高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「『あいこカフェ』で」
1- 20
28:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:45:07.47 ID:eE/KPeRw0
 バックヤードへ駆け込んだ藍子の姿を、お客さんも目で追っていた。午前に当たりをつけてやってきた人達は、残念ながらカフェのルールで退席済み。店内の、特に長机には空席が目立つ。
 残ったラッキーな人達、あるいは正解を見つけられた人達は、スタッフさんのアナウンスに色めきだつ。くつろぎスペースでおひるねしていた人は足音で目覚め、来た時には無かった音楽器具やマイクに目を丸くしているようだった。

 ひょっとしたら、告知を見ていない人だっているかもしれない。

 いや、見ていても、ライブを聴きに来たという心づもりのなかった人もいる。

 どんなお客さんが来るかは、その日の気分次第――。

 それでもカフェは、たくさんのお客さんを笑顔にして、1人でも多くの人に癒やしを届けるためにありとあらゆる工夫をする。すべての価値観に合わせることはできないから、時に自分から作り出す。いつものカフェの限定メニューなんかがまさにそれ。『あいこカフェ』では、それがミニライブだった。

「みなさんっ。ごゆっくりされているところ、失礼します」

 その気がなかったお客さんも、藍子が呼びかければ視線を向ける。彼女が上がっているのはミニステージ――と呼ぶのさえ違うと思ってしまいそうな、ただの平べったい台だった。高さもたかが数センチ。このあいだ事務所で起きたブーム――あるランウェイの主役に抜擢された子のレッスンから始まったハイヒール・チャレンジの最中に藍子が履いた時の身長変化と、ほとんど変わらないかもしれない。それでも最後尾の人にまで声を届ける。声色は優しく、眠っている人は起こしてしまわないよう――いや、鼓膜を揺らしながらも眠らせ続ける、夢に出演するような絶妙なバランス。それが藍子の、アイドルとしての姿だった。

「急に決まったことですけれど、私もアイドルですから……1曲だけ、歌わせてくださいっ」

 コールを求める前フリ。ここはカフェだから、感情を吐露する叫声ではなく、声ですらない。ほっこりとした笑顔が店内に満ちる。


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
43Res/82.00 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice