結標「私は結標淡希。記憶喪失です」
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680: ◆ZS3MUpa49nlt[saga]
2021/12/26(日) 00:31:11.69 ID:Ud1c3PHRo


 アイテムの隠れ家である個室ラウンジにあるシャワー室。
 麦野はそこで一人シャワーを浴びていた。
 少し熱めのお湯を浴びながら麦野はある記憶を思い起こす。
 櫻井通信機器開発所で自分に立ちふさがった上条とかいう少年のことを。

 ドゴッ!!

 壁に向かって拳を突き立てた。
 外観は特に変化はなかったが、壁の中からミシミシというひび割れるような音が鳴る。
 拳を紅く染めながら麦野は怒りで震えた声を漏らす。


麦野「……糞がッ」

 
 勝てる戦いだった。負けるはずのない戦いだった。
 相手はただの喧嘩っ早いだけのガキ。パンチの打ち方も知らないような、人の殺し方も知らないような小僧。
 実力の差はプロボクサーとそこらにいる不良学生くらいはあった。

 だが、麦野は敗北した。
 屈辱だった。何より負けたことより、こうやって敗北したのに生かされているということに。
 プライドの高い麦野にとってそれは、陵辱されて女の尊厳を奪われること以上に屈辱的だった。

 彼女は敗北した理由を自分なりに分析する。
 原子崩し(メルトダウナー)という超能力(レベル5)を打ち消せる謎の右手。
 麦野の必殺のチカラもその右手に遮られることで全て無に帰する。
 全てを貫通し焼き尽くす粒機波形高速砲も、どんな物質も通さず崩壊させる電子線の楯も。

 しかし、麦野にとってそれは驚異にはなりえなかったはずだった。

 麦野沈利は卓越した身体能力を持っている。
 蹴り一発で数メートル飛ばせる怪力。暗部で培った戦闘技術。急所を狙うことをいとわない精神力。
 並大抵の格闘家程度なら能力など使わなくても容易にねじ伏せることができる。
 普通に殴り合えば麦野が負ける要素は皆無だったということになる。

 そう、『普通』に殴り合えば。

 麦野は上条との戦いで原子崩しというイレギュラーを介入させてしまった。
 純粋な肉弾戦から能力という不純物が混じった戦いへ。
 そこに付け入る隙を与えてしまったということだ。

 結果的に見れば麦野沈利は『油断』していたということになるのだろう。
 自分の超能力(レベル5)を見せびらかすように、使わなくもいいチカラを使ってしまったということなのだから。


麦野「――糞がァ!!」


 その事実に気づいた麦野は歯ぎしりさせながら頭を掻きむしる。
 シャワーを止めたあと、個室のドアを蹴り開けた。
 鍵が掛かっていた上、想定されていない衝撃が走ったためか。ドアはハンマーで殴られたように砕け飛んだ。
 畳まれておいてあったタオルを一枚引っ張るように取り、それで濡れた頭を乱雑に拭く。

 そんな中、置いてあった麦野の手荷物から電子音が鳴った。

 ピピピッ! ピピピッ!

 麦野の携帯端末の着信音だった。
 甲高い音にイラつかせながら麦野は端末を濡れた手のまま取り、画面を見る。


麦野「……チッ」


 『非通知』。
 その三文字だけで誰からの電話か麦野は瞬時に理解した。だから舌打ちをした。
 通話ボタンを押して、携帯端末を耳に当てる。


????『おつかれー! ちょっと電話いいー? まあ良くなくても続けるけどー』

麦野「だったら聞いてくんじゃねえっつーの」


 女の声だった。電話の主は麦野たちが電話の女と呼称する『アイテム』の指令役の女。
 飄々とした喋り方だが、彼女が暗部組織を操っている者だという事実に変わりはない。





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