18: ◆QlCglYLW8I[saga]
2021/09/23(木) 19:34:13.16 ID:N9VhFuQzO
「お、来たね」
分厚い扉を開けると、カランという音と乾いた木の匂いがした。マスターの大城戸さんが、ニヤリと笑う。
「ども」
「最近良く来るな。また、競馬で勝ったのかな。この前のセントライト記念、竹下君の予想通りだったしな」
「この前のは買ってないんですよ」
大城戸さんが目を丸くした。
「そりゃなんで。馬連で万馬券だっただろ」
「や、何となく」
「うちに君が来る時は、大体大勝ちした時なんだが。株は暴落したしなあ」
大城戸さんが顎髭を触って首をひねった。僕はフフッと笑ってカウンターの椅子に座る。客はまだ僕だけだ。
「実はそれなんですよね。連休前にショート(空売り)仕掛けたんで」
「……凄いな。ここ最近、日経平均はえらい調子よかったから、あそこで売るのってなかなか勇気いるだろ。……っと、1杯目はいつものでいいか?」
「ええ、ギムレットで」
「了解っと」
大城戸さんがシェーカーにジンを入れ始めた。僕は軽くカウンターを撫でる。
この年季の入った古いチーク製のカウンターは、大城戸さんが1年かけて頼み込んで譲ってもらったものらしい。この手触りが、なんとも言えず心地いいのだ。
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