676: ◆ZS3MUpa49nlt[saga]
2021/12/26(日) 00:20:31.34 ID:Ud1c3PHRo
とある高級ホテル(美琴いわく普通のホテル)の七階にある一室。
そのバルコニーにある椅子へ座りながら御坂美琴が携帯電話の画面を眺めていた。
体が火照っていて髪の毛が微妙に湿っており、寝間着を着ていることから入浴後だということがわかる。
美琴(……大丈夫かしら、アイツ)
携帯電話の画面には『一方通行』の文字。
裏の世界へと姿を消した結標淡希を追っていった少年。
美琴の今の役割は彼から預かった打ち止めという少女の面倒を見ること。
美琴(初春さんがあれだけ頑張ってやっと手がかりを掴めたものを、アイツ一人でどうにかしようなんて……)
正直無理だろうと美琴は思った。
一方通行のベクトル操作はたしかに優秀な能力だ。
しかし、それはあくまでベクトルを介する事象にだけ通用する。情報収集などというベクトルが一切関わらないものには役に立たない。
今彼はろくな手がかりをも掴めずにもがき苦しんでいるのではないか。
どうしようもない状況で途方に暮れているのではないか。
だから美琴は少年に電話をかけようと考えた。どういう状況なのかを確認するために。
しかし、美琴は通話ボタンを押せない。
美琴(もし、もしこの電話をかけて、さっき思ったような状況になっていたら……?)
ゴクリとつばを飲む。
美琴(私は一体なんて声をかけてやればいいの? 頑張れ? 負けるな?)
そんな安っぽい言葉をかけて何になるんだ、と美琴は顔を曇らせる。
美琴(今さらだけど手伝ってあげようか、とか?)
いや、それこそない、と美琴は即座に否定した。
そもそも彼はなぜ一人で行ったのか。
それは他の人を巻き込むわけにはいかないと考えての行動だろう。
この事情を美琴と黒子に話した時、他の連中へ話すなと念を押していたことからわかる。
しかし、美琴はある考えが浮かぶ。
要するに彼は一人で全てを抱え込んでいる状況に陥っているのだ。
忌まわしいあの最悪の実験を止めるために奔走していたときの自分を、美琴は思い出していた。
あのとき、とある少年が声をかけてくれなかったら、今の自分はいなかっただろう。
そう考えたとき、美琴の指は自然と動いた。
841Res/1732.47 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20