結標「私は結標淡希。記憶喪失です」
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685: ◆ZS3MUpa49nlt[saga]
2021/12/26(日) 00:45:28.81 ID:Ud1c3PHRo
 
 
 超能力者(レベル5)? 自分が? 何で? 次々と疑問符が湧いてくる。
 たしかに一時期、次期レベル5だとか言われて持て囃されていた時期があった。
 その時は自分もそうなんだろう、そうなるのだろうといい気になっていたと思う。
 
 そんな話はある日を堺に聞かなくなった。それは二年前。
 自分自身の身体を密室へ転移させるというカリキュラムを行ったときからだ。
 結果から言うなら、それは失敗した。演算ミスをして自分の足を床に突っ込んでしまうという大事故を起こして。
 その事故がトラウマとなり、自分自身の転移を躊躇うようになり、自由に行えなくなった。
 だから座標移動(ムーブポイント)はこう評価される。出力だけは超能力(レベル5)級の大能力者(レベル4)として。
 
 そこであることを思い出した。つい先程のことだ。
 当時は無我夢中になっていたから気が付かなかったが。
 三人の恐怖から逃げるとき、たしかに自分は使っていた。
 トラウマによってろくに使えなかった自分自身の転移を。それも連続で。
 そんなことを行えば身体に大きな負担がかかり、胃の中にあるものを全て吐き出すなんてことがあってもおかしくなかったはずだ。
 あまりの恐怖にそれさえ気付かなかったのか、と適当に推測した。
 
 確認しなければ、と決意する。
 試しに自分自身の転移を行ってみようと思った。
 部屋の中から外のベランダまで。距離にして五メートルくらいか。
 自分の知っている座標移動なら、この程度の距離でも転移しただけで胃液がこみ上げてくる感覚を覚えるだろう。
 
 ゴクリとつばを飲み込み、身構えて、頭の中で公式を組み立てる。
 そして。
 
 跳ぶ。
 
 一瞬で、自分の体は外のベランダへと立っていた。
 襲ってくるはずの吐き気に備え、身体が強ばる。
 
 ――――しかし、その吐き気は一向に姿を見せなかった。
 
 おかしいと思い、今度はベランダから部屋の中へ、さっき自分がいた位置へと転移する。
 問題なく転移が完了し、部屋の中へと跳んだ。やはり何も起こらない。
 
 トラウマはある。あのときの記憶がなくなったわけじゃない。
 そのときの光景や痛み、恐怖心は今でも覚えている。脳裏にこびり付くように。片時も忘れたことはない。
 なら、なぜ自分自身の転移が容易に行えるようになっているのか。
 わからない。
 けど、一つだけ言えることがある。
 
 自分はトラウマを乗り越えていた。自分の知らないうちに。
 
 そこで思い出すのが、先程見た超能力者(レベル5)という知らないうちにもらった称号。
 おそらく自分の知らないうちに自分はトラウマを克服して、それを勝ち取ったのだろう。
 
 知らないうち。つまり、それは九月一四日から現在に至るまでの空白の期間。
 ここで気付く。
 
 『私は記憶喪失になっている』と。
 
 なぜ自分が記憶喪失になっているのか。さらなる疑問が溢れ出てくる。
 そんなことはいくら考えても答えが出るわけじゃない。だから、今することはそんなことを考えることじゃない。
 とにかく、今自分は何をするべきなのかを考えるべきだ。
 考える。それは真っ先に思いついた。
 それはやるべきことなどという使命めいたものではなく、やりたいことという願望。
 
 ――今まで一緒にやってきた『仲間』たちに会いたい。
 
 彼ら彼女たちが今どこで何をしているのか。
 全く検討は付かない。けど、この隠れ家がまったく使われていないところからして、以前のような活動はしていないのだと推測できる。
 どうやって探す。手がかりのまったくない状況で。
 
 ふと思い出す。自分が超能力者(レベル5)ということを。
 レベル5というものはただチカラが強ければなれるものではない。現に出力だけは強大だった座標移動はレベル4止まりだったのだから。
 そのチカラに研究価値があるかどうか。それもレベル5として必要な条件の一つだ。
 上層部が座標移動に研究価値が見出した。だからレベル5になれた。そう考える。
 
 
 


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