740: ◆ZS3MUpa49nlt[saga]
2022/01/08(土) 11:38:09.34 ID:Q+V+Oj11o
『スクール』に雇われている狙撃手、砂皿緻密は建設途中のビルにいた。
磁力狙撃砲を構え、スコープを覗き、何かをじっと見据えている。
彼の視線の先にあるのは少年院の正門だった。
このビルは少年院から大体五〇〇メートルくらい離れた位置にある。
ここからでは少年院の塀が邪魔をして敷地内までは見えないが、建物周辺の情報を探るのには十分な場所であった。
砂皿緻密の任務は外部からの侵入者の狙撃。『スクール』の害と為す者の排除。
先ほどまで少年院の裏門側にある似たような地形の建物に籠もり、五人ほどの狙撃し殺害したところだ。
スナイパーは位置をバレるわけにはいかない。そのため、砂皿は表門側にあるこのビルに移動をしたのだ。
砂皿(……今の所、外部から侵入しようとする者はいないか。こちら側はハズレだったか?)
表門側には人っ子一人いなかった。
裏門側にいたときは、頻繁に人が出入りしているのを見たからなおさら人通りがないように見える。
砂皿(任務の残り時間は五分もないか。しかし、また裏門側に戻る時間もあるまい)
安全のためとはいえ、狙撃場所を移動したことに若干の後悔を覚える砂皿。
そんな彼の覗いているスコープに一人の少女が映り込んだ。
肩まで伸ばした茶髪。手入れをしていないのか髪の毛の先があちこちへとハネていた。
野良犬のような鋭い目付きをした瞳の下には隈のようなものが見える。
砂皿(……あの女、裏の人間だな)
砂皿はスコープに映る少女のことを知らない。だが、薄汚い闇の世界に住み着く裏の住人だと一瞬で見抜いた。
理由は、彼女が少年院の正門から歩いて出てきたことを確認したからだ。
最初は脱獄犯か何かと思ったが、着ている服は囚人服ではなく白色の全身を包むような戦闘スーツのようなもの。
少年院に勤める警備兵かとも思ったが、銃火器も装備していないし、成人にも満たしていない幼い外見からそれはないと判断した。
砂皿(リストにない顔だな。ということは『グループ』の不明だった残り二人のうちどちらか、それ以外の誰かか……)
頭の中に記憶している暗部組織の構成員のリストと照合したが、あのような少女は見たことなかった。
しかし、砂皿はそんなことは気にもしていなかった。
砂皿(私の仕事は『スクール』に害を為す者の排除だ。その可能性のある者なら狙撃するだけだ。相手が誰だろうと関係はない)
砂皿は少女を狙撃するために周囲のビル風や空気抵抗などの計算をし、照準を合わせる。
スコープに映る少女はまるで目の前に立っているかのようにくっきりと見える。
この距離なら外すまい、と砂皿は引き金に指をかけた。
と。
スコープ越しに映る少女と目が合った。
一瞬目が合ったとかそんなものではなく、ハッキリとこちらを見るかのように、顔を正面に据えて、視線を向けてきた。
砂皿「ッ!?」
信じがたい出来事に砂皿は一瞬体がビクリと反応し、スコープから目を離してしまった。
砂皿の手にはじわりと嫌な汗がにじみ出てくる。
だが、彼もプロだ。すぐに息を整えて、狙撃の体勢へと戻り、スコープを覗き直す。
少女は何かをこちらに向けていた。
手だ。腕をこちらへ真っ直ぐと伸ばし、拳を握り締めるような形にして、親指と人差指の間に何かを挟み込むように持って。
真っ赤な舌で出して、舌舐めずりをした。
砂皿(……なんだあれは――)
砂皿がそれが何かを理解する前に、彼の視界がオレンジ色に染まった。
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