39:名無しNIPPER
2021/11/27(土) 22:04:17.03 ID:u50g9+A20
「……なにか質問は?」
私は顔を上げた。プロデューサーは、ジッと私をうかがっていた。その言葉は、質問があるのだと、分かったうえで聞いてきているようだった。
覚えた苛立ちを、私は笑顔で包み隠した。
「ないわ、別に」
すっと、プロデューサーは目を細めた。私の態度に不満があるかのようで。でも、何かを言おうとするわけでもなかった。そっちが言う気がないなら、こっちが言う理由もない。そうでしょ?
結局プロデューサーは、「そう」とただ返事をしただけだった。
用事はすんだ。これ以上ここにいる理由もない。態々寄らなくてもよかったか。徒労とまでは言わないけど。
「それじゃあ、プロデューサー。また」
さっさと部屋を出ていこうとしたとき、誰かが部屋をノックした。
「失礼します」
入ってきたのは、文香だった。いつもなら、木漏れ日のような穏やかで暖かな声が、今日は陰っていた。
「プロデューサーさん……お話が……」
顔を上げた文香は、私の顔を見てハッと息をのんだ。私が来ていることに、やっぱり気づいていなかったようだ。
「話って、なにかな?」
「それは……」
文香はチラチラと私の方を見てきた。どうやら、私には聞かれたくない類の話らしい。ちょうどいい。私も早く帰りたいのだし、さっさと退出すれば――
「奏のことかな?」
プロデューサーの言葉に、私は足を止めた。私が、なんだっていうの?
私が振り返ったのと同じタイミングで、文香も振り返った。
その瞳は憂いに揺れていたが、キュッと口元を結ぶと、文香はプロデューサーに言った。
「私……納得できません。どうして……奏さんは歌わないんですか?」
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