結標「私は結標淡希。記憶喪失です」
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761: ◆ZS3MUpa49nlt[saga]
2022/01/15(土) 23:41:06.83 ID:2z6G7I5Go


 怪訝な表情をする博士。駅前で裸踊りをしている男を見るかのような目だ。
 しかし、数多は気にせず続ける。


数多「あれってな、手玉の形や重さ、キューの先端の硬さや摩耗率、並んだ一五個の玉の位置関係、細かい反射角やその場の空気の流れ、テーブルの上に乗るチリ一つ一つ」

数多「他にもいろいろあるが、そういうのきちんと計算すれば誰でも一発で一五個の玉を、全てポケットに落としてやることができるんだぜ?」


 数多はウンチクでも語っているように得意げな表情をする。
 その意図がわからない博士は解せない様子で、


博士「だからそれが何だというのだね? 君はもうその楽しいゲームすら出来なくなる。それくらいわか――」


 ゾクリ、と博士は背筋が凍るような感覚が走った。
 博士は前方一〇メートル先にいる数多を見る。
 彼の表情が一変した。
 先ほどの趣味の話を活き活きと語る男の顔から、『木原』特有の実験動物を見るような禍々しい顔へ。


数多「俺は力の制御に関する天才だ。金槌のような打撃を電子顕微鏡レベルの精密さで操作できるし、ある程度の外装の機械なら、殴った衝撃を弄って中身のCPU部分だけを破壊することだってできる」


 手につけた機械的なグローブ。マイクロマニピュレーターをガチャガチャと動かしながら。



数多「――それが『木原』だ」



 危機感を覚えた博士は、手に持った端末を操作する。
 一秒後、オジギソウが木原数多を包み込み、骨と衣服だけを残して分解するように。

 だが、それより早く木原数多が動く。
 腕が消えたと錯覚するような速度で、何もないように見える空間を殴りつけた。
 凄まじい拳圧だったのか、一〇メートル先にいる博士の頬をそよ風のような冷ややかさが撫でた。


 一秒後。


博士「……そ、そんな馬鹿な」


 博士は何度も瞬きをする。目を擦る。目を凝らす。
 しかし、彼の見る景色は何一つ変わらなかった。

 木原数多が存在していた。
 全身の肉が毟られ、骨と衣服だけ残して消えるはずだった男が。何一つ変わることなく。彼の目に映り続けた。


博士「なぜ貴様が生きている!? なぜオジギソウが効いていないんだ!?」


 手に持った端末の画面を見た。この画面にはオジギソウの稼働状況が表示されている。
 折れ線グラフや数字の羅列、散布状況をモニタリングするレーダーのようなもの配置されていた。
 それらを見て、博士は額に嫌な汗がにじみ出る。


博士「オジギソウが、全て工場の外へ流れ出ている、だと……?」


 オジギソウの散布状況を表すレーダーが、博士から一〇〇メートル以上離れた位置に、何十グループに分かれて配置されていることを示していた。
 どういうことだ、と博士はオジギソウの移動履歴のデータを確認する。
 それを見ると、たしかについ数秒前までは木原数多の周囲にオジギソウがいたことがわかる。
 しかし、数多が拳を空間に突き付けた時を境に、その状況は大きく変化していた。
 オジギソウたちが壁や天井に開いた数十の穴へ向けて、吸い込まれるように流れ出ていたのだ。
 きっかけは間違いない。木原数多の強打だ。

 そこで博士は思い出した。数多の言っていた無駄話の中にあった単語。『ビリヤード』。





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