8: ◆CrAv5R2gC.[saga]
2021/08/13(金) 03:36:46.58 ID:rzwHBgf90
結局話を一通り聞いた彼は「その場所に行きたい」と言い出したので睦月がその場まで案内することとなった。
「悪いね。結局道案内まで頼んじゃって」
小型の船を操縦しながら男が頭を下げる。
先ほどの話し合いの場で男はTと名乗っていた。コードネームのようなものらしい。
現在船内にはTと中将、そして気を奮い立たせてついてくることに志願した吹雪がいる。
「近海を抜けなければその先の海域を奪還できない。私も直接出向き指示を出せるようにしているんだが……」
「司令官…そんなこと言わないでください」
力を振り絞って中将を励ます吹雪。出港したときよりも弱っており、現場に着々と近づいていることがわかった。
「いや……すまない」
中将は申し訳なさそうに言葉尻が弱くなる。自身の行動に対して罪悪感を感じているようであった。
中将の熱意がここまでなければ必要以上の警備は無く、吹雪が『なにか』と遭遇することもなく、Tが出向くこともなかったのも事実。
「大変すばらしいことだと思います。ただ、今回は運が悪かっただけだと思ってください」
Tは本心からそう思っていた。悪いのは中将でも吹雪でもない。むしろ――
「吹雪ですが、諸悪の根源を絶つことでよくなると思います」
「本当ですか!?」
睦月が振り返る。Tは力強く頷いた。
「実はほかの鎮守府でも同等の被害が出ていたらしい。ある一区間で、一部の艦娘が突如気絶。そんなことが起こっているんだ」
「被害者は全員口をそろえて『赤いワンピースを着た少女に気を取られた』と言っているが……」
「……私が見たのは違います…」
「そう。君だけ一致しないんだ」
どうして、と言いたげな目を向ける吹雪にTは答える。
「おそらく、奴らからしてもイレギュラーなことだったのだろう。こういう類のものは、各々のルーティーンに忠実に動くことで現象が起こる。例えば花子さん」
「花子さんって、あの怪談のですか?」
無関係な怪談話が出てきたため思わず睦月は聞き返す。
「花子さんは
@学校の校舎3階のトイレで扉を3回ノックし、『花子さんいらっしゃいますか?』と尋ねる行為を一番手前の個室から奥まで3回ずつやる。
Aこれによって3番目の個室からかすかな声で「はい」と返事が返ってくる
Bそしてその扉を開けると赤いスカートのおかっぱ頭の女の子がいてトイレに引きずりこまれる
この一連の動作が言わば召喚の儀式で発生させる要因なんだ」
睦月にはこの男が何を言っているのかがあまり理解できていなかった。
「だからこそ吹雪は軽傷で済んでいる。やつも力を十分に発揮できなかったのだろう」
だが、そう結んだ言葉は先ほどと同様に力強いもので、未知の理論が却って腑に落ちた。
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