806: ◆ZS3MUpa49nlt[saga]
2022/01/22(土) 18:34:53.84 ID:7SptLiMdo
とある病院の個室。窓を半分開けた室内には、温かい春風が緩やかに流れている。
起き上がったリクライニングベッドに背を預けながら、結標淡希はカエル顔の医者に言われたことを思い出していた。
『キミは肉体再生系の能力でも持っているのかな?』
もちろん結標はそのようなチカラなど持ってはいない。なのに、なぜそのような質問を受けたのか。
それは彼女がこの二日間弱の間に負った傷の数々のせいである。
学園都市の暗部と命の取り合いとも言えるような戦いを繰り広げてきた結標は、体の至るところに傷やダメージを負っていた。
かすり傷とかそういったレベルではない。全身から血を流すような重症とも言えるようなモノ。
結標は今の自分の身体を見る。たしかに怪我はしている。痛みも感じる。
しかし、それらは至って普通の怪我程度のモノに収まっていた。医者が言うには、病院に運び込まれた時点でこうだったらしい。
付き添っていた少年が、どういった怪我を負ったのかという説明を事細かくしてくれたらしいが、彼が言うような怪我の度合いには到底及ばないほどの軽症だった。
勘違いして大げさに言っているのだと医者は思ったらしいが、怪我の原因や箇所まで正確に言っていたりと、嘘を言っているような表情ではなかったことから、先程のようなセリフを結標に冗談交じりで問いかけたのだろう。
何度も言うが、結標淡希には肉体再生などというチカラはない。
だから、自分が重症だと思っていた怪我は、もしかしたら勘違いだったのかもしれない。そう考えればこの状況にも説明がつくだろう。
だが、一つだけ説明のつかないことがあった。
結標は、自分の両腕を見た。
この腕は、能力を暴走させた少年の背中から発せられた、黒い翼のようなモノと接触してズタボロにされたはずだ。
皮は破れ、肉は飛び散り、骨がへし折れ、まるで食べ散らかされた骨付きチキンのような見た目になっていた。
しかし、現実今の彼女の目に映る両腕は至って普通の腕だった。
自分の思い通りに動く。感覚もある。汗もかく。作り物でもない、紛れもない結標淡希の両腕。
もしかして、あれは夢だったのか?
あのとき感じた痛みも、あのときの出来事も、あのときの自分が思ったことも――。
結標「……はぁ、馬鹿馬鹿し」
結標はため息交じりにそう呟いた。
トントントン。
自室のドアをノックする音が聞こえた。
医者でも来たのか、と結標は入口の方を向いて返事をする。
結標「どうぞ」
??「失礼します」
入ってきたのは中学生の少女だった。
常盤台中学の制服を着ていて、ツインテールにした茶髪をゆらゆらと揺らしながら彼女がこちらへ歩いてきた。
結標「…………ッ」
その少女は結標にとってよく知っている人物だった。
だから結標は、眉をピクリと動かしたあと、くすりと笑みをこぼした。
結標「あら、こんにちは。白井さん?」
黒子「……どうも」
そう挨拶して、黒子は一礼した。
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