5:名無しNIPPER
2021/05/03(月) 12:11:05.65 ID:fXMEQlMj0
「ほらよ。これが図書カードだ。」
結局、彼が職員の方に掛け合ってくれて、
図書カードを作ってくれた。
少しずつ頭が冷静になってきた。
彼は5組の前を通るときに、時折見かけた。
確か、朝倉さんと同じクラスだった筈だ。キョンという名前で呼ばれていたと思う。
「とりあえず本を借りられてよかったな。」
肩を竦め、僅かに微笑みながら、
彼はそう言った。
倦怠と困惑と親愛が入り混じるその微笑みは、
なぜだかとても見覚えがあった。
「・・・・」
その微笑みの前に、私は何も言えなかった。
頬がにわかに熱を帯び始めた。
初めて味わうこの熱に、
私が一人困惑していると、
「そろそろ行くよ。邪魔したな。」
彼は片手をヒラリと挙げて、背を向けて歩き出した。
「・・・・・あ。」
結局、彼と碌に会話も出来なかった。
何も喋らない私と一緒にいるのが気まずかったのかもしれない。
そう思い、自分の人見知りで、勇気がない性格に嫌気がさした。
「・・・・ありがとう。」
この言葉さえ言えなかった。
今度、彼と会うときに、必ず言おう。
代わり映えのない私の生活に、
初めて出来たイレギュラーかもしれない。
不思議と嫌な感覚はなかった。
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