【デレマスss】木村夏樹「ファースト・パッセンジャー」
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18:名無しNIPPER[saga]
2021/09/15(水) 22:34:44.61 ID:TCAbkAPj0
「先輩たちから全部聞きました! 俺にはなにも出来ないかもしれないけど、でも居ても立ってもいられなくて……」

「その通りだ! アンタにできることなんかひとっつもないんだからさっさと帰れ!」

「いつ帰るかなんて俺の勝手です!」

「ああそうかい、じゃあアタシのことも放っといてくれ!」

「なんでバンド辞めちゃったんですか!?」

「放っとけって言ってるだろ!」

「放っとく訳ないじゃないですか!」

「……じゃあ言うけど、アンタは『アタシの実力が足りなかったから』って言ったところで納得すんのかよ!?」

 初めて木村先輩がこちらを振り向き、初めて聞く木村先輩の震えた叫び声が響いた。あたりはすっかり日が落ちて真っ暗闇だ。街頭の薄明りだけではどんな顔をしているかは分からないけど、想像するのは簡単だった。

「そんなはずないです! だって先輩はあんなにカッコいい演奏ができて、いろんなバンドを知ってて、教えるのも上手で、俺が軽音楽部に入ったのも木村先輩に憧れたからなんですよ!?」

「……ギターってのはある程度弾ければ誰でもカッコよく見えるもんなんだよ。アタシだって歴だけは長くやってきたんだから分かってたさ、アタシくらいの実力じゃプロになれないことくらい」

「そもそも、その新しいギターってのは何者なんですか!? そんな得体のしれない人が急に入って先輩たちは本当に納得したんですか!?」

「最初は納得なんかしてなかったさ。でも、一回そいつの演奏を聴いたら考えが変わったよ。アタシにゃ敵わないってさ。他の奴らも同じように思ったみたいだったよ。もちろんアタシに気を遣って手の平を返すまではしなかったけど。でもさ、アタシが抜けるだけでみんなの夢が叶うんだ。だったら抜けてやるのが仲間ってもんだろ?」

「でも先輩の夢が叶ってない! きっと今からでも話し合えば先輩もメンバーに残ったままでデビューできる道だって見つかりますから!」

「夢だけじゃプロにはなれないんだよ。元々アタシはプロになれる実力なんて持ち合わせちゃいなかったんだ。アンタも憧れるならアタシ以外にした方がいい。もっと上手い人なんていくらでもいるんだから」

「でも……」

「今更どうにかしようって言ったって、もうどうにもならないんだよ。アタシももう帰るから、アンタも諦めな」

 そう言い残して木村先輩は立ち去った。”もう”どうにもならないと言っている時点で納得しているというのは嘘なのだろう。先輩の後ろ姿は、いつものカッコいい木村先輩とは少し違って見えた。


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