結標「私は結標淡希。記憶喪失です」
1- 20
770: ◆ZS3MUpa49nlt[saga]
2022/01/15(土) 23:48:21.58 ID:2z6G7I5Go


一方通行『……ここはどこだ? 俺は何をしていた?』


 一方通行は寝起きのようにぼーっとした表情で辺りを見回した。
 狭い通路のようだった。四、五メートルほどの幅で、長さは端から端まで二〇メートルくらいあるだろうか。
 通路の左右にある壁のようなところには、等間隔で扉のようなものが取り付けられていた。

 先ほどから『のような』と曖昧な表現をしているが、それには理由がある。
 この目に映る景色はたしかにそれらの物だったが、それぞれの物の輪郭がゆらゆらと揺れていた。
 まるで陽炎のようだ。触ったら消えてしまいそうな、本当はここに何もないのかと思えるような。

 曖昧な世界の中には一方通行以外の人がいた。
 いや、人と称するのは間違いかもしれない。その人影一つ一つの輪郭も揺らめいていたのだから。
 人影はたくさんあった。しかし、ほとんどの影は輪郭だけで中身が見えない。黒で塗り潰した塗り絵のシルエットのように。
 そんな中でも、輪郭をぼやけさせながらも色を付けていた影が五つあった。


 一人は肩にかかるくらいの白髪を生やした線の細い少年のような影だった。
 左手を広げ、正面に腕を伸ばして何かに向けてかざしているような格好をしている。
 背中からはドス黒い竜巻のような噴射する翼が一対天井へと伸びていた。

 一人は金髪にサングラスをかけた少年の影だった。
 先ほどの白い少年に何かを喋りかけている様子だった。
 しかし、それに白い少年は見向きもしていない。

 一人は赤髪を腰まで伸ばした少女の影だった。
 床に投げ出されたようにうつ伏せで地面へ横たわっており、無理やり顔を上に上げて白い少年を見ている。
 その表情は、不安や困惑といったものが入り混じったように見える。

 一人は筋肉質で長身な女な女の影だった。
 白い少年の向いている方向。白い少年が手をかざしている方向を見て、恐怖で歪めた表情をしている。

 一人は熊のような大男の影だった。
 通路の端の壁に大の字のような体勢で、何かに強力な力で押さえつけられているように貼り付けられていた。
 苦痛を味わっているのか、白目をむくように目を大きく見開いていて、舌を揺らしながら大口開けて絶叫しているようだった。


一方通行『……そォだ』


 一方通行はそれらを見て、特に最後に目を向けた熊のような大男の影を見てあることを思い出した。
 それは彼の使命。命を賭してやり遂げなければいけないこと。自分の存在意義。
 大男を見つめながら、彼は呟く。


一方通行は『俺は、アイツを殺さなければいけなかったンだ。俺は、アレを破壊しなければいけなかったンだ』


 どういう方法を取ればいいのか。何をすればあの男を壊せるのか。
 彼は何一つ思いつかなかった。
 だから、一方通行はただ一歩踏み出した。壁に貼り付いた大男に向かって。

 すると、ある変化が見られた。
 ただでさえ苦痛で歪んだ男の表情が、さらに大きく歪んだのだ。





<<前のレス[*]次のレス[#]>>
841Res/1732.47 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice