100日後に死ぬ彼女
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63: ◆QlCglYLW8I[saga]
2021/09/28(火) 23:19:22.64 ID:AjfzXomJO

大学に入って感じたのは、授業がつまらないということだ。
程度が低いわけではない。ただ、大講堂で遠くから講義を聞くだけの、受け身の授業は退屈さしか感じない。
週に何回かある実験も、さほど僕の心を興奮させるものではない。教授が求める答えを、ただ実験で導きだすだけだ。
教養課程ーーリベラルアーツというものは、こういうものなのかもしれない。ただ、理系でゼネラリストを育てようとすることに、何の意味があるのかは甚だ疑問だった。
だから僕は、ダメ元で専門課程のゼミに応募した。何かしらの刺激がそこにあるのでは、と考えたからだ。

それが、青山ゼミだ。

正直、2年生枠1人に僕が選ばれるとは思ってなかった。学業成績自体はそこそこだったけど、中高からエリート街道を歩んできた連中に勝つことはあまり期待してなかった。
今でも、なぜ僕が青山ゼミに入れたかはよく分からない。一つ言えるのは、将来ノーベル賞を取るだろうと言われている天才、青山憲剛教授の指導は、とてつもなく刺激的ということだ。

総合図書館にいる僕は、手帳を見る。休み明けのゼミまで、あと1週間。それまでに、この論文を読み終わらなければ……

「竹下君」

低い声が、僕の耳に届いた。ハッとして振り向くと、背の高い神経質そうな白衣の男性が、静かに立っている。

「……!!何でしょうか、青山先生」

「オルド・テイタニアの論文は、もう読んだか」

「は、はい。先生と共同で発見された人工元素、『オルディニウム』の性質について、ですね」

「そうだ。隅から隅まで、完全に理解したか」

僕は黙り込んだ。正直、まだ内容の3割ほどしか理解できていない。
核分裂の際に新元素がプルトニウム以上のエネルギーを生じるだけでなく、従来とは違う性質の放射線も発するという点ぐらいは分かったけど。その原理はさっぱりだ。

青山教授が不機嫌そうに眉をひそめた。

「次のゼミでは、この論文の査読を行う。今からそれでは困る」

「す、すみません……」

正直、ゼミの内容は高度で、ついていくのがやっとだ。理学部でも選りすぐられた学生が所属するだけあって、議論にもなかなか参加させてもらえない。

青山教授は、僕の何を買っているんだろうか。

気が付くと、彼の姿は消えていた。というか、青山教授はてっきり研究室にいるものとばかり思っていたけど、図書館に何かの用事でもあったのだろうか。
首を捻りながら、僕は難解極まりない論文に目を戻した。



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