのサンタクロース【箱崎星梨花、三浦あずさ】
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10: ◆p1Hb2U6W8I[sage saga]
2021/12/24(金) 21:47:51.12 ID:J1wXT9tF0
都市の街灯りから離れると、星はより鮮やかに見える。
普段仕事帰りに見るものとはまた違う満天の星空。
それを見上げる背後の車中からは、艶めかしい衣擦れの音が聞こえている。
理性を保つために大きく息を吐くと、三ツ星の隣に形作られた三角形を、白い霧が覆い隠していった。
やっぱりTシャツの上にサンタの衣装だけだと寒いなぁ。
とはいえ、これから室内に入るんだからあまり厚着は出来ない。
汗っかきだしな、俺。
12月23日の夜。
今、俺達は例の児童養護施設のすぐ近くまで来ていた。
目的は、施設のクリスマスパーティに参加するためだ。
ちなみに、このことはあの男の子には内緒にしてもらっている。
本当にサンタさんが来てくれたんだ、世の中にはたくさんの救いがあるんだって、思ってほしいからな。
本当は明日のクリスマスイブに行われる予定だったらしいが、俺達に合わせて急遽前倒ししてくれた。
こちらの都合に付き合わせてしまって非常に申し訳ないのだが、施設の子供達は、『あの子のためなら』と快く受け入れてくれたとのこと。
本当に、優しい子達だな。
というわけで、サンタクロースに扮した俺は、車の中でサンタとトナカイの衣装に着替えるあずささんと星梨花を寒空の下で待っているのだが、北風に震えているのは俺一人ではなかった。

「あの・・・箱崎さん、本当にすいません。遠方までご足労いただいて・・・」

「いえ、娘のためですので」

俺の隣に姿勢良く立っている男性は、星梨花のお父さん。
ダンディとしか形容しようがない風貌を、トナカイの着ぐるみが包み込んでいる。

「とはいえ、トナカイの恰好までしていただかなくとも・・・」

「星梨花の頼みですから」

いつかこんな男になりたい、という憧れすら抱かせる渋い顔立ちの真ん中を、赤い鼻が彩る。
門限を過ぎた時間に星梨花を連れ出したいという頼みは、予想通り反対された。
話し合った結果行き着いた妥協案が、お父さんが引率すること。
お仕事で多忙であろうに、ここまで付き合ってくださって、本当に頭が下がる。
娘思いの、良いお父さんだよな。

「・・・プロデューサーさん」

「は、はい」

とはいえ、星梨花関連で色々あった人なので、二人きりだとちょっと緊張してしまう。

「アイドルになってから、星梨花はよくわがままを言うようになりました」

星空を見上げながら、箱崎さんはポツリと呟く。
その表情からは、一抹の寂しさが感じられた。

「そのわがままは、いつだって前向きで、優しくて」

箱崎さんが喋る度に白い息が空を覆っていたが、星々の煌めきを少しも霞めることはなかった。

「・・・子供が巣立っていくのは、これほどに寂しいものなんですな」

「・・・かもしんないっすね」

「プロデューサーさん」

箱崎さんは、チャーミングな赤鼻とは釣り合いが取れない真剣な表情で、俺の目を真っすぐに見つめる。

「星梨花のこと、よろしくお願いします」

「・・・はいっ」

箱崎さんの瞳は、頭上を覆う星々に負けず劣らず鋭く煌めいていて。
星梨花にちょっと似ているな、なんて当たり前のことを思ってしまった。


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