99: ◆yOpAIxq5hk[saga]
2021/09/09(木) 00:49:10.52 ID:gvlgOaLx0
その後は、単純だった。
わたしのことを知っている人が少ない場所で、とにかく他人に好かれるよう努力をした。幸い、物事を分析することが得意だったわたしが他人を気遣い、そして好かれるようになるのは簡単なことだった。
いつしか形成された春宮天音という少女の偶像。
明るく朗らかで前向き、頑張り屋で好奇心旺盛、様々なことに興味を示して習得しようとする。周りから頼られる事が好きな少女。
それがわたしが思い描くわたしという人だった。
演じる。演じ続ける。そして。
いつしか昔の自分を思い出せなくなる。
本来のわたしとは、なんだったのか。
そんな喪失感から逃れるため、中学卒業を機に新たな自分形成のため、わたしはその考えを改めることにした。周囲を分析せず、思うように行動する。打算的じゃない、感情的な自分を作り出すために。
ところが高校生活初日にして分析を繰り返し、この学校の仕組みを汲み取ろうとし、何気ない日常の中でクラスメイトの性格を把握しようとしている。
「────」
もう変われない。
わたしが知るわたしは、打算的な思考をする人間であること。何事にも損益をもとに行動する狡いヤツ。
胸の奥で溜め息を吐く。
ともあれ、今は会長の前だ。これ以上なにも喋らず黙っているのは迷惑になる。
「ありがとうございました。邦彦くんの言伝はしっかりと聞きました」
「そうかい。ならいいんだけどよ」
話が終わりそうな気配を感じ取った乙葉先輩が近付いてくる。手に持つジュースは早くも空になりそうだった。
608Res/522.78 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20