4:名無しNIPPER
2021/08/23(月) 01:25:40.40 ID:Uc90J3hWO
子どもの頃によく遊んでいた辺りを旅立つ前に回ってみようと誘ってみると、あっさりと承諾をしてくれた。荷造りなどもほとんど終わってしまい、あとは出発の日を待つだけだったらしい。あの頃は自転車を立ち漕ぎで駆けていた堤防を二人で並んで歩いた。
「こんなところ、ファンの子に見られたら怒られない?」
「ファンなんかいないから」
高校に入った頃から、友達の親が経営するライブハウスのイベントに何度か出演させてもらっていた。何度かユリちゃんも見に来てくれたことはあったし、その時は一層気合いが入ったものだった。
「照れなくていいから」
そう笑う彼女の表情に照れてしまって、僕はそっぽを向いた。
何と伝えよう。どんな言葉にすれば彼女に自分の気持ちを伝えることができるだろう。頭の中では何度もシミュレーションしていたはずなのに、彼女と向き合うとそれが正解ではなかったように思えてしまう。
失敗するつもりで来ていたはずなのに。だからこうやって地元を旅立つ直前に、自分の気持ちを整理させるために、自分を奮い立たせて来たはずだった。それなのに、彼女を目の前にするとそんなことは考えられなくなっていた。自分が楽になれなかったとしても、ユリちゃんのことを好きでい続けたいと思っていた。たとえそれが、報われることがなかったとしても。
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