714: ◆ZS3MUpa49nlt[saga]
2022/01/01(土) 12:01:43.59 ID:31eSI50lo
少年院の遥か地下にある独房。その前にある細い通路に熊のような大男と長身の女、数人の武装した男たちが立っている。
その通路の床には一〇もいかない数の人が倒れていた。ほとんどが武装した男たちだ。
腹部や脚部に金属矢や割れた蛍光灯等の物体が突き刺さっていて、痛みで気絶したり動けないといった様子だった。
そんな中を、うつ伏せ気味に床で倒れている少女が一人。
結標淡希。座標移動(ムーブポイント)と呼ばれる少女。
いつもは二つに束ねている長い赤髪が、ヘアゴムが切れたのか無造作に背中に広がっていた。
元から傷だらけだった体に追い打ちを掛けられたように、新しい切り傷や打撲痕が目立つ。
いや、それらの傷が目立つと表現するのは間違いか。
なぜなら一番目立つ彼女の外傷は、体のいたる所に突き刺さっている金属矢なのだから。
長身の女、手塩が倒れている少女を見下ろしながら、
手塩「……随分と、手こずらせてくれたな」
熊のような大男、佐久が腕に刺さっていた金属矢を引き抜きながら、
佐久「痛ってえなぁ。あちらこちらへ物質転移しやがって、このクソガキが」
手塩「だが、もう能力を使う体力さえ、残っていまい」
佐久「そうだな。つーわけで、さっさとコイツ連れてトンズラと行くか。おい、お前ら拘束して連れてこい」
佐久のひと声で暗部組織ブロックの下部組織の男たちが動き出した。
一人の男の手には拘束具のようなものが握られている。結標を捕獲するために用意された空間移動能力者専用の拘束具だ。
結標「…………」
結標は薄れた意識の中、冷たい床を肌で感じながらボンヤリと考えていた。
『疲れた。もう指一本動かせない』。
全身は傷だらけだがもはや痛みさえ感じない。
『私、十分頑張ったよね。よくやったほうだよね』。
単身でいろいろな場所に乗り込んで、情報を探し回って、ここまでたどり着くことが出来た。健闘したほうだ。
『ごめんねみんな。助けられないで。ごめんねみんな。こんなダメなリーダーで』。
思い返してみる。彼ら彼女らに何もしてあげられなかった。最後の少女の『逃げて』という願いにさえも。
目の前にあった床が離れていく。体が抱え上げられたのだろう。
おそらく、拘束されてどこかしらに連れて行かれる。その先は地獄かそれより惨たらしい世界か。
恐怖や憎しみ、悔しさ等の負の感情が巻き起こるような状況だったが、結標はそうではなかった。
それだけのことをしてきた。こんな扱いを受けてもしょうがない。それをわかった上でこれまで行動してきたつもりだ。
後悔などはしていない、と結標は全てを受け入れるつもりでいた。
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