9:名無しNIPPER[saga]
2021/05/16(日) 20:12:02.34 ID:emsexCaj0
「君は私が来るたびに心配事を言う」
タキオンは病室に来ると、だいたい近況について話す。
そうすると、トレーナーはいつも、タキオンが真面目に練習をしているか、
新しいトレーナーの言うことをちゃんと聞いているか、確認してくる。
「少しは私のことを信用して欲しいのに」
タキオンがわざとらしく悲し気な顔をして見せると、トレーナーはハッと表情を変えて、信頼してるとタキオンに真面目な顔で告げた。
そして、慌てて違う話に変えてくれる。
ふっふっと、思い通りのトレーナーの反応を見て、タキオンはたまらなく笑ってしまった。
ああ。
私が悲しんで見せたら、どんなに怪しい薬でも、トレーナー君はすぐに飲んでくれたっけ。
本当に、私のことが好きでたまらなくて、愛すべきほどに愚直な、私の、トレーナー。
私の、トレーナーだった、人。
「…少し、痩せたね。トレーナー君」
表情が、どこか頼りない。入院着の袖から覗く腕が細く見える。
「食事はちゃんと食べているのかい?味気なくとも食べなくてはいけないよ。ここのはきちんと栄養を考えて作られているんだから」
もどかしい。
「ああ、それとも私が作ってあげようか。とびきり栄養のいいものを用意できるよ」
トレーナーが笑う。
「抜群に元気がでる薬さ。なんなら、そのまま…」
いつものように軽口を叩こうとして、少し言葉が詰まった。
「…そのまま、走り出して、病院から飛び出てしまうかもね」
不味くて?と、トレーナーがからかうように言うので、「味は保証できないね」と、答えた。
それはそれで、元気が出そうだね、と、トレーナーがクスクスと笑った。
タキオンは、薄笑いを続けていた。
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