結標「私は結標淡希。記憶喪失です」
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759: ◆ZS3MUpa49nlt[saga]
2022/01/15(土) 23:39:06.07 ID:2z6G7I5Go


S10.距離


 第七学区と第一〇学区の境界線にある、吹き抜けで一階と二階が繋がった大型の倉庫。建物内は荒れていた。
 爆風が巻き起こり、砂煙が舞い、建物は揺れ、金属と金属が激しくぶつかり合うような音が幾度とも鳴り、崩れた天井が次々と床へと落下していく。
 災害とも言えるような現象。これは一人の少女と、一〇〇にも近い数の機械の獣によって起こされたものだった。

 少女の方は木原円周。
 ロケットのような速度で床から壁へ、壁から天井へ、天井から床へと、高速移動し、機械の獣を追う。
 彼女の拳を受けた壁はガラスのようにひび割れ、彼女の蹴りを受けたコンテナは針で突かれた紙のように穴を開けた。
 自分の体を顧みず暴れるように動き回る少女だったが、その体には砂煙による汚れのようなものが見えるが、致命傷のような傷は一切負っていなかった。

 機械の獣の方は暗部組織『メンバー』で作られた犬型のロボット『T:GD(タイプ:グレートデーン)』。
 正確に言うなら、それの背中にガトリングレールガンという第三位のファイブオーバーを搭載した、『T:GD―C(タイプ:グレートデーンカスタム)』。
 一〇〇近い数の方向から単発でも戦車の装甲さえ貫通し、破壊する砲弾が毎分四〇〇〇発という嵐のような攻撃が発射されるという脅威。
 それが発射される度に空気は振動し、射線にある障害物は全て吹き飛び、コンクリートの床を抉り取り、天井に大穴を開けた。

 二つの戦力がぶつかり合う中、倉庫の中心部に木原数多と博士が相対していた。
 周りの騒音を気に留めず、お互いに一〇メートル位の距離を空け、二人はただただ睨み合っている。
 二人のいる空間だけは、なぜか静寂だった。
 床は傷一つない綺麗なままだし、倉庫内を飛び交う破片は落ちず、砲弾がその一帯へ発射されることもない。

 安全地帯にいる博士が安全地帯にいる数多へと話しかける。


博士「くくっ、見事な位置取りだ。たしかにそこに居ればガトリングレールガンが発射されることはない。あの機械には私を巻き込まないようにする設定をしているからな」

数多「残念ながらそれだけじゃねえよ」


 笑みを浮かべながら数多が空を駆けている少女を指差す。


数多「あのガキは俺らを巻き込まねえように戦ってんだよ。どうすればこの一帯に傷がつかないようにするか、考え、工夫し、実行している。馬鹿馬鹿しいとは思うが、ヤツは今そういう『思考』を持ってんだ」


 博士もその少女のことを見ながら息を漏らす。


博士「しかし、あれは見事だな。まさか第一位の『FIVE_Over(ファイブオーバー)』が作られるとは。しかも、あんなに元の能力者の身体を維持した形で」

数多「はぁ? アレはそんな高尚なモンじゃねえよ。ただの子供の工作だ」


 面倒臭そうに数多は後頭部を掻く。


数多「大体、アレのどこがファイブオーバーだ? 第一位の能力を部分的に超えるどころか再現すら出来てねえじゃねえか。そう考えたら『アウトサイダー』にすら満たねえ欠陥品だよ」

博士「あれは木原円周が作ったのかね?」

数多「そうだな。せっかく第一位と接する機会が多くなったんだからな、って感じにな。ま、でもあれは作ったというよりは既存の技術を組み合わせただけのキメラだ。物理干渉電磁フィールド、慣性制御装置、反重力発生機、発条包帯――」


 その他二〇ほどの名前を言ってから、木原は億劫になったのか言うのをやめた。
 そもそもこんな話をしても何にもならない。本題に戻す。
 博士の側にある小さなコンテナの上へと横たわる少女を見る。


数多「随分と手の込んだことをしてんじゃねえか。今ごろほとんどのヤツらは座標移動(ムーブポイント)を中心に動き回ってるっつうのに、テメェらだけはそこで寝てるガキを狙うなんてな」

博士「何のことかね?」

数多「今第一〇学区の少年院でハシャイでいる『ブロック』とかいう連中、アイツらを焚き付けたのはテメェらだろ?」


 博士は不敵に笑う。





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