59:名無しNIPPER
2021/11/27(土) 22:46:33.36 ID:u50g9+A20
急いでいた私は、危うく扉を出てきたばかりのスタッフさんにぶつかりそうになった。
「ごめんなさい!」
そう声をかけるのが精いっぱいで、向こうがどうなったかも確認できずに再び駆け出した。
そして、扉を開く。
静まり返った室内。簡易なベッドがいくつか並んでいて、それに公演の様子の見えるモニターが、点滅している。
ベッドで横になっているのは、一人だけ。
扉に背中を向けて丸まっていたけど、その黒く長い髪は、見間違えようがなかった。
「文香」
私の声に、背中がピクリとはねた。それから、ますます文香は体を丸めた。
「ごめん……なさい……」
消え入りそうな文香の声に、私は胸が締め付けられた。文香は自販機にもたれかかるような形で、廊下に倒れこんでいたという。飲み物を買い行ったときに、眩暈が起きたのだ。
謝ることなんて、なにもないのに。
私は文香の肩に手を触れる。文香は体を強張らせた。
「大丈夫、文香?」
文香は答えなかった。
当たり前だ。なんて馬鹿な質問をしたのか。
大丈夫じゃないに決まっている。
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