77: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:56:14.31 ID:86/EQe0g0
私は夕食の後、お父さんやお母さんにそれを出して見せた。
「チョコレート好きの凛が、和菓子とは珍しいな」
「今日、友達の家でもらって。せっかくだから」
「凛……これは……」
お母さんが、干菓子の入っていた紙包みのその和紙を丁寧に広げる。
78: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:56:57.45 ID:86/EQe0g0
部屋に帰ると私は、スマホで紙に書いてあった百人一首を検索してみる。
「待ち出るつる……か……な、と。なになに? こ、恋の歌!?」
あやうくベッドから落ちそうになりながら、私はスマホの画面に並んだ訳文を読む。
「今すぐに参ります、とあなたが言ったばかりに九月の長夜を眠らずに待っているうちに、夜明けの月である有明の月が出てきてしいました……」
79: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:57:59.14 ID:86/EQe0g0
待っている。来てくれないと、寂しいよ……と。
80: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:58:37.31 ID:86/EQe0g0
私は朋花と比して、自分のことを「自分なんて」と思いがちだが、朋花は違う。私をライバルと認めてくれている。出会った最初の頃からそう言っていた。
ライバルということは、同じぐらいすごいということだ。
そのライバルが、私を待ってると言ってくれている。
同時に友達して、寂しいとも言ってくれている。
81: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:59:18.13 ID:86/EQe0g0
でも……
82: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 14:00:02.48 ID:86/EQe0g0
「私が……アイドル?」
それは、震えるような想像だ。
わたしもあんな風に、いつか見た目屋外ディスプレイの光景のように、光あふれる場所で咲けるのだろうか。
思い悩む私に一週間後、朋花のニュースが飛び込んできた。
「ほら凛、いつかのJ組の聖母サマだけどさ」
83: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 14:00:43.81 ID:86/EQe0g0
いつかの朋花の家で、私が応募には写真が必要だったことに同意した時、朋花が少し嬉しそうだった理由がわかった。
あの時、朋花はやはり嬉しかったのだ。
私がちゃんと要項を読んでいたから……アイドルになる方法をちゃんと読んでいたからだ……
そうだ、私もアイドルになる方法を知りたがっていた。
それはとりもなおさず――
84: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 14:01:17.26 ID:86/EQe0g0
私もアイドルになりたかったんだ……
85: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 14:02:04.58 ID:86/EQe0g0
後悔しても、もう遅い。
39プロジェクトは終了し、アイドル候補生の募集は終わってしまっているのだから。
今更ながら、私はあの時に朋花と一緒に、朋花に誘われた募集に応募していれば良かったと悔いた。
なくしてしまって、人は初めて手にしていた物の大きさに気づく。
怖じ気付いて逃げ出したその夢は、思い返せば私が初めて興奮するような、なりたい姿だった。
86: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 14:02:46.50 ID:86/EQe0g0
遅ればせながら、自分もアイドルになりたかったのだと気づいた。
朋花も私が、アイドルになるのを待っているとわかった。
そんな私に……というかうちの店に、またしても私の運命を変える来客があった。
そう、運命はいつも花を求めてやって来るのだ。
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