結標「私は結標淡希。記憶喪失です」
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722: ◆ZS3MUpa49nlt[saga]
2022/01/08(土) 11:21:01.86 ID:Q+V+Oj11o


 ひとしきり言うことを言って、佐久は左手を上げる。
 後ろにいた三人の下部組織の男たちが佐久の前に立った。手に持った機関銃を構え、照準を前方にいる一方通行へと定める。


佐久「好きな方を選びやがれ。鉛玉食らって蜂の巣になるか、一か八かチカラ使って自爆するか――」


手塩「…………」


 ブロックのもう一人の幹部、手塩が一方通行を観察するように眺めながら考える。
 最初から疑問だった。なぜ一方通行はこんなところに『来た』のか。いや、正確に言うと『来られた』のか、か。

 手塩はAIMジャマーについて詳しくは知らなかった。だからこの階層のAIMジャマーがどの程度の範囲に効果を及ばせているのか検討もつかない。
 完全にこの階層のみなのか、それとも上階にも影響があるのか。手塩の勝手な推測では前者と見ていた。

 その理由は一方通行が天井を突き破って現れたからだ。
 少年院の地下の階層を仕切る床や天井は核シェルターにも匹敵する強固な建材で作られている。能力者を収容する施設なため、そういった部分の耐久力にも力を入れているのだろう。
 普通の人間が使うような兵器では到底破壊できない天井。それこそ核ミサイルを何発も打ち込まないと破壊できない鉄壁。

 しかし、それはあくまで兵器での話だ。ベクトル操作という圧倒的なチカラを持った一方通行には関係のない話だ。
 彼が本気を出せば、そんな強固な壁もコピー用紙を破るかのような気軽さで打ち破ることができるだろう。
 ゆえに、一方通行は能力を使用して天井を破壊し、この階層へと侵入した。だから、上階にはAIMジャマーの効果は及んでいない。
 一見、筋の通っていそうな推測だ。が、手塩は納得していなかった。

 それは杖がないと歩けないような少年が、どうやって三メートル強の高さはある天井から安全に飛び降りたのか、という疑問が邪魔しているからだ。
 普通に考えればベクトル操作の能力を使って、姿勢を制御して着地したと考えるのが妥当だろう。
 しかし、忘れてはいけないことがある。この階層はAIMジャマーの効力の範囲内ということだ。おそらくこの床から天井に至るまで、通路全体へ広がっているだろう。
 そんな空間でベクトル操作の能力を使用してしまえば、先ほど佐久が言ったように制御がうまく出来ず、安全に着地が出来ないどころか手足が吹っ飛んだりするかもしれない。

 あの少年は一体、どうやって安全に着地したのか。
 実はあの杖はフェイクで普通に動けるのか? AIMジャマー下で能力を使用してたまたまうまく制御できただけなのか?
 手塩の中で仮説じみた疑問が次々と浮かんでくる。しかしそれらの疑問は、次に行った一方通行のある行動を見ることで、全て吹き飛び、正解が頭だけに残った。


 一方通行は笑ったのだ。わずかにだが。口の端を引き裂くように。


手塩「――待て!! 罠だ佐久ッ!!」


 手塩はとっさに反応し、佐久に銃撃を止めさせようとする。
 だが、すでに佐久の左手が降ろされていた。ブロックの中で使われている『射撃しろ』のハンドサイン。


 ズガガガガガガガガ!!


 おびただしい数の銃声とともに、三つの銃口から弾丸が斉射される。
 銃弾の到達地点は当然一方通行。訓練された兵士たちによる射撃。決して外すことはない。
 一方通行は『避けることが出来ない』のか、ただその場に立ち尽くしていた。
 いや、違う。


 あれは『避けようとしていない』――。


 ガシャシャシャン!! と何かが砕け散るような音が手塩の耳に飛び込んできた。
 目の前に立っていた三人の部下たちが、銃を持っている方の腕を抑えながら、うずくまるように地面に倒れる。声にならないような声を喉で鳴らす。
 彼らの腕から機関銃が消えていた。その代わりなのか、彼らの足元には大量の鉄くずと赤い液体が広がっている。
 それらを見て音の正体がわかる。先程まで獣の咆哮のような音を上げながら銃弾を吐き出していた、三人の部下が持っている機関銃がバラバラに破壊された音だったのだ。

 床に散らばった機関銃のパーツを見る。その中に明らかに使用済みの弾丸のようなものが数え切れないほどの数転がっていた。
 その弾丸を見て手塩は気付く。これはあの機関銃で使われている物だ。

 手塩は全てを理解した。この場で何が起こったのかを。
 彼女が口からそれを発しようとする。しかし、手塩より早く隣に立っていた佐久が叫ぶ。





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