19: ◆QlCglYLW8I[saga]
2021/09/23(木) 19:34:49.79 ID:N9VhFuQzO
「で、どうなんだ。例の彼女」
シャカシャカという軽妙な音と共に、大城戸さんが訊いた。昔は湯島にある老舗のバーで働いていたらしく、シェーカーさばきは素人の僕でも分かるほど鮮やかだ。
「由梨花のことですか」
「おう。もう付き合って1年になるだろ。最近姿を見せないからな」
大城戸さんはシェーカーから静かにグラスへとカクテルを注ぐ。ライムの香りを、わずかに感じた。
「上手くいってますよ。この前の休みも会いましたし。インターンで忙しかったんですけど、やっと落ち着いたみたいで」
ギムレットを口に含む。ここのギムレットはコーディアル・ライムジュースを使ったクラシックスタイルだ。切れの中に甘酸っぱさが感じられる。
「あー、年上だっけな。またうちに連れてくればいいのに」
「ええ、就職先も大体決まったみたいですし」
「早いねえ。俺の頃は4年の春まで内定なんて出なかったけどなあ。青田買いってやつか」
すっとお通しの麦チョコが出される。僕はそれをつまみ、口に放り込んだ。
「……就職したら、どうなるんでしょうね」
「んー、何とかなるんじゃないか?結局の所、恋愛って相性だよ。君には、ああいう引っ張ってくれるタイプが合ってる気がするな」
「でも、会える時間は減りますよ」
「そこは密度でカバーさ。何より、彼女の就職はまだ1年半も先だろ。心配しすぎだよ」
大城戸さんが苦笑する。それはそうかもしれない。ただ、あの悪夢を引き合いに出すまでもなく、先に行かれることへの焦りが僕の中にある。
大城戸さんのような大人の余裕を、僕は持てるのだろうか。
ギムレットの苦みを、やけに強く感じた。
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