639: ◆ZS3MUpa49nlt[saga]
2021/12/18(土) 23:08:53.84 ID:loyT3wilo
かつての結標淡希と親交のあったものたちの名前が並ぶ。
携帯端末の電話帳に登録されている名前を片っ端から読み上げているのだろう。
結標「私の知っている名前の人なんて誰一人いないわ。そんなところに帰って一体何になるというのかしら?」
上条「……そう、だよな。お前は記憶が戻って……、記憶がないんだよな。この半年間の」
結標「ええそうよ。だから無意味なのよ。貴方のしようとしていることは」
上条「…………」
上条の表情が曇る。
たしかに結標の言うことは正論だ。
彼女からするなら初対面の人しかいない場所へ、得体のしれない人間しかいない場所へ連れて行かれようとしているのと同意義だ。
だが、上条は話すことをやめない。
上条「なあ、結標。なんつうか、すっげえ個人的な話なんだけど、聞いてくれないか?」
結標「嫌よ。これ以上貴方との茶番を続けるつもりはないわ。ここから立ち去らせてもらうから」
結標は上条に背を向け、反対側の出口へと足を進める。
そんな結標に気を止めず、上条は恐る恐る、だけど彼女には聞こえるようにしっかりとした声で、
上条「――実は、俺も記憶喪失なんだよ! 去年の七月の終わり頃、それ以前の記憶がねえんだ!」
言った。
墓場まで持っていこうと思っていた秘密を、上条当麻はここで打ち明けた。
絶対に誰にもバレてはいけないと隠し続けていた、その秘密を。
上条の明かした真実を聞き、結標は足を止めた。
結標「へー、そうなんだ」
体ごと振り返り、
結標「で、それがなに? 同じ記憶喪失者だから私の気持ちが分かるとか言うつもり? もしそうならやめてもらえるかしら? 反吐が出る」
結標は吐き捨てるように言って、一蹴した。
が、
上条「言わねえよ。そんな自惚れたような言葉」
上条は静かに否定する。
そのまま語りかけるように続ける。
上条「記憶を失ったときにさ、自分が何者なのかもわからなくて、これから俺はどうすればいいんだよって不安に駆られてたんだ」
上条「そこで俺はある女の子に出会ったんだ。その子は俺が記憶喪失になる前からの知り合いだった」
上条は純白の修道服を着た銀髪碧眼の少女を思い出す。あのときの病室を思い出す。
上条「その子は俺が記憶喪失だって知って泣いてくれたんだよ。まるで自分のことかのように、大粒の涙を流しながら。それで俺はとっさに嘘を付いちまったんだ。記憶喪失なんてしてないぜ、って。何でだと思う?」
結標「…………」
上条の問いかけに結標は答えない。
だが、彼女の瞳はたしかに上条当麻を見ている。
上条「俺はそのとき思ったんだ。あの子には泣いて欲しくないって、あの子を泣かせちゃいけないって」
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